屈筋腱断裂術後のハンドセラピィに必要な評価

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竹林崇 大阪府立大学 教授

手は複雑な動きを有しておりそれにより巧緻動作や様々な道具を使用することが可能である.手を評価する際には基本機能,作業能力,社会的不利の3つの側面より評価することが重要とされている.本コラムでは,上記の3つの側面からの評価に加え,屈筋腱断裂術後のハンドセラピィを行っていくうえで必要な評価についても解説していく.

手の役割と機能障害からみた評価の必要性

手は複雑な動きを伴い、多くの役割を担っている.手の機能的役割として、①支持、②保護、③到達、④操作、⑤表現、⑥その他といった役割がある1).そのため、外傷等で損傷を受けると機能障害により日常生活や仕事、QOL低下につながる.手の機能障害には基本機能障害(Impairment)、作業能力低下(Disability)、社会的不利(Hnadicap)の3つに分類される2).

これらは1980年に発表されたWHO国際機能障害分類(International Classification of Impairment、Disability and Hadicap:ICIDH)3)と類似した概念であり、現在では2001年に国際生活機能分類(International Classification of Functioning,Disability and Health:ICF)3)として基本機能障害は心身機能・身体構造、作業能力低下は活動、社会的不利は参加に置き換えられている.基本的機能障害とは手の基本機能の障害または欠損、作業能力低下は作業能力の低下、不能を意味する.社会的不利とは基本的機能障害や作業能力低下により社会の中で劣勢に立たされ、不利を被る事態とされている2).家族の意向、年齢、性別、職業、社会的地位等に基づく思考や判断により変化し、障害受容度等の心理的側面の影響が多い2)と言われている.

これらの分類1つのみの評価では不十分であり、分類ごとの評価を行い、総合的に判断していく必要性がある(図1)。以下より、手の機能障害を分類別に具体的な評価について以下に述べていく。

図1 手の機能評価4)

評価前に必要な情報

上記に示した基本的機能障害、作業能力低下、社会的不利の分類別に評価を行っていく前に情報収集が必須である。腱損傷の術後は再断裂のリスクや拘縮を予測するためにも以下のような手術方法や損傷部位等について情報が必要となってくる。

1)受傷日と手術日 手術日を把握することで腱の癒合状況を判断し、ハンドセラピィを行ってく際に腱へかかる負荷量を考慮する必要がある。受傷日から手術日までの期間が予後に影響するとされており、手術の遅延は主要な合併症のリスクの増加と関連している5)。

2)受傷機転 鋭利損傷か非鋭利損傷かで、損傷腱の断端、縫合腱の緊張度合いに影響し、腱の欠損がある場合は腱移植術が必要となる。腱以外の軟部組織の損傷の有無の確認も必要であり、腱紐を損傷した場合は腱への血行が断たれてしまうため栄養状態や再断裂のリスク増加に関与する為確認が必要である。また、非鋭利損傷における挫滅損傷では滑動床(gliding floor)などの腱、関節の周囲組織の損傷が予後に影響するとされている。周囲の軟部組織損傷を把握し解剖学的役割を理解しておくことで早期から拘縮予防を行っていく事が重要である。

3)屈筋腱損傷区分 屈筋腱損傷には損傷区部(zone)があり、解剖学的な特徴が異なる(前コラム参照)。そのため損傷したzoneに応じた対応が必要である。

4)修復方法(手術方法) 腱の縫合方法を確認することで縫合部の強度を把握した上で主治医へ確認しハンドセラピーを進めていく。また,腱周囲の軟部組織の状況を確認する。

5)合併症の有無 腱損傷のみならず血管、神経、骨の損傷も伴った複合損傷の場合はハンドセラピィも複雑となってくるため注意が必要である。

6)性別、年齢、認知機能等 腱損傷では再断裂に注意しながらのアプローチが必須となってくる。そのためには対象者の理解が必要であり、認知医機能の低下や小児といった禁忌を守れない場合は固定法を選択することがある。

評価

1)基本的機能評価 基本的機能評価としてROM、筋力(MMT、握力、ピンチ力)、疼痛、感覚といった評価があげられる。筋力評価については縫合した腱の癒合が得られてくる術後12週より行うといった縫合部への負荷を考慮し、計画的に評価を行っていく必要がある。今回これらの評価以外に屈筋腱損傷後のハンドセラピィを行う上で必要となる評価について解説する。

①TAM(total active motion) 各指のMP、PIP、DIP関節の自動屈曲の総和より各関節での伸展不足角度を差し引いた数値である。伸展角度は最大0°のため過伸展は0°とする。 TAM=自動屈曲(MP+PIP+DIP)-自動伸展不足角度

②TPM(total passive motion) 各指のMP、PIP、DIP関節の自動屈曲の総和より各関節での伸展不足角度を差し引いた数値である。伸展角度は最大0°のため過伸展は0°とする。 TPM=他動屈曲(MP+PIP+DIP)-他動伸展不足角度

③PPD(pulp palm distance法、図2左) 手指屈曲時の指腹遠位1/3の部位から手掌皮線までの距離を計測する。

④table top法(図2右) テーブル上に手背を下にして置き、手指を伸展させる。伸展した手指指尖部までのテーブルからの距離を計測する。 図2 PPD/table top法

④%TAM 6) TAMを健側と比較することで筋・腱の機能度を示す。

⑤Buck-Gramcko法 6)

⑥Strickland法 6)

2)作業能力評価 ①DASH 日常生活における障害や環境との関わりによって捉えられる能力低下を評価する。30項目の質問に対し、5段階で回答する。標準値は存在せず、経過を追いながら点数の変化を捉える7)。

②STEF 上肢の動作能力を、動きの速度の面より把握が可能。10種類のサブテストからなり、大きさや形、重さ、素材の異なる物品を把持し、移動させ、離すといった一連の運搬動作の所要時間を測定する。100点満点中による得点を左右差で比較し、年齢階級別に示された正常域と比較が可能7)。

③パーデューペグボード検査 組立て作業やパッキング機械操作、手作業等を行う生産工場の従業員の巧緻性を評価するために開発された。手指の粗大運動と指尖つまみ等の操作性の2つを評価する。所定の物品を使用しペグを差し込んだり、組み立て作業を行う所要時間を計測する7)。

④ジョブセン・テーラー手機能検査 ADLで使用される手の動作を検査課題とすることにより、その手のカテゴリーにおける能力を評価する。7種類のサブテストから構成され、利き手、非利き手それぞれで課題を行う時間を測定する7)。

⑤オコナ―手指操作性検査 小さな物品を扱う作業における、迅速性、操作性等の作業能力を評価する。1度に3本ピンをつまみ、ペグ穴に挿す時間を測定する7)。

3)社会的役割評価 手の社会的役割として美的、心理的、経済的な役割があるとされている2)。多くはコミュニケーションで利用されることが多い4)とされているが、社会的役割は生活する社会の風俗や習慣、家族の意向、年齢、性格、職業、社会的地位等に基づく思考や判断により大きく変化するとされている2)。個人のQOL評価法として以下のSF-36等の患者立脚型評価法が知られているが、心理面を含む手の総合的な機能判定方法は確立されていない2)。

①SF-36 健康関連QOL尺度のひとつである。8つの健康概念を示す各位尺度を測定することで個々の症例に対する医療結果を検討が可能。

【共著】 中島 薫平(大手町リハビリテーション病院 リハビリテーション科)

【参考・引用文献】 1)山本伸一:作業療法における上肢機能アプローチ.三輪書店:2014,7-17 2)上羽康夫:手 その機能と解剖 改訂第5版.金芳堂:2010.21-26 3)中村隆一:入門リハビリテーション概論 第7版.医歯薬出版株式会社:2011.34-37 4)白石英樹:手の機能を評価するとは –手に関する様々な評価より-.バイオメカニズム学会誌:vol34,No4,2010 5)Aleksi Reito,Mari Manninen,Teemu Karjalainen:The Effect of Delay to Surgery on Major Complications after Primary Flexor Tnedon Repair.The Journal of Hand Surgery:Vol.24,No22,161-168,2019 6)日本手の外科学会編:手の機能評価表 第4版.日本手の外科学会:2006 7)日本作業療法士協会編:作業療法マニュアル33 ハンドセラピィ.日本作業療法士協会:23-25,2006

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