脳卒中後上肢麻痺に対するミラーセラピーの概要

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竹林崇 大阪府立大学 教授

近年脳卒中後上肢麻痺に対して、様々なアプローチのエビデンスが確立されつつある。本コラムでは、ガイドラインでも推奨されているアプローチの一つであるミラーセラピーについて解説する。

ミラーセラピーとは

ミラーセラピーは、対象者の麻痺側上肢と非麻痺側上肢の間に鏡を正中矢状面に置き、非麻痺側上肢と麻痺手の双方を随意的に動かすアプローチである。そうすることで、対象者は鏡に映る、対象者自身の随意運動によって動く非麻痺側上肢をあたかも麻痺側上肢が動いているかのように錯覚する。この結果、対象者自身の麻痺側上肢に対する随意運動コマンドと、錯覚の元生じた視覚に伴う運動イメージが統合される。

ミラーセラピーはそれらの要素を利用して、上肢の運動麻痺の改善を導くアプローチとされている(図1)。

ミラーセラピーは、錯覚に伴う視覚的なフィードバックを与えることで、麻痺側の筋運動感覚を生じさせるアプローチであり、当初はRamachandranら¹によって上肢切断患者の幻肢痛の治療法として報告された。その後Altschulerら²によって脳卒中後上肢麻痺に応用されて有効性が示されたものである。

2012年にはコクランレビューのメタ分析³によって14編の介入研究の結果から、介入後に上肢運動機能、日常生活活動(Activity of Daily Living: ADL)、疼痛、半側空間無視(Unilateral Space Neglect: USN)に対して有意な効果があったことが報告されている。加えて、上肢運動機能に関しては、ミラーセラピーによる介入後から6カ月のフォローアップ時点において、対照群に対し、優位な効果があったことが報告されている。

ただし、Dphleら⁴もランダム化比較試験の結果から述べているが、ミラーセラピーは脳卒中後の上肢麻痺に対して、確実に効果があるものの、その効果は小さく、このアプローチだけで脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーションが完結することは皆無であると言える。この点については、Constraint-induced movement therapy等、エビデンスが確立された他の運動療法と併用することで、単独でそれらの運動療法を実施するよりも有意な効果があったと述べており、一併用療法としての役割を担うのかもしれない。

一方で、サンプルサイズが小さいためより大規模なランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:以下RCT)が必要であるとも指摘しており、最適な介入時期や時間や環境設定など、またまだ明らかにされていない部分が多く、追加研究が必要な領域である。

ミラーセラピーのアプローチについて

ミラーセラピーは、視覚を通して麻痺側上肢に対して、より具体的でリアルな運動イメージを促すことで、麻痺側上肢の筋運動感覚の再構築に結びつくと考えられている。つまり麻痺側上肢に対して錯覚を促すための、より没入を促す運動イメージを生成することが重要である。

したがって、麻痺側と非麻痺側の間に生じる感覚入力に乖離が大きければ大きいほど運動イメージの生成は困難となり、ミラーセラピーによる効果が現れにくい⁵と考えられている。そのため、アプローチを行う際には、より良い没入体験を創造するために、できるだけリアルな設定に近づける必要がある。

具体的な併用療法としては、非麻痺手に対する企図、意図と言った随意運動コマンドにリンクした電気刺激療法や振動刺激などが挙げられる。

電気刺激療法に関しては、近年注目されているものに、Yiら⁶のContralaterally controlled functional electrical stimulationが注目されている。このアプローチは、刺激電力を麻痺側上肢の促通したい筋に、センサー電極を健側上肢の対応する筋に設置し、健側上肢の随意運動をトリガーとして麻痺側の同部位を刺激するといった介入方法である(本邦でよく使われているIVES[OG技研株式会社,岡山]の健側トリガーモードとよく似たシステム)。これらの方法もミラーセラピー実施時の併用方法としては有効になる可能性を秘めていると思われる。

また、振動刺激に関しては、ミラーセラピーによる運動感覚の生成とハンディーマッサージャーを用いた振動刺激による直接的な感覚入力を併用することで、麻痺側に対する運動イメージを再構築が促進され、身体パラフレニアの改善を認めた症例⁶が報告されている。

【引用文献】 1)Ramachandran VS, et al: Touching the phantom limb. Nature. 1995 Oct 12;377(6549): 489-490. 2)Altschuler EL, et al: Rehabilitation of hemiparesis after stroke with a mirror. Lancet, 1999, 353(9169): 2035-2036. 3)Thieme H, et al: Mirror therapy for improving movement after stroke. Cochrane Datebase Syst Rev, 2012 4)Dohle C, et al: Mirror therapy promotes recovery from severe hemiparesis: a randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair 23: 209-217, 2009 5)平上尚吾, et al: 脳卒中片麻痺患者の上肢運動機能に対する回復期のミラーセラピーの効果―麻痺側手指伸展の随意運動の有無によるサブグループ解析―理学療法科学31(4): 609-613, 2016 6)Yi X, et al: A blink restoration system with contralateral EMG triggered stimulation and real-time artifact blanking. IEEE Trans Biomed Circuits Syst 7: 140-148, 2013

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