病期におけるミラーセラピーの実際
米国の心臓/脳卒中学会が発表したガイドライン¹には、ミラーセラピーは上肢麻痺のアプローチに対して補助的な役割として効果があると報告している。またHatemら²は、複数のシステマティックレビューを元に、発症からの時期、手の運動の有無、痙縮の高低を基準とした上肢麻痺に対する効率的な手法選択を報告している。ミラーセラピーは、急性期、麻痺手の随意的運動が認められない重度症例において、回復期と慢性期で適応が示されている。
次に、世界で行われているミラーセラピーの無作為化比較試験を参考に、ミラーセラピーがどのような介入方法で行われているのかを考察していく。無作為化比較試験は、2012年に報告されたコクラン³によるシステマティックレビューと2020年に報告されたGandhiら⁴のレビューを参考に、無料で閲覧が可能で、英語か日本語で公表されている28本の論文を選択した。また、選択した論文は、急性期の脳卒中患者を対象にしたものが5本、回復期の脳卒中患者を対象にしたものが10本、慢性期の脳卒中患者を対象にしたものが13本であった。
介入の内容
介入方法に関しては、4つに分類することができた(表1参照)。それぞれの特徴を紹介する。
表1 ミラーセラピーの介入方法
1つ目の単関節運動のみで実施する方法は、物品を用いずに健側の肩・肘・手関節・手指の屈曲、伸展や前腕の回内、回外などの単関節運動をそれぞれ反復して実施する方法であり、19本の論文が見つかった。例として、Pandian⁵らが実施した介入の様子を図1に示す。
図1.単関節運動を実施しているミラーセラピーの様子
2つ目の物品を用いた課題のみ実施する方法は、2本の論文が見つかった。なかでもAryaら⁶は、Task-Based Mirror Therapy(TBMT)と称して、麻痺側の運動機能を考慮して物品を用いた課題の難易度を設定し、ミラーセラピーを実施していた(図2参照)。
図2.TBMTの様子:右片麻痺の対象者に対して、運動錯覚を想起させる目的で、左上肢(健側)でコップにリーチする訓練を実施している
3つ目の単関節運動を実施してから物品を用いた課題を実施する方法は、5本の論文が見つかった。そのなかでも2種類に分類することができた。1つ目は、Samuelkamaleshkumarら⁷が行ったように、1回の介入の前半は単関節運動を実施し、後半は物品を用いた課題を実施する方法である。2つ目は、Thiemeら⁸が行ったように、介入期間のうちの前半の何週間は単関節運動を実施し、後半の何週間は物品を用いた課題を実施する方法である。
4つ目の電気刺激療法を併用した単関節運動を実施する方法は、2本の論文が見つかった。Yun⁹らは、麻痺側の手関節や手指の伸展を促すように電気刺激を与えながら単関節運動を実施していた。また、Lin¹⁰らは、電気刺激を併用しながら物品を用いた課題を実施していた(図3参照)。
図4.電気刺激療法を併用したミラーセラピーの様子
介入の設定(介入時間、ミラーセラピーを実施するタイミング、声掛けなど)
介入時間に関して考察する。1回の介入時間では30分の介入(28本中11本)が多かった。1週間の介入回数では週5回の介入(28本中18本)が多かった。介入期間としては、4週間が多かった(28本中17本)。介入の合計分数に関しては、それぞれの論文で幅広く、明らかな特徴は発見できなかった。ミラーセラピーを実施するタイミングに関しては、記載している論文が少なく、明らかな特徴は発見できなかった。また声掛けに関しても、記載している論文が少なかったが、「健側の動きに合わせてできる限り麻痺側を動かしてください」や「鏡をしっかり見てください」といった内容の指示が数本の論文で記載されていた。
まとめ
以上のように、28本の無作為化比較試験を実施した論文を通して、ミラーセラピーの介入方法や介入の設定を述べてきた。現状、ミラーセラピーの具体的な介入方法や設定に関しては、まだまだ不明な点が多く、今後も臨床研究が必要であると考える。
【引用文献】 1)Winstein CJ, et al: guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery. A guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/ American Stroke Assocciation. Stroke 47: e98-107, 2018 2)Hatem SM, et al: Rehabilitation of motor function after stroke : a multiple systematic review focused on thechniques to stimulate upper extremity recovery. Front Hum Neurosci 13: 442,2016 3)Thieme H, et al: Mirror therapy for improving movement after stroke. Cochrane Datebase Syst Rev, 2012 4)Gandhi DB, et al: Mirror Therapy in Stroke Rehabilitation: Current Perspectives. Ther Clin Risk Manag. 2020 Feb 16:75-85. 5)Pandian JD, et al: Mirror therapy in unilateral neglect after stroke (MUST trial): a randomized controlled trial. Neurology. 2014;83(11):1012–1017 6)Arya KN, et al: Task-based mirror therapy augmenting motor recovery in poststroke hemiparesis: a randomized controlled trial. J Stroke Cerebrovascular Dis. 2015;24(8):1738–1748 7)Samuelkamaleshkumar S, et al: Mirror therapy enhances motor performance in the paretic upper limb after stroke: a pilot randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil. 2014;95(11):2000–2005 8)Thieme H, et al: Mirror therapy for patients with severe arm paresis after stroke–a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2013;27(4):314–324. 9) Yun GJ, et al: The synergic effects of mirror therapy and neuromuscular electrical stimulation for hand function in stroke patients. Ann Rehabil Med. 2011;35(3):316-321. 10)Lin KC, et al: Combining afferent stimulation and mirror therapy for rehabilitating motor function, motor control, ambulation, and daily functions after stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2014;28(2):153–162