実車評価とその課題、及びこれからの運転支援について

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竹林崇 大阪府立大学 教授

実車評価は運転技能評価においてゴールドスタンダードと呼ばれている.しかし,実車評価ができる施設は多くなく,院内で可能な運転支援のみを行っているケースも多いと予測される.そのような状況下における運転支援の形と,今後の動向について述べていこうと思う.

実車評価

運転適性評価には,on road評価とoff road評価の二種類がある.その内のon road評価に含まれる実車評価は,構内で行うものと実際に路上で行うものとがある.後者は,各都道府県の公安委員会によって可否が決められているため,本項では主に教習所等の構内で行われるものを紹介する.

実車評価を行う目的としては,off road評価で判断できなかった運転の可否及び課題を明確にすることや,安全運転が難しい対象者に運転を再開する困難さを自覚してもらうこと等が挙げられる¹⁾.実車評価を行う前にはいくつか注意点がある.まず,実車評価で評価するもの,起こりうるリスクや生じる費用,さらには医師が院内での評価や実車評価を元に公安委員会に意見することを,対象者に説明する必要がある.また,評価を行う教習員へ対象者の障害に関する情報共有や,予測される事象の共有,及び評価中事故が起きた際の同乗者の保険の確認等をしておくことも求められる¹⁾.

本邦では,標準化された実車評価の方法は無いが,実車評価においてRoad testを利用している施設もある.また,加藤ら²⁾が開発した自動車学校と連携した運転評価システムであるCARDは,神経心理学的検査から教習所で行う実車評価を含めたフィードバックまで,運転技能を包括的に評価できるツールであり,教習所との連携を行う上でも有用だと考えられる.運転支援の必要性が周知されるにつれ,実車評価の必要性も徐々に高まっていくことが予想されるため,標準化された実車評価の開発が待たれる.

院内で実施可能な運転支援とその限界

実車評価は,実際の自動車運転の場面を評価できるため,運転技能評価のゴールドスタンダードと呼ばれている.しかし,本邦では診療報酬や教習所の受け入れ³⁾等の面から,実車評価が困難な場合も少なくない.この項では,実車評価が困難な施設が行う運転支援の在り方について考えていく.

まず,運転支援を行う上で不可欠なのは,運転支援についての説明である.自動車運転は公安委員会の許可の下でしか行うことのできない特別な作業であること,人の命に関わるため,安全な運転ができないと判断した場合は医療機関として相応の意見を公安委員会に提出すること等,自動車運転の伴う責任と医療機関の役割を対象者及びその家族に理解してもらうことが重要となる.また,自動車運転に関わる法律の説明,適性相談及び検査の手続きの説明,虚偽申請や適性検査未受検に係るリスクなどの説明を行うことも必要とされている⁴⁾.

続いて,院内で実施可能な評価を挙げる.これには,主に神経心理学的検査やドライビングシミュレータ(以下DSとする)を用いた評価が該当するが,これらの評価の詳細については本連載の第三弾で述べたため省略する.近年,簡易な型が出てきたとはいえ,高価なDSを設置している施設は多くないと推測される.そのため,運転支援が必要な対象者がいるものの神経心理学的検査しか行えないことに悩む医療従事者もいるかもしれない.しかし,運転技能評価で有効な神経心理学的検査について行われた研究の多くは,実車評価の結果に帰結するものである.従って,それらの検査は実車評価の結果を机上で測ることのできるツールだと考えることができる.勿論,机上の検査で発現しなかったエラーが実際に運転して分かるケースもあるため,実車評価ができる環境を整備することは急務である.しかし,神経心理学的検査は運転支援の開始時期を見計らったり,実車評価の必要性を判断するなどの目的で有用であることを,ここに述べておく.実車評価が必要だと判断された場合,実車評価が可能な他施設への紹介を行う等,運転支援を院外へ繋げることも一つの手段だと言えるであろう.

また評価だけでなく,運転技能訓練としての高次脳機能訓練やDS訓練が院内で実施されているケースもある⁵⁾.2014年に改訂された道路交通法では,疾病を発症して免許が取り消されても,そこから3年以内であれば,免許再取得の際の技能試験及び筆記試験は免除されると規定されている.そのため,痙攣発作のリスクが高い時期⁶⁾や高次脳機能障害が安定するまでの期間,さらには訓練によって機能回復が望める場合等に,これらの訓練を行うことも可能である.最適な時期を見計らって運転支援を行うことが望まれる.

これからの運転支援について

この項では,本邦における運転支援への取り組みの現状と動向について述べようと思う。

日本作業療法士協会内の特設委員会である運転と作業療法委員会では「運転に関する作業療法士のための指針」が作成されている7).これには,運転に関わる法律から机上評価,さらには実車評価までの,運転支援にける作業療法の流れが記載される予定であり,運転支援の質の担保と支援方法の具体化に繋がるものと予測される.

また,全日本指定自動車教習所協会連合会では,全国の教習所と作業療法士を対象に高次脳機能障害者の運転再開に関する調査³⁾が行われた.これには作業療法の現場及び自動車教習所の現状と課題,教習所において推奨される運転再開支援の進め方なども記載されている.さらに,2018年には神奈川県警察運転免許センターに全国初となる作業療法士が配置された⁸). これらのことから現在,医療機関以外でも運転支援の必要性が周知されつつあり,今後は更に連携が取りやすくなることが期待できる.

運転再開の希望の有無に関わらず,免許を有する脳卒中等を発症した対象者は皆,その後の自動車運転について考えなければならない.自動車運転という作業は,本連載の冒頭でも述べた通り,誰しもができる行為ではない.運転再開だけでなく,運転を断念した場合にもアプローチできる作業療法士として,生活に深く根付いている自動車運転と眼前の対象者がどのような関係にあるか,また今後はどうあるべきかを,意識する必要があると考えられる.

【参考文献】 1)藤田佳男,澤田辰徳:作業療法とドライブマネジメント.文光堂,2018 2)加藤貴志 他):脳損傷者の高次脳機能障害に対する自動車運転の取り組み―自動車学校との連携による運転評価CARDについて:総合リハビリテーション, 36, 1003-1009,2008 3)一般社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会: 高次脳機能障害を有する運転免許保有者の運転再開に関する調査研究委員会報告書, 2020 4)澤田辰徳 他):脳損傷の患者における運転評価後の運転適性検査受験に関する後ろ向き調査:日本交通科学学会誌, 15, 2, 58-65, 2015 5)Masahito Hitosugi1 他)support for stroke patients in resumption of driving: patient survey and driving simulator trial: International Journal of General Medicine : 4, 191–195, 2011 6)武原 格:リハビリテーション医療の現場での自動車運転許可の現状:MB Med Reha, 184:20-26, 2015. 7)小倉由紀:自動車運転をめぐる作業療法士と協会のとりくみ, 特集 運転と作業療法: 日本作業療法士協会誌,59, 26-29, 2017 8)田中克己 他):日本初! 自動車運転免許センターへの 作業療法士の配置-行政(運転免許センター)の現場で作業療法士が関わる意義とは?-. 日本作業療法士協会誌, 82, 28-33, 2019

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