脳卒中発症による運転への影響

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竹林崇 大阪府立大学 教授

脳血管障害は,片麻痺や視野欠損などの身体機能から注意機能や遂行機能などの高次脳機能まで幅広く障害を及ぼす.本コラムでは,免許取得で必要とされる機能の紹介および各障害が運転操作に与える影響について述べていくこととする.

免許に必要な心身機能

道路交通法施行令第33条の2の3では,「安全な運転に必要な認知,予測,判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くおそれがある症状を呈する病気」は免許の拒否又は保留の事由として挙げられている.

では,どの程度の心身機能があれば免許の取得が認められるのだろうか.道路交通法規則第23条では一種免許の取得に必要な身体機能として,視力,色彩識別能力,聴力,運動能力の4つを挙げている.本項及び次項では脳血管障害で問題となりうる視力と運動能力,及び高次脳機能障害について述べていくこととする.

視覚機能と運転操作

道路交通法施行規則第23条では一種免許に必要な視力として,両眼で0.7以上かつ一眼でそれぞれ0.3以上であること,一眼の視力が0.3に満たない者もしくは一眼が見えない者については他眼の視野が左右150度以上で,視力が0.7以上であることとしている.しかし,脳血管障害では視放線にかかる部位の損傷や後頭葉の損傷で視野欠損を生じる場合がある.第23条では一眼が見えなくなった状態を問題とするため,これで生じた半盲や1/4盲は法律的基準から外れることとなる.しかし,Rubinら¹⁾やCarrieら²⁾によると視野障害を有すると交通事故率が高くなることが報告されており,視野の狭まりによって主に歩行者や道路標識の見落としが増え,危険運転につながる可能性も高くなると考えられる.また近年では,ある視覚課題の遂行中に注視点の周り情報が瞬間的に蓄えられ,読みだされる部分を指す有効視野(UFOV)の広さも事故の予測力が高いと言われている³⁾.以上のことより,脳血管障害における運転支援では,視力だけでなく視野の広さ及び有効視野の広さにも注意する必要がある.

身体障害と運転操作

道路交通法第103条に則り,道路交通法施行令第38条では具体的な身体の障害として,体幹の機能に障害があって腰をかけていることができないもの,四肢の全部を失ったもの又は四肢の用を全廃したもの,自動車等の安全な運転に必要な認知又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるものが挙げられている.

従って,座位保持が可能で四肢を全廃していない脳血管障害の患者は,麻痺などの身体障害を有していても必要に応じて自動車改良を行うなどして,安全な運転ができれば運転を再開できる可能性がある.以下に脳血管障害による身体障害と運転操作への影響をいくつか示していく.例えば右片麻痺では,右上肢の操作であるウインカー操作及びステアリング,右下肢の操作であるペダル操作が主に障害される.特にペダル操作に関しては重度の深部感覚障害を有していると,ペダル位置や踏み込み程度が分からず正確な操作ができなくなる.障害の程度により既存の運転装置では安全な運転ができない場合は,非麻痺側での操作が可能な延長ウインカーや旋回装置,左アクセルなどの自動車改造が必要となる.また,左片麻痺では特にクラッチ操作が障害される.これに対してはMT車からAT車への変更が必要となる³⁾⁴⁾⁵⁾.

このような運転補助装置の設置にかかる費用は,自動車取得税減免及び消費税非課税などの公的補助金制度や,助成金制度などの利用が可能である⁴⁾.ただし利用できる制度は各自治体によって異なるため確認が必要となる.

高次脳機能障害と運転操作

道路交通法施行令第33条にみられるように,運転には認知,予測,判断,操作,の要素が必要となる.これらの要素に脳血管障害による高次脳機能障害がどのような影響を及ぼすかを,具体例とともに以下の表1に示す. 表1. 高次脳機能障害と運転操作の関係(筆者が文献5,6を参考に作成)

※1事故の際に警察や救急車を呼べないなど,道路交通法第72条の救護義務を果たせない可能性がある.

脳血管障害は身体障害だけでなく,高次脳機能障害も生じうる疾患であり,上記に示したように自動車運転に様々な影響を及ぼす.特に高次脳機能障害は目に見えない障害であるが故に,適切な運転計画の立案や臨機応変な対応などの運転操作面以外の能力も考慮する必要がある.運転支援を行っていく上では,それらを総合的に捉えた上で運転適性があるかどうかを評価することが望まれる.

【参考文献】 1)Rubin GS, et al :A prospective populationbased study of the role of visual impairment in motor vehicle crashes among older drivers:The SEE Study. Invest Ophthalmol 48:1483-1491:2007 2)Carrie Huisingh, et al:Visual Sensory and Visual-Cognitive Function and Rate of Crash and Near-Crash Involvement Among Older Drivers Using Naturalistic Driving Data:IOVS j : Vol. 58 j No. 7 j 2959-2967:2017 3)武原格,他:脳卒中患者の自動車運転再開. Jpn J Rehabil Med50 :99-104,2013 4)松尾清美:自動車の自操装置,日本義肢装具学会誌,Vol33,No,4.2017 5)藤田佳男,澤田辰徳:作業療法とドライブマネジメント.文光堂,2018 6)武原格:ココが知りたい 脳卒中後の自動車運転vol.4運転と高次脳機能障害の関係.リハビリナース.vol12, no.4, 71-75,2019

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