医療職による運転支援の必要性

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竹林崇 大阪府立大学 教授

近年,脳卒中後の運転支援の取り組みが多く行われている.我が国の運転免許は都道府県の公安委員会によって交付されるものであるが,特定の疾患羅患者の運転免許についての多くは、医療機関からの助言を求められることも多い.本コラムでは,医療職が積極的に運転支援に関わる必要性を制度的な観点を交えて述べていきたい.

運転支援の需要、生活に及ぼす影響

近年,高齢者や障がい者による交通事故がメディアで大きく取り上げられている.日本は高齢化の一途を辿っており,運転適性に疑問のある高齢者やその他運転に支障のある一定の病気をもつ者のさらなる増加が予想される.

しかし一方で,運転は重要な生活の足ともなりうる移動手段である.緒方ら¹⁾によると脳卒中発症後,運転再開を希望する者の外出目的として,買い物,仕事,レジャー,外来受診などが挙げられたとされている.また住吉ら²⁾によれば,公共交通機関が未発達な地域においては運転が可能であることが復職の条件となるなど,運転は対象者のQuality of life(QOL)を大きく左右する因子であることが伺える.

移動は対象者が「したい作業」「しなければならない作業」「することを期待されている作業」に参加するための手段である³⁾.運転に関する支援は,作業を行う意義や置かれている環境など,対象者に合ったものが必要となる.武原⁴⁾はリハ領域における運転支援は,どの程度の障害までなら健常者と遜色なく,安全運転が可能なのかを模索し,運転再開までの社会的手続きを踏み,必要に応じて自動車改造や教習所での運転練習を検討するものだとしている.これを踏まえ,次項から特に脳血管障害に対する運転支援を行う上で必要な制度の知識や,運転再開に関する手続きを紹介していくものとする.

運転に関する法律と運転再開までの手続き

運転は国から特別に許された者にしか与えられない,つまりは免許されて初めて行える行為である.道路交通法では,第70条では「車両等の運転者は,当該車両等のハンドル,ブレーキその他の装置を確実に操作し,かつ,道路,交通及び当該車両等の状況に応じ,他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない.」とされており,第119条ではこれに違反すると法により罰せられることが記されている.

道路交通法第103条では,「(中略)次の各号のいずれかに該当する者については,政令で定める基準に従い,免許(中略)を取り消し,又は六月を超えない範囲内において免許を効力を停止することができる.」とされている.ここでの「該当する者」とは,道路交通法施行令第33条の2の3で,「(中略)再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって,発作が再発するおそれがあるもの),(中略)および安全な運転に必要な認知,予測,判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くおそれがある症状を呈する病気」とされている.発作による麻痺や意識障害を伴った脳血管障害はここに該当し⁵⁾⁶⁾,警察庁をはじめとした各都道府県の「一定の病気に係る免許の可否等の運用基準」でも脳卒中と特記された部分があるため参照されたい.

これらのことから,脳血管障害はその症状により,法律上で免許の取得や更新に注意を要する対象となる「一定の病気」であり,安全な運転に必要な能力を欠く可能性があるため注意が必要である.運転操作に脳血管障害のなんらかの影響を受け,危険につながるような状態で運転すれば,運転している本人,ひいては社会の不利益となりうる.従って,脳卒中を発症した者は運転を再開する際,公安委員会に運転が可能か相談した方が良い.

免許取得後に障害を生じた者は自動車運転を希望する場合,運転免許センターにて適性相談を受けねばならない.相談の後,必要に応じた適性検査や医師の診断書を参考に,公安委員会によって免許継続可否の判断がなされ,無条件適格もしくは条件付き適格であれば運転が許可される(図1)⁷⁾. 以上に示す手続きは一例であり,各都道府県によって異なる場合があるが,いずれの場合でも運転再開可否の決定は公安委員会によって下される.

図1

現状の問題点

メディアによる報道などで運転適性への関心度が高まってきたとはいえ,脳卒中発症後,運転を再開する際に必要な上記の手続きを全ての対象者が把握しているとはいえない.武原ら⁶⁾によると,525名の脳卒中患者に退院後の運転に関するアンケートを行ったところ,運転を再開した者の内25%の者が自己判断で運転を再開していた.また外川ら⁸⁾も有効回答者のうち,適性検査未受験の者が29.0%いたと報告している.必要な手続きを伴わない運転再開は対象者や社会にとっても不利益となるため,発症直後に対象者と関わる医療職が,対象者の運転再開の希望を把握し,制度や手続きなどの適切な情報を提供することが必要となる⁹⁾.例えば、2014年の道路交通法の改正により,脳卒中などの一定の病気が六月以内に回復せずに免許が取り消された日から,3年以内に運転可能な状態まで回復すれば学科試験及び技能試験が免除されるようになった⁴⁾⁷⁾.このような情報は対象者の運転再開への焦りを和らげ,落ち着いて今後の生活設計を考える一助となるだろう.

また,医師の診断書は運転再開可否に大きな影響力を持つにも関わらず,その診断書で問われているのは「脳梗塞などの発作により,各種の障害が生じえるかどうか」「病状が安定しているか」という内容である.脳卒中は再発のリスクが高い疾患であり,医療にかかっていても再発の可能性がなくなるとは言い難いため,この文面で医師が判断を躊躇することは少なくない.従って,運転支援に関わる医療職が現時点での運転技能の正確な評価を行い,医師の判断の材料をそろえることが重要となる⁴⁾⁶⁾.

以上のことから運転支援を行う際には,制度及び手続きの情報の提供や,判断の要素となる適切な評価を行うために医療職が積極的に関わることが重要であると思われる.

【参考文献】 1)緒方匡,他:自動車運転が不可欠な地域における回復期リハビリテーション病棟入院脳卒中片麻痺者への外出支援の取り組み. 作業療法37:197-206,2018 2)住吉千尋,他:脳卒中患者の運転再開の手続きについて―公共交通機関発達状況による比較― 日職災医誌66:99-104,2018 3)藤田佳男,澤田辰徳:作業療法とドライブマネジメント.文光堂,2018 4)武原格:障害者の自動車運転再開の流れ・注意点・可能性. Jpn J Rehabil Med20 54:377-382,2017 5)武原格:自動車運転再開. Journal of clinical rehabilitation, Vol26 No.11:1112-1114.2017.10 6)武原格,他:脳卒中患者の自動車運転再開. Jpn J Rehabil Med50 :99-104,2013 7)武原格:ココが知りたい 脳卒中後の自動車運転vol.1運転に関する法律の話.リハビリナース.vol12, no.1, 58-62,2019 8)外川佑,他:新潟リハビリテーション病院における自動車運転再開プログラム実施者の 臨時適性検査受検率の変化と年間交通事故率に関する一考察. 日本交通科学学会誌13,2,4-9.2013 9)澤田辰徳,他:脳損傷後の患者における運転評価後の 運転適性検査受検に関する後ろ向き調査. 日本交通科学学会誌15,2,58-65,2015

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