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リハビリテーションにおけるセルフアウェアネスの重要性

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竹林崇 大阪府立大学 教授

本稿では,リハビリテーションを行なっていく上で重要と思われる,自身の行動を俯瞰視する『セルフアウェアネス』という能力の概念や関連する脳領域について,解説を行うこととする.

目次

    セルフアウェアネスとは

    セルフアウェアネスの低下は,脳損傷リハビリテーションにおける障害の1つであり,脳損傷の対象者の28〜97%1)がセルフアウェアネスの障害を有すると言われている.セルフアウェアネスの低下は,周囲や自身の問題点を含めた行動に対して,俯瞰視が不能となるため,自身の能力を過剰もしくは過小に評価し,安全かつ自立した行動を妨げる.そのため,多くの場面で,危険行動や行動抑制に対する援助を必要とし,対象者の社会復帰を妨げる.

    セルフアウェアネスとは,複雑な概念であり,神経心理学・認知科学・社会心理学など様々な領域において,その報告は多岐にわたる.神経心理学では,1900年代後半より,頭部外傷を中心とした脳損傷後のセルフアウェアネスの概念やメカニズムに関する報告がなされはじめた.近年では,行動療法や心理療法などを応用したセルフアウェアネスに対するリハビリテーションのエビデンスが,少しずつ構築されはじめている.しかし,その複雑な概念から,現状では,評価や介入方法については,十分に検討されていない.本コラムでは,神経心理学の観点から,セルフアウェアネスの概念や関連する脳領域について,解説を行うこととする.

    セルフアウェアネスの概念

    Sohlberg2)らはアウェアネスの障害を精神力動学的な理論,神経心理学的理論の2つの大きなカテゴリーに分けており,神経心理学的理論ではアウェアネスの障害を直接的な脳損傷の結果生じると説明している.またStuss3)は,神経心理学的なアウェアネスの障害のうち,無視や失語などの限局的な病識の低下である低次なアウェアネスと,思考・行動全般に影響を及ぼす高次なアウェアネスであるセルフアウェアネスとを区別している.Stuss3)は,セルフアウェアネスを判断と洞察に関する能力で,「人が過去や進行中の情報を統合することによって,環境に依存的に作用するために他の脳の処理過程を利用し,かつ相互に作用し合うもの」と説明している.

    Crosson4)は,アウェアネスの階層モデルを提唱した(図1).このモデルでは,アウェアネスを3つに区別し,アウェアネスの改善においては,「知的アウェアネス(特定の機能が損なわれているという知識を持っている)」の段階から,「体験的アウェアネス(実際に問題が発生したときに問題を認識する)」の段階を経て,「予測的アウェアネス(これから起きると予測される問題を認識する)」へと段階を踏んでいくと述べた.しかし,Lundqvist5)は,アウェアネスの改善においては,これらは一方向性ではないことを報告しており,アウェアネスとは,一概に一つの階層構造では説明できない複雑な概念である.

    図1  Crossonのawarenessモデル
    Crosson, B. et al.:Awareness and compensation in postacute head injury rehabilitation. Journal of Head Trauma Rehabilitation,4(3):46-54,1989より引用,一部改変

    セルフアウェアネスに関連する脳領域

    Stuss3)は,セルフアウェアネスとは最も高次の脳機能であり,前頭前野との関係が密接であると報告した.また,脳の前方領域が計画や監視,予測といった実行機能において重要であることを明らかにした.一方で,Mesulam(1985)が示した機能的領域の分布モデル6)では,限局的な病識の低下である低次なアウェアネスにおいて,頭頂葉下部や側頭葉上部,縁上回,角回などの統合が重要な役割を果たすのに対し,思考・行動全般に影響を及ぼす高次なセルフアウェアネスでは,前頭前野が重要な役割を果たすと述べている.Prigatano6)は,このモデルを用いて,セルフアウェアネスの能力を前頭葉単一の機能と捉えるというよりは,前頭前野を中心とした複数の脳領域と複雑な相互関係があると述べている.

    さらに,Anderson7)やHibbard8)の報告では,セルフアウェアネスの能力は,身体,知覚,認知,行動面など,それぞれ領域で異なると述べている.対象者は認知や行動面よりも身体面の障害を認識しやすい傾向があり,また,左半球損傷よりも右半球損傷の方がセルフアウェアネスの低下を認めやすいことを報告した.

    Ownsworth9)は,肯定的なリハビリテーションの結果は,対象者のセルフアウェアネスの能力と関連すると報告し,Trudel10)は,セルフアウェアネスの低下は,リハビリテーションの動機付けと参加を制限すると報告している.自身の行動を俯瞰視する『セルフアウェアネス』という能力は,妥当な目標設定やそれに向けた問題解決,または代償的戦略を組み立て,リハビリテーションを行っていく上で,重要な能力であると思われる.

    【共著】
    福山 千愛(伊丹恒生脳神経外科病院 作業療法士 大阪府立大学大学院 地域保健学域 総合リハビリテーション学類)

    【引用文献】
    1)Engel L,Chui A,Goverover Y,Dawson DR:Optimising activity and participation outcomes for people with self-awareness impairments related to acquired brain injury : An interventions systematic review.Neuropsychological Rehabilitation,29(2):163-198,2017.
    2)Sohlberg MM,Mateer CA et al.:The Assessment and management of unawareness. Cognitive rehabilitation:An Integrative Neuropsychological Approach. Guilford Press,New York,2001. (尾関誠,上田幸彦,訳:高次脳機能障害のための認知リハビリテーション-統合的な神経心理学的アプローチ-,協同医書出版社,227-249,2013)
    3)Stuss DT,Benson BF:The frontal lobes. Raven Press,1986.
    4)Crosson, B. et al.:Awareness and compensation in postacute head injury rehabilitation. Journal of Head Trauma Rehabilitation,4(3):46-54,1989.
    5)Lundqvist, A. et al.: Improved self-awareness and coping strategies for patients with acquired brain injury? A group therapy programme. Brain Injury,24(6):823-832, 2010.
    6)Prigatono GP,Daniel L:Awareness of Deficit After Brain Injury,Clinical and Theoretical Issues. Oxford University Press,1991.Stuss DT:Disturbance of self-awareness after frontal system damage.(中村隆一,訳:脳損傷後の欠損についての意識性−臨床的・理論的論点−,医歯薬出版,53-71,1996)
    7)Anderson SW, Tranel D:Awareness of disease states following cerebral infarction, dementia, and head trauma:Standardized assessment.Clinical Neuropsychologist,3(4):327-339,1989.
    8)Hibbard MR. et al.:Awareness of disability in patients following stroke.Rehabilitation Psychology,37(2):103-120,1992.
    9)Ownsworth T. et al.:The association between awareness deficits and rehabilitation outcome following acquired brain injury. Clinical Psychology Review,26(6):783-795,2006.
    10)Trudel TM. et al.:Awareness of disability and long-term outcome after traumatic brain injury.Rehabilitation Psychology,43(4):267-281,1998.

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