自動車運転とは,複数の身体機能及び認知機能が絡み合う,非常に複雑な行為である.本コラムでは,対象者の心身機能が運転する上で十分かを判断する評価,特にoff-road評価について述べていきたい.

運転適性評価の種類

運転適性評価は,大きくoff-road評価とon-road評価の二つに分けられる.off-road評価は,運動機能や感覚機能に対する身体機能評価と,高次脳機能や認知機能に関する神経心理学的検査,およびドライビングシミュレータ(以下DSとする)を用いた評価などがある.一方,on-road評価とは主に実車評価を指し,教習所内など制限された環境で決められたコースを走る所内コースと,一般の道路を走る路上コースの二種類がある.

Marshallら¹⁾は,実車評価が運転適性を評価するゴールドスタンダードだとしている.アメリカやオーストラリアなど実車評価を行える環境が整っている諸外国では,off-road評価は実車評価を受けるためのスクリーニングとして使用される²⁾³⁾⁴⁾.

一方,本邦では,運転適性を判断する公安委員会によって実車評価がなされることは少なく,医療現場での評価が運転再開の判断に大きく影響することが多い.しかし,実車評価を行える設備を有する,または実車評価を行える自動車教習所との連携がある施設は増加傾向にあるものの,現時点ではoff-road評価のみしか行えない施設が多い.次項からは,扱われる頻度の多いoff-road評価の種類とそれらの見解について述べていく.

off-road評価

off-road評価には身体機能の評価や認知機能を評価する神経心理学的検査,DSなどがある.

①身体機能評価 身体機能の評価では,免許取得の条件となる座位保持が可能か,また運転操作に関わる四肢の機能があるかを判断する.ハンドル操作に必要な筋力や関節可動域,移乗能力などを評価していく.加えて事故を起こした際,人命救助に向かうためには移動の速さも必要となる.この評価を行う際,実際に停車した車両に乗り,その操作能力を判断することも有効だと考えられる.また,各々の操作に必要な関節可動域や筋力,体性感覚機能などが記載された書籍もあるため,それも参考にされたい⁵⁾.

②神経心理学的検査 神経心理学的検査では,それぞれ運転に必要な注意・記憶機能や知覚・認知機能,言語機能,また遂行機能をみる.ここで主に利用される神経心理学的検査を以下の表に挙げる. 表1 運転技能に関する機能と対応する評価(筆者が文献1, 6を参考に作成)

上記の表にあげた他にも,脳卒中患者の運転技能の評価に特化したSDSA日本版というものがある.これはNouriら⁷⁾により開発されたSDSAを日本語に翻訳したもので,検査の下位項目にはDot抹消,方向,コンパス,道路標識の四項目が含まれている.今後も信頼性・妥当性の検討が望まれる⁸⁾が,このSDSA日本版を使用することで,複数の神経心理学的検査を組み合わせて評価を行うよりも短い時間で評価が可能になる.そのため,急性期など評価時間が確保しにくい環境下でも運転技能に関する評価が行えると考えられる.

また,これらの神経心理学的検査では国内外で複数のシステマティックレビューが存在する.加藤ら⁹⁾の研究では,TMT-A及びSDSAのコンパス,道路標識などが,脳卒中患者の運転技能評価に有用だとされている.また,Marshallら¹⁾の研究では,運転適性判断にTMT-A及びTMT-B,Reyの複雑図形模写,UFOVが有効なスクリーニング検査になるとされている.加えてDevosら¹⁰⁾の研究では,運転適性判断にはSDSAの道路標識及びコンパス課題,TMT-Bが有用だとしている.これらの文献で述べられている各検査は,実車評価の結果を予測するものとして,比較的エビデンスレベルが高いと言えるであろう.運転支援を行っている施設では,このような運転に必要な認知機能を評価する検査を適宜選択し,評価を行っているところもある¹¹~¹⁴⁾.

これらの検査に関する研究は,実車評価との関連性をみたものが多い.実車評価を行える施設が少ない本邦では,この机上で行う検査が,自動車運転の再開が可能かどうかを判断するための重要な要素となる.しかし軽度の高次脳機能障害の事例で,机上検査では問題がなかったものの,DSでの評価で障害が露呈した,という報告¹⁵⁾や,机上検査のカットオフ値を下回ったものの,運転再開が可能であったという報告¹⁶⁾もある.これらから分かるように,神経心理学的検査は運転技能を寸分違わず予測しえるものではない.しかし,運転支援の開始時期を見計らったり,実車評価の必要性を判断するなどの目的では有用であると考えられる.

③ドライビングシミュレータ(DS) DSでは,模擬的に運転を体験することが可能である.そこから,刺激が入ってから操作に移るまでの反応時間やハンドルなどの基本操作の正確性,市街地を模したコースを走行した際の危険予知活動などの評価が行える.DSは,実車評価とで起こりえる評価中の事故を起こす心配がない他,対象者に合わせた課題の設定ができるなど,利点も多い.また,外川ら¹⁸⁾の研究では,DSを使用することで,軽度の半側空間無視を検出できる可能性が示唆されており,実際にHondaからは軽度の半側空間無視を検出するDSのソフトの生産もされている¹⁹⁾.しかし,高価な装置であることやシミュレータ酔いの影響,さらにはDSでの評価と実車の運転適性や事故経験の関連性が明らかになっていないなど,課題も残る¹⁷⁾.

以上に挙げたようなoff-road評価は,実車評価がしにくい本邦では運転再開の判断において,重要な位置を占める.しかし,神経心理学的検査は,各検査と実車評価との関連性を調べた文献が国内外で多数存在しているものの,見解が共通している評価は数が少なく,どの評価を使用するかは運転支援を行う各施設に委ねられている部分もあると思われる.既に運転支援を積極的に行っており,施設内で行う検査の基準値を文献に記載している施設もある¹¹~¹⁴⁾ため,それらを参考にすることも,運転支援を行う一助となるだろう.運転支援を必要とする対象者に適切な評価を行うためにも,さらなる研究が望まれる.

【参考文献】 1)Marshall SC, et al:Predictors of Driving Ability Following Stroke: A Systematic Review:Topics in Stroke Rehabilitation · January :98-114:2007 2)Michael C, et al:The Role of the Occupational Therapist in Driver Rehabilitation After Stroke:PHYSICAL & OCCUPATIONAL THERAPY IN GERIATRICS:VOL.35:20-33:2017 3) Stacey G, et al : Establishing Criterion Validity of the Useful Field of View Assessment and Stroke Drivers’ Screening Assessment: Comparison to the Result of On-Road Assessment: The American Journal of Occupational Therapy: The American Journal of Occupational Therapy : VOL.64.1:114-122:2010 4)松原麻子 :米国における自動車運転とリハビリテーションおよび作業療法:日本作業療法士協会誌 59:30-32, 2017 5)藤田佳男,澤田辰徳:作業療法とドライブマネジメント.文光堂,2018 6)渡邊修:運転に求められる高次脳機能:OTジャーナル45:1280-1285:2001 7)Nouri FM et al: Predicting driving performance after stroke.: BMJ 307:482-483: 1993 8)山田恭平 他:脳卒中ドライバーのスクリーニング評価日本版(J-SDSA)の 基準値に関する検討:高次脳機能研究38.2:107-114:2018 9)加藤貴志 他:脳損傷者の実車運転技能に関連する神経心理学的検査について システマティックレビューとメタ分析:総合リハビリテーション.44:1087-1095:2016 10) Devos H, et al: Screening for fitness to drive after stroke: a systematic review and meta-analysis. Neurology ,76: 747–756:2011 11)武原格 他:脳損傷者の自動車運転再開に必要な高次脳機能評価値の検討:Jpn J Rehabil Med 53.3 :247-252:2016 12)加藤貴志:運転再開に向けた井野辺病院の取り組み:OTジャーナル 46.5:490-494:2012 13)澤田辰徳 他:脳損傷後の患者における運転評価後の 運転適性検査受検に関する後ろ向き調査:日本交通科学学会誌 第15巻,第2号:58-65:2015 14)生井宏満 他:脳血管障害患者に対する自動車運転再開プログラムの 運用と問題点について:日本交通科学学会誌 第16巻,第2号:38-45:2016 15)澤田辰徳 他:Driving risk in a stroke patient with mild cognitive deficit could not be predicted by neuropsychological testing: a case report : Asian J Occup Ther 12: 61−66: 2016 16)大場秀樹 他:脳卒中罹患後のタクシー運転再開と望ましい リハビリテーションについての検討:日本交通科学学会誌16.2:46-54: 2016 17) 外川佑、佐藤卓也、村山拓也、櫻庭彰人、﨑村陽子:右半球損傷患者の神経心理学的検査、ドライビングシミュレータ、実車評価と運転可否判定の関係.総合リハビリテーション47(4), 373-379, 2019. 18)Honda:運転復帰プログラム リハビリテーション向け運転能力評価サポートソフト https://www.honda.co.jp/safetyinfo/rehabilitation/supportsoft/:アクセス日時2020/6/20/20:40 19)三村將 他:高次脳機能障害と自動車運転:国際交通安全学会誌 42.3:160-165:2018

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