パーキンソン病における認知機能障害は,ドーパミンの減少や前頭葉ループの活性低下に関連した様々な症状が,病初期から報告されている.本稿では,パーキンソン病における認知機能障害の詳細について紹介する.

パーキンソン病における認知機能障害や遂行機能障害の有病率は93%に達する1).認知機能症状や精神症状は,運動症状と同様に患者や介護者の問題を引き起こす可能性がある2).

パーキンソン病では,腹側線条体の変性による前頭葉および大脳辺縁系へのドーパミンの減少に加えて,前頭葉ループの活性低下は,この疾患に特徴的な認知機能障害を表す神経科学的プロセスである2,3).

主な要素的認知機能障害

▶遂行機能 遂行機能は,活動の開始,計画,プログラミング,行動の順位付け,行動の順位付け,自己抑制性とセルフモニタリング,行動・行為の正しい選択,思考の柔軟性と時間および空間の調整を含む認知機能セットをいう.前頭前野によるこの機能の障害を遂行機能障害といい,行動開始困難,意欲の低下,優先順位に基づく計画・立案の困難さ,目標指向的な活動の維持困難などが特徴である.

これらの遂行機能は,WCST(Wisconsin Card Sorting Test),TMT(Trail Making Test),BADS(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome)などの神経心理学的検査により評価することができるが,パーキンソン病患者では遂行機能課題における成績の低下が認められている4).Foltynieら5)は2年にわたる研究において,パーキンソン症状の出始めた患者や,認知症状がなく運動症状も軽度な初期段階において認知機能の低下を報告している.

また,Muslimovicら6)も,パーキンソン病患者70例,健常対照115例の神経心理学的評価を比較し,パーキンソン病患者は初期からほとんどの認知機能の領域で有意な障害を認め,なかでも即時記憶および遂行機能の障害が最も顕著であったとした.

▶作業記憶(ワーキングメモリ) レ―ヴン漸進的マトリックス課題(Raven’s Progressive Matrices;RAVEN)においてfMRIを用いて活性化した大脳領域をマッピングした研究では,図形推論,分析的推論は言語的ワーキングメモリや連想記憶,遂行機能,などに関連する背外側前頭前皮質および頭頂葉の領域の活性化を認められている7,8).

Beatoら9)は,パーキンソン病患者におけるワーキングメモリ課題に対するL-ドパの効果を検証した.その結果,パーキンソン病患者は対照群と比較しワーキングメモリ課題の成績は低かった.パーキンソン病患者では,背外側前頭前野と背側尾状核とを結ぶ経路では,特に前頭前野-線条体ループの機能不全を介してワーキングメモリ障害に寄与していることが示唆される10).

L-ドパによる治療に対するワーキングメモリの反応は,正の効果9)を示したとするものや,「オン」「オフ」状態のどちらでも有意な変化はない11)とするものもある.

▶注意機能 注意機能は課題によって示される方向性と集中・持続,および競合する刺激の抑制を包含する.前頭葉機能障害では,周囲からの関連しない刺激に対する易反応性と注意散漫さが注意の集中と持続を困難とし,課題の遂行を妨害する.Campos-Sousaら4)は,パーキンソン病患者に対して,TMT,WCST,RAVENなどの神経心理学的検査により注意抑制性を評価した結果,対照群と比較して有意に成績が低かったことを示した.

パーキンソン病における注意障害は,情報処理の速度を要する課題や,注意喚起,方向性,セットの変換を要する課題などで低下を認め,これらの障害は前頭-線条体回路など前頭葉機能の抑制障害によるものと報告されている12).また,疲労や不安などの精神的不安定と前頭-線条体回路は密接に関連しており,注意機能の低下に関与している13).

▶思考の柔軟性 思考の柔軟性はさまざまな問題解決能力の背後にあるもので,Millnerら14)は,前頭連合野損傷患者にはひとつの課題に柔軟に対応し,いくつかの回答を導く拡散的思考に障害があることを報告した.これは,ひとつの問いにひとつだけ解答を求める収束的思考とは逆に,ひとつの問に複数の解答を求める課題など,物事を柔軟に捉え,多様な思考や創造性を生み出す拡散的思考に前頭連合野が関与している.パーキンソン病患者では,重症度に伴って創造性などの思考の柔軟性が低下することが報告されている15).

抽象推論の能力を評価するために開発されたWCST16)は,ある系統の思考から別の系統の思考に転換する能力を必要とし,思考の操作性や柔軟性に敏感であるとされる.パーキンソン病患者ではWCSTにおいて,健常対照群と比較して元の刺激から新しく提示された刺激へ注意をシフトする能力の低下が認められた17).

▶情報処理速度 パーキンソン病では,無動症としての動作緩慢(Bradykinesia)とともに思考の緩慢さも指摘されている.Pillonら18)は,15個の錯綜図を用いた視覚弁別課題において,パーキンソン病における認知処理速度の遅さを評価した.その結果,認知処理速度の遅さとパーキンソン病重症度は有意に相関した.

Sawamotoら19)は,空間性要素よりも言語性要素の難易度が高い課題において認知的情報の処理速度は低下が明らかであるとしている.また認知的情報処理速度の低下と動作緩慢さの程度は有意に相関したと報告しており,パーキンソン病における緩慢さは運動領域に限定されず,認知的・精神操作を含む領域でも観察されることを示唆した.

社会的認知障害

ヒトの認知機能と行動抑制に関して20),前頭葉-皮質下回路のなかで3つの回路(背外側前頭前野,眼窩前頭前野,前帯状回)が重要であるとし,背外側前頭前野回路では遂行機能障害,眼窩前頭前野回路では抑制障害による社会的行動異常などの症状,前帯状回回路では無気力や意欲低下など,特徴的な行動障害を呈する.そのなかで,特徴的な社会的行動異常について説明する.

▶社会的行動 パーキンソン病患者の一部では,症状の進行や治療と関連して社会的な行動異常が生じることがある.具体的には,ギャンブル依存症,買い物依存症,性行動亢進,摂食行動亢進など様々あり,いずれも日常生活において大きな問題となる.

ギャンブル依存症は,本人や家族に壊滅的な心理社会的影響を及ぼす可能性のある不適応なギャンブルを持続的かつ反復的に繰り返すことを特徴とする行動障害である21).ギャンブル依存症は衝動性と強迫性の特徴,すなわち反復的なギャンブルと負の行動の抑制障害を併せ持つ衝動制御障害と考えられている22).

一般人口におけるギャンブル依存症の点有病率および生涯有病率は,それぞれ1.4%と5.1%と報告されているが23),一般人口と比較しパーキンソン病患者におけるギャンブル依存症の罹患率が高いとされる21).

神経画像化および神経心理学的研究では,ギャンブル依存症と前頭前野および前頭前野に関連する皮質下ネットワークの異常との間に関連性があることが明らかになっている24,25,26).2004年のGoudriaanら24)の神経生物学的研究では,中脳辺縁系構造の機能異常と,ギャンブル依存症患者の脳における報酬経路の神経伝達物質調節の変化,特に神経伝達物質であるドーパミンの変化の両方が強調されている.

これらのことから,ギャンブル依存症とパーキンソン病におけるドーパミン伝達の変化は,共通の病態生理学的機序および2つの病態の臨床的な重複を支持していることが示唆される.

以上のように,パーキンソン病における主な要素的認知機能障害および社会的認知障害については,前頭前野を中心とした特徴的な症状を示す.またパーキンソン病の重症度と関連する報告もあることから,運動機能と並行して認知機能の評価・介入が重要であると思われる.

【共著】 山本 勝仁(北播磨総合医療センター リハビリテーション室)

【引用論文】 1) Pillon B et al. Dopamine and cognitive function. Curr Opin Neurol. 2003;16:17-22 2) Emre M. What Causes mental dysfunction in Parkinson’s disease? Mov Disord 2003;18:63-71 3) Javoy-Agid F et al. Is the mesocorticaldopaminergic system involved in PD? Neurology. 1980;30:1326 4) Campos-Sousa IS et al. Executive dysfunction and motor symptoms in Parkinson’s disease. Arq Neuropsiquiatr. 2010;68:246-251 5) Foltynie T et al. The cognitive ability of an incident cohort of Parkinson’s patients in the UK: the Campaign study. Brain. 2004;127:550-560 6) Muslimovic D et al. Cognitive profile of patients with newly diagnosed Parkinson disease. Neurology. 2005;65:1239-1245 7) Christoff K, Prabhakaran V, Dorfman J, Zhao Z, Kroger JK, Holyoak KJ and Gabrieli JD 2001 Rostrolateral prefrontal cortex involvement in relational integration during reasoning. NeuroImage 14 1136–1149 8) Prabhakaran V et al. Neural Substrates of Fluid Reasoning: An fMRI Study of Neocortical Activation during Performance of the Raven’s Progressive Matrices Test. COGNITIVE PSYCHOLOGY. 1997;33:43-63 9) Beato R et al. Working memory in Parkinson’s disease patients. Arq Neuropsiquiatr. 2008;66:147-151 10) Alexander GE et al. Parallel organization of functionally segregated circuits linking basal ganglia and cortex. Annu Rev Neurosci. 1986;9:357-381 11) Press DZ et al. Cognitive slowing in Parkinson’s disease resolves after practice. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2002;73:524-528 12) Zgaljardic DJ et al. A review of the cognitive and behavioral sequelae of Parkinson’s disease: relationship to frontostriatal circuitry. Cogn Behav Neurol. 2003;16:193-210 13) Pauletti C et al. Attention in Parkinson’s disease with fatigue: evidence from the attention network test. J Neural Transm. 2017;3:335-345 14) Milner B et al. Behavioural effects of frontal-lobe lesion in man. Trends in Neuroscience. 1984;7:403-407 15) 藤原 瑞穂 他,パーキンソン病が創造性と自己評価に及ぼす影響.作業療法1997;16:316 16) Grant DA & Berg EA. A behavioural analysis of degree of reinforcement and ease of shifting to new responses in a Weigl-type card-sorting problem. Journal of Experimental Psychology. 1948;38:404-411 17) Owen AM et al. Contrasting mechanisms of impaired attentional set-shifting in patients with frontal lobe damage or Parkinson’s disease. Brain. 1993;116:1159-1175 18) Pillon B et al. Cognitive slowing in Parkinon’s disease fails to respond to levodopa treatment: The 15-object test. Neurology. 1989;39:762-768 19) Sawamoto N et al. Cognitive slowing in Parkinson’s disease: A behavioral evaluation independent of motor slowing. The Journal of Neuroscience. 2002;22:5198-5203 20) Cummings, J. L. (1993). Frontal-subcortical circuits and human behavior. Archives of Neurology, 50, 873-880 21) Santangelo G et al. Pathological gambling in Parkinson’s disease. A comprehensive review. Parkinsonism and Related Disorders. 2013;19:645-653 22) Holden C. ‘Behavioral’ addictions: do they exist? Science. 2001;294:980-982 23) Petry NM et al. Prevalence, assessment, and treatment of pathological gambling: a review. Psychiatr Serv. 1999;50:1021-1027 24) Goudriaan AE et al. Pathological gambling: a comprehensive review of biobehavioral findings. Neurosci Biobehav Rev. 2004;28:123-141 25) Goldstein RZ et al. Drug addiction and its underlying neurobiological basis: neuroimaging evidence for the involvement of the frontal cortex. Am J Psychiatry. 2002;159:1642-1652 26) Jentsch JD et al. Impulsivity resulting from frontostriatal dysfunction in drug abuse: implications for the control of behavior by reward-related stimuli. Psychopharmacology. 1999;146:373-390

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