筋紡錘と腱紡錘の感覚刺激はそれぞれ違っている
上の表は筋紡錘と腱紡錘の機能を簡単にまとめたものです。
ここで注目するのは、筋紡錘は「長さ変化」に対して刺激が生じるのに対し、腱紡錘は「張力の変化」に反応するということだと考えます。
運動を行なっている際は常に筋肉は長さの変化があり、それによって末端にある腱への張力が変化しそれによって筋緊張をモニターすることになります。
これは筋緊張のメカニズムを簡単に示した図になります。
筋の張力は大脳運動野からの出力細胞の発火頻度に比例することが報告されており1)、γ運動繊維を介して筋紡錘の感受性がコントロールされます2)。筋紡錘の中にある錘内筋の収縮が生じることで、筋紡錘の長さが変化しそこから伸長反射のメカニズムが起こることになります。ここで筋全体に過剰なストレスがかかる前に腱紡錘の張力変化に伴うIb抑制が行われるということになります。
本来はここに相反抑制や、レンショウ細胞による反回抑制なども筋緊張に影響を及ぼしますが、それはまた別の機会に説明をしたいと思います。
ただ前述の通り、筋緊張の変化は上位中枢に大きく依存することになるということが大前提です。
どれくらいの刺激で腱紡錘は興奮するのか?
筋緊張(筋張力)が高い状態のままでは、小さな刺激でもすぐに筋収縮が生じるため、ストレッチやマッサージなどのさまざまな介入を行うことが多いです。そうすることで筋肉の硬さの改善、や筋の緊張が落ちていくことにつながっていきます。その中でもストレッチは腱紡錘への刺激によるIb抑制を用いた介入方法になります。
では腱紡錘の刺激はどの程度かかると興奮するのでしょうか?
古い文献ですがHoukらの報告では、椎弓切除・腰椎7番〜仙椎1番の前根と後根を除去・左下肢と臀部を脱神経状態してヒラメ筋のみ神経が付着している状態にしたネコを対象に腱紡錘の電位を記録した実験を行い、筋繊維に対して160gの他動張力がかかった際よりも筋収縮による18gの張力の方で発火頻度が高い筋繊維があったとしています3)。
ここから考えられるのは、スタティックストレッチよりも筋収縮を用いた方がIb抑制がかかるということが考えられます。つまり遠心性収縮であったり、ダイナミックなストレッチ方法を行うことがよりベターという可能性があります。
またShafferらの報告では腱紡錘(ゴルジ腱器官)は1g以下の張力を感知するほどの感度の高い組織で、筋の収縮と他動的な伸長のどちらにも反応するとしています4)。
つまり、動作を行う中でハンドリングを加える際に筋の緊張を少し調整したい場合は筋腱移行部付近をダイレクトに伸長する事で、張力変化による腱紡錘の興奮を促すことが可能ではと考えられます。
もちろん筋紡錘も長さの変化に反応するので、筋肉に対して直接上記のようなダイレクトなストレッチやマッサージ、筋繊維を把持することで感覚入力をする方法も一つだと考えられますが腱紡錘の部分にも着目することでより臨床の幅が広がると考えられます。
【参考文献】 1)Cheney PD,et al: Functional classes of primate corticomotoneuronal cells and their relation of active force. J Neurophysiol 44: 773-791, 1980 2)岩村吉晃: 神経心理学コレクション. タッチ. 医学書院, 2001, pp216 3)Houk J, et al: Responses of Golgi tendon organs to active contractions of the soleus muscle of the cat. J Neurophysiol. 30 :466-81, 1967 4)Shaffer SW, et al: Aging of the somatosensory system: a translational perspective. Phys Ther. 87 :193-207. 2007
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