医療・介護領域で働くひとと経営学をBridgeするコラム〜「知っているつもり」におちいるな -人は自分が思うより無知であるー②〜

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八木 麻衣子 聖マリアンナ医科大学東横病院 技術課長補佐

人間の思考は、思い込み、偏見、先入観など、認知に偏りをもたらす「バイアス」は、対外的なことに対する認知のみでなく、自分への評価においても満ち溢れています.この影響を最小限にするためには、客観的なデータを正しくしく活用すること、無知を恥じず、知らないことは「知らない」と認めて学び続けることのほか、自分の知覚、情動、記憶、思考など認知活動や行動について、第三者の視点から俯瞰的・客観的にとらえる能力であるメタ認知を養うことが大切です.

思い込みや偏見を乗りこえろ―自分も世界も俯瞰するメタ認知を鍛えようー

みなさん、こんにちは.医療・介護領域で働く人と経営学をBridgeするコラムにようこそ.

前回のコラムでは、人の認知はとても曖昧なものであり、さらには自分の知識を過大評価する傾向にあることをお伝えしました. 【参考コラム】 『医療・介護領域で働くひとと経営学をBridgeするコラム〜「知っているつもり」におちいるな-人は自分が思うより自分勝手で無知であるー①〜

今回は、そんなあいまいな認知において、偏見、先入観、思い込みなどにより起こる認知の偏り、いわゆる「バイアス」がどのような要因で発生するのかを確認し、その影響を緩和するための心構えや対処方法などについて考えてみたいと思います.

さて、人はそれぞれ、その人を形容する性格や特徴を持っていますが、根底は「思い込みの生き物」であることを認識しなければなりません.

私自身も、なるべく客観的・俯瞰的に物事をとらえよう、という意識を持つように努めてはいますが、一方で、どうしても先入観や「クセ」のような偏りに左右されているとも感じます.

人の価値観や考え方、思考の仕方は、もともとの人格・性格だけではなく、親からの教え、生育環境、学校や会社で受けてきた教育、得てきた知識や経験など、多様な要因で構築されています.

そのため、「似たような感覚」を持つ人はいても、全く同じように考える人は存在せず、自分の常識が他人の非常識、という場合もあるのではないでしょうか.

「経験」も人の認知や意思決定に大きな影響を及ぼします.

もちろん、多くの経験を積むことは間違いなく良いことですが、年齢や経験を重ねるほど、それまでに自分が体験した範疇で物事を判断しがちになると言われています.

また、最初に成功体験を得ると、後々に失敗体験から学ぶことができなくなり、最終的には良い結果を残せなくなるとも報告1)されています.

このように、人間の思考や考え方は、多くの要因からの影響を受け続け、無意識のうちに自分の中に「バイアス」が形成されているのです.

これらの思い込み、偏見、先入観など、認知に偏りをもたらす「バイアス」の影響を最小限にするために大切なのはどのようなことでしょうか.

ひとつの緩和策としては、できるだけ正確なデータを用いて分析を行い、その結果を客観的に吟味することであると思います.

しかし、データの解釈の仕方に関しては注意も必要です.最近の情報技術の発達は、さまざまなデータの収集や高度な分析を可能としました.

それ自体は大変に素晴らしいことですが、逆説的に言えば、自分の主張に都合の良いようデータを加工して、故意にミスリーディンクを誘うことも、誘われたりすることもできてしまいます(このあたりは、倫理問題の範疇になるかと思います).

提示されたデータが、適切な手順で収集・分析されているか、結果の解釈は妥当かなど、私たちにもデータを用いるにあたっての選球眼を磨く重要性は、今後もより高まっていくはずです.

また、バイアスは何も対外的なことへの認知だけに限らず、自分に対する認識にも存在します.

その代表例が「ダニング=クルーガー効果」です.これは、能力やスキルがイマイチな人ほど、自己を過大評価してしまう現象のことを言います.

また、何かを始めたばかりの初心者の方が、その道の専門家によりも過度な自信を持ちがちである、とも言われています.

もちろん、自信を持つこと自体は新しいことへの挑戦などを後押しする大切な要素ですが、誰しもが過剰な自信には気をつける必要があります.

この「自分はとても優れている」という思い込みの原因としては、自分の能力が不足していること自体を正しく認識できない、自分の能力がどの程度不足しているかを正しく認識できない、他人の能力を正しく認識できない、など「メタ認知」に問題がある場合が多いと言われます.

メタ認知とは、自分の知覚、情動、記憶、思考など認知活動や行動について、第三者の視点から俯瞰的・客観的にとらえる能力を指します.

このメタ認知の能力が十分に備わっていない場合、自分が課題をどの程度うまくこなしているかを客観的に見つめることが難しいため、容易にバイアスにとらわれ過剰な自信を持ちやすくなるのです.

では、ダニング=グルーガー効果を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか.

一般的に言われていることをご紹介しましょう.

まずは、無知を恥じず、知らないことは「知らない」と認めて学び続け、知識の穴をなるべく少なくすることです.

そして、周囲の意見を真摯に受け止め、客観的なデータを確認すること、常に自分の中にメタ認知を象徴する存在として「あえて反応するもう一人の自分」を持つことも有効であると言われています.

こんなバイアスだらけの中で生きている私たちですが、マネジャー職に就く人は自分だけでなく、他人を評価することも求められます.そこで、次回のコラムでは、他者評価におけるバイアスを考えていきたいと思います.

【参考文献】 1)Madsen, P. & Desai, V. 2010. Failing to Learn? The Effects of Failure and Success on Organizational Learning in the Global Orbital Launch Vehicle Industry. Academy of Management Journal, vol53: 451-476. 2)Kruger, Justin and Dunning, David, 1999, Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One's Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments, Journal of Personality and Social Psychology, vol.77, no.6, pp.1121-1134.

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