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屈筋腱断裂術後のハンドセラピィに必要な解剖学

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竹林崇 大阪府立大学 教授

本コラムでは,屈筋腱断裂術後のハンドセラピィを行っていくうえで必要な屈筋腱の構造を中心とした解剖学について論述していく.

目次

    はじめに

    屈筋腱断裂は手術侵襲の影響もあり可動域制限,握力低下,疼痛等の機能障害が出現する.そのため日常生活のみならずQOLにも多大な影響を与える.しかし,屈筋腱断裂術後のハンドセラピィにおいて確立されたエビデンスは少なく,Theun1)らは屈筋腱断裂後のハンドセラピィ介入について無作為比較試験(RCT)を行っている.その結果,ハンドセラピィに有意な改善は認められなかったと報告している.

    しかし,屈筋腱断裂術後のハンドセラピィにおいてRCTはほとんど存在しないことや手術手技とハンドセラピィプログラムが異なっていたため,グループ間の違いをハンドセラピィプログラムだけに帰着させることは困難であるといった限界を述べている.

    このように,明確なエビデンスは存在しないものの,医療者の経験的な観点から,対象者の目標を達成するためにアプローチが行われている現状がある.

    さて,早期からの拘縮予防や,拘縮除去を目的としたアプローチを行っていく事でuseful hand(使える手)の獲得を目指していくことが目標となってくる. これらを実施していく上で,解剖学の理解が必須となる.

    本コラムでは,屈筋腱やその周辺組織を中心とした解剖学について以下に述べていく.

    屈筋腱の構造


    図1 FDS,FDPの走行2)

    屈筋腱には浅指屈筋(以下,FDS)と深指屈筋(以下,FDP)がある.FDS,FDPはともに前腕近位部より起始し,第2~5指の中節骨,末節骨へ停止する(図1).

    FDSの主な機能はPIP関節の屈曲運動であるが,FDPとも分離しているためDIP関節と分離したPIP関節での単独屈曲が可能となっている.FDSは筋腹も各指で独立した構造を有しており,各指ごとに独立したPIP関節の単独屈曲が可能である.FDPの主な機能としてはDIP関節の屈曲運動であり,特徴としてFDSと異なる.示指FDPのみ筋腹は独立しており,中指~小指FDPは同一の筋腹のため示指以外は単独でのDIP屈曲運動は困難である.


    図2 腱の構造3) 縦・横断面/腱(膠原)線維束

    腱自体の構造としては筋と骨との間に介在する強い結合組織であり,平行して並ぶ腱(膠原)繊維束が主な構成組織となっている(図2).腱繊維束を囲むように腱細胞(繊維芽細胞)が存在しており,これらの細胞の働きにより腱繊維が生成されている.


    図3 腱と腱鞘2)


    図4 屈筋腱腱鞘と滑車2)

    腱の周囲には腱鞘が存在(図3)しており,滑液鞘と靭帯性腱鞘または滑車(pulley)とがある.滑液鞘は臓側層,壁側層がある.その間に滑液が存在していることで腱の滑動を容易にし,腱鞘内の腱の表層を栄養している.靭帯性腱鞘(図4)は手指が屈曲した際に腱が指骨から浮き上り(bowstrings)を防ぐ役割がある.機能上においては,特にA2,A4が特に重要とされている1).

    断裂した腱が修復していく過程で腱細胞が腱繊維を作り出すには十分な血流が供給されることが必要2)である.腱鞘に囲まれた部分の腱は腱間膜を介して血流を得ている(腱内血行,図3)が,腱には腱鞘が存在しない部分もあり,そこでは滑動床より腱紐(vinculum)の内部に存在する血管を介して血流を得ている(腱外血行).


    図5 vinculumと血管分布4)

    図5でも明らかのようにvinculumが付着する周辺領域では掌側2/3のみに血管網が存在し,背側1/3には血管は存在しない.そのため,実際の手術場面では屈筋腱の縫合を行う際は血流を阻害しないように深層を縫合糸で締め付けないように行われている2).

    Zone分類


    図6 屈筋腱損傷区分5)

    手の中で断裂した腱を修復する際にその予後は様々な要因により影響を受ける.損傷部位もその要因の1つであり,腱断裂の部位によい手術手技も異なり,術後成績も大きく左右される.屈筋腱の損傷部位は国際分類に従って手指及び母指を5つの区画に区分されている.これをZone分類という.

    各Zone別に解剖学的特徴が異なりハンドセラピィ戦略も異なってくる.そのためZone別の解剖学的特徴について表1を参考にして頂きたい.


    表1 Zoneの部位と特徴6)7)

    このようにZone別に解剖学的特徴が大きく異なる.そのためZone別の解剖学に留意したハンドセラピィ戦略が必要となってくる.

    【共著】
    中島薫平(大手町リハビリテーション病院 リハビリテーション科)

    【参考・引用文献】
    1)Theun B Thien,JeroenH Becker,Jean-Claude Theis:Rehabilitation after surgery for flexor tendon injuries in the hand.Cochrane Datebase Syst Rev:2010 Oct.
    2)上羽康夫:手 その機能と解剖(改訂5版).金芳堂:2010
    3)日本ハンドセラピィ学会編:ハンドセラピィ6 手指屈筋腱損傷Ⅰ.メディカルプレス:7-45
    4)阿部幸雄:指屈筋腱・伸筋腱損傷治療マニュアル.全日本病院出版会:vol29,1-8,2016
    5)飯塚照史,渡邊健太郎,村上恒二:ZoneⅡ屈筋腱断裂修復後の後療法の特徴に関する一考察.広大保健学ジャーナル:vol6,2006
    6)Verdan C:Primary repair of Flexor tendons.J Bone Joint Surg 42A:647,196.
    7)Cigdem Bircan et al:Functional Outcome in Patients With Zone V Flexor Tendon Injuries.Arch Orthop TraumaSurg:2005 Jul

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