脳卒中後上肢麻痺に対する運動イメージ介入(メンタルプラクティス)の概要

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竹林崇 大阪府立大学 教授

1970年代頃から運動イメージを用いた基礎研究は幅広く進展している.そして,運動イメージ手法として代表的であるメンタルプラクティスも臨床研究の発展からエビデンスが示されており,台頭がみられ始めた.本項では第一回目としてこのメンタルプラクティスの概要について解説していく.

メンタルプラクティスの概要

脳卒中後のリハビリテーションの手法の一つとして,メンタルプラクティスというものがある.この手法は,運動の上達を図るために,目標としている運動や技能をイメージとして脳内で再生する練習方法のことを指す.これらは,別名で心的(メンタル)リハーサル,象徴的リハーサルとも呼ばれる.

さて,これらを構成する要素であるが,メンタルリハーサルは状況イメージ,運動イメージにまず大きく分けられる(図1).

さらに,その内の運動イメージについては,過去に体験した骨格筋等から得られる体性感覚を中心とした筋感覚的イメージ1),物理的な対象が存在しないにもかかわらず生じる疑似視覚的な体験を示す視覚的イメージ2)に分割される3).そして,視覚イメージは,一人称的視覚イメージと三人称的視覚イメージに分けられる4).これらのイメージを総じて用いるアプローチのことをメンタルプラクティスと考えられている.

メンタルプラクティスは,信頼にたる手法の一つと言われており,American Heart Associationの成人に対するリハビリテーションガイドラインにおいて,エビデンスレベルAを獲得している5).

メンタルプラクティスの古典的なメカニズム

次に様々なイメージを含むメンタルプラクティスのメカニズムについて解説を行う.

Ingvarら6)は,運動イメージのメカニズムについて,6名の対象者に対し,ゆっくりとした右手の把握を実施した場合と,同様の動作をイメージさせた場合の両方で,前頭葉と側頭葉における脳血流量の増加を認めたと報告している.なお,実際の動作を行った場合,イメージを実施した場合に比べて,中心側頭部に血流量の増加に違いを認めた.

次に,視覚イメージについて,Rubyら7)は,自身の身体運動を客観的に捉える三人称の運動イメージ(視覚イメージ)と自身の身体運動を主観的に捉える一人称の運動イメージ(運動イメージ)陽電子放出断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)を用いて比較したところ,それぞれ実施した際に活動を示す場所が違うことを報告している.

具体的には,両条件ともに,補足運動野,前頭回,楔前部,第5次視覚野が複合的に関わっていた.さらに,一人称視点比べ,三人称視点では,右下頭頂皮質,前帯状皮質,後帯状皮質,前頭極皮質に活性化が認められた.さらに,三人称視点に比べ,一人称視点では左下頭頂皮質と体性感覚野の活性化が認められた.

そして,この研究では,右下頭頂前野,前帯状皮質,体性感覚野を,自己と他者によって生成された行動を区別する考えを示している.

こういったように,イメージするだけでも,脳の中では様々な活動が惹起され,これらをメカニズムとして,身体機能の改善が導き出されているものと一般的に考えられている.

メンタルプラクティスの具体的な効能について

本項では,脳卒中後の上肢麻痺に対するメンタルプラクティスの具体的な効能について,国際生活機能分類(ICF: International Classification of Functioning, Disability and Health)における機能・構造レベル(Body function and structure),そして,活動レベル(activity)のアウトカムに分割して解説を行う.

基本的に多くの研究では,メンタルプラクティス単体で介入を実施するよりも,そのほかの運動療法の効果を修飾する形で併用している研究が多い(ガイドラインにも,補助的な手段として合意的との記載がある).

機能・構造レベルのアウトカムについて

2000年前後から,メンタルプラクティスを併用した介入研究が複数行われている.

Pageら8)は,生活期の脳卒中患者13名を,通常リハビリテーションのみを実施する群(対照群)と通常リハビリテーションに加え,メンタルプラクティスを併用した群(介入群)にランダムに割付け,比較検討を行っている.

介入群は,リハビリテーション後に10分間,「テーブル上のカップに手を伸ばす時の腕と指が伸びている感覚」等,パフォーマンスに関わるあらゆるメンタルイメージを想起するように促した.対称群も時間を統制するために,10分間「脳卒中に関わる情報や知識の朗読」をテープにて聴いた.

これらの結果,介入群が対照群に比べて,Fugl-Meyer AssessmentとAction Research Arm Testの有意な改善を認めた.

活動レベルのアウトカムについて

Pageら9)は,生活期の11名の対象者を,ADL練習にメンタルプラクティスを実施する群(メンタルプラクティス群)と,同様のADL練習のみ実施する群(ADL群)にランダムに割り付けて比較した.

この研究では,介入群においては「手を伸ばしてカップや物体を掴む」,「本のページをめくる」,「鉛筆・ペンの正しい使用方法」を必要に応じてセラピストがストレッチや介助を行いながら実施した.さらに,その後にリラックスできるようなイメージによるリラクゼーションから始まり,リハビリにて行ったADLのメンタルイメージを想起するよう促しが行われた.一方,ADL群では,メンタルプクティス群が実施したものと同様のADL練習を実施し,その後メンタルプラクティスと同時間「脳卒中に関わる情報や知識の朗読」をテープにて聴いた.

結果は表1に示す通り,メンタルプラクティス群の方が,ADL群に比べ,有意な実生活における麻痺手行動の改善を認めた.

【共著】 岸 優斗(出雲市民リハビリテーション病院 作業療法士)

【引用文献】 1)Jeannerod M: The representing brain: Neural correlates of motor inten-tion and imagery. Behav Brain Sci 17:187-245, 1994 2)Kosslyn SM et al (武田克彦・訳) :心的イメージとは何か.北大路書房, 2009. 3)Guillot A, et al: Brain activity during visual versus kinesthetic imagery: an fMRI study, Hum Brain Mapp 30: 2157-2172, 2009 4)Holmes P, et al: A neuroscientific review of imagery and observation use in sport, J Mot Behav 40: 433-445, 2008 5)Winstein CJ, et al: guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery. A guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/ American Stroke Assocciation. Stroke 47: e98-107, 2018 6)Ingvar DH et al: Distribution of cerebral blood flow in the dominant hemisphere during motor ideation and motor performance. Ann Neurol 2:230-237, 1977 7)Ruby P et al: Effect of subjective perspective taking during simulation of action: a PET investigation of agency. Nat Neurosci 4:546-550, 2001 8)Page SJ. Levine P. et al.: A randomized efficacy and feasibility study of imagery in acute stroke.Clin Rehabil 15: 233–24,2001 9)Page SJ, Levine P, et al.: Effects of mental practice on affected limb use and function in chronic stroke. Arch Phys Med Rehabil 86:399-402, 2005

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