目標設定介入に活用されるツール④〜絵カードを用いたツール〜

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竹林崇 大阪府立大学 教授

今回は目標設定ツールのなかでも絵カードを用いたAPCDやTalking Matsといったツールについて解説する。

意思表示が困難な方への目標設定支援ツール

近年認知症や失語症を呈することにより、意思表示が困難な事例に対応する際の意思決定支援の重要性が指摘されている¹⁾。認知症を呈する方におけるADOCの適応を調査した研究ではMMSE8点がカットオフ値となっており、認知機能の低下がある場合でも視覚的情報を用いた支援ツールを使用することで意思決定への参加を促せる可能性が示唆されている。今回は認知症・失語症を呈する方に対する意思決定支援の概要と、補助手段として用いることができるイラストを使用した目標設定支援ツールについて解説してゆく。

認知症を呈する方への支援ツール:認知症高齢者の絵カード評価法(APCD)

Hirschmanらは²⁾ペンシルバニア大学アルツハイマー病センターのクリニックを利用する患者に対しての研究で、軽度から中等度の認知症を呈する方に対して意思決定の参加に対する希望を聴取したところ、ほとんどの参加者が「医学的治療の意思決定へ参加したい」と回答したという報告がみられた。海外の報告にはなるが、自らが意思決定に参加することを希望する意見は一定数存在しており、認知症の有無によって意思決定参加の必要性が判断されるべきではないことが読み取れる。では認知機能障害を呈する方への、意思決定参加をどのように促せばよいか。以下に活用が見込まれる支援ツールの一つを紹介する。

本邦では認知症を呈する方への意思決定支援ツールとして、認知症高齢者の絵カード評価法(APCD)が開発されている。APCDは人間作業モデル(MOHO)を基盤に作成されており、本邦にて信頼性・妥当性の検討がなされている³⁾。

本研究では再検査信頼性と検者間信頼性、基準関連妥当性が統計解析を用いて分析された。結果として、複数回測定時や、検者が異なる測定時においての項目一致度は『中等度の信頼性』が報告された。ただし、統計処理の際に『中等度の信頼性』とした判定基準は明示されておらず、結果の解釈に注意が必要である。また、絵カード評価法とCOPMを比較した基準関連妥当性では高い一致率を示しており、COPM同様に意味のある作業を特定できる可能性が示唆された。

使用する際には、日本人間作業モデル研究所より有料で販売されているマニュアルが必要となる。研究状況としては学会発表での事例報告が散見されるが、その適応範囲や効能などは不明な点が多い。ただし本邦において認知症高齢者に対する支援ツールは限られており、今後の有益な知見に期待したいと考える。

Allyら⁴⁾は中等度のアルツハイマー型認知症を対象とした記憶再生課題において、文字刺激と比較して画像刺激の正答率が高かったことを報告している。また、認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドラインにおいても、認知症を呈する方への意思決定支援の際には、図や表を使った確認が推奨されている⁵⁾。認知症を呈する方への意思決定支援の際には、APCDやADOCなどイラスト等が含まれたツールを併用することで、可能な範囲での意思表出を促すことが望ましいと考える。

失語症を呈する方への支援ツール:Talking Mats

Worrallは、失語症を呈する方が意思決定に参加する際に困難さが生じることを報告している⁶⁾。また意思決定が困難となる要因として、コミュニケーション能力の低下により、意思決定の際の誤りが生じる可能性が示唆されている⁷⁾。このような背景をもつ際に、通常の支援のみでは目標設定までこぎつけることの困難さが想定されるため、認知症同様に支援ツールの使用が勧められる。ここで失語症の意思決定支援の研究で用いられているTalking Matsについて解説する。

上記のAPCDと同様に絵カードで意思決定を支援するツールとしてTalking Matsがある。Talking Matsは1998年にスコットランドのスターリング大学にて開発されたコミュニケーション支援ツールであり、言語指示のみではコミュニケーションが困難となる症例を対象としている。本邦では一般社団法人日本意思決定支援ネットワークが日本語版を販売している。(図1)

図1 Taiking Matsの写真 https://readyfor.jp/projects/talkingmats より引用

イラスト内容はICFの活動レベルにあたる内容が主となっており、COPMとの併用下での報告がなされている。介入研究としては脳卒中後の認知機能障害例⁸⁾・失語症例⁹⁾に対して検証がなされており、目標や日々のケアに対して対象者本人の意思が反映されていたかを効果指標としている。

認知機能障害を有する方,6名に対してTalking Matsを使用した研究では、COPMのプロセスに含まれる『問題の抽出』、『重要度評価』の工程において、対象者の参加が促進された結果を示している⁸⁾。また失語症例に対しては、Talikng Matsを適応する際のプロセスや、その適合可能性について検討されている⁹⁾。これらは単一事例への適応例の報告まではみられるが、対照群との比較検討などは示されておらず、有用性には疑問が残る段階である。

Talikng Mat使用場面の観察やインタビューなどの質的研究では、一部その有用性が報告されている。しかし質的研究の多さから信頼性の判断が難しい点や、「対象者の意思が表出されたかを判断する」ことへの明確な判断基準を測定する評価バッテリーは存在しない点など、効果検証に対する問題がある。

人が心的にイメージを喚起する認知過程には、抽象的・言語的思考による言語システムと、具体的なイメージ表象に基づいた非言語的なイメージシステムの2つの様式を同時に用いた方が、記憶の再生成績がよいと言われており¹⁰⁾、理論的・体感的にイラストを用いたツールの活用が失語症に対して有効な印象を臨床上受ける場面がある。ほか本邦においては失語症に対してADOCを用いた事例報告がなされているが、いずれの支援ツールにおいても現段階での介入効果は検証中である。

認知症、失語症を呈する方への意思決定支援

上記の内容から、認知症・失語症を呈する方の支援方法として、イラストなどの視覚情報を追加したツールを用いる対応が試みられていることが分かった。しかし、その効果判定はいまだ不明確であり、一概にイラストがあればよいという訳ではないことが判断される。イラストツール使用以外の支援方法としては、ガイドライン⁶⁾より「本人の意思の尊重」「本人の意思決定の配慮」「チーム(家族・関係者)による早期からの継続的支援」がポイントとして推奨されている。ここから考える具体的な対策としては、対象者の理解度の確認や、家族・関係者と共に意思決定をするなどの方法が挙げられる。これらも対象者の重症度・コミュニケーション能力に応じて臨機応変に活用されるべきであり、短絡的に方法論のみを適応することは避けたい。

前回のコラム「目標設定におけるコンフリクト」で述べたように、意思決定支援はそれだけでも高度な難易度を有する課題となりうるため、ここにコミュニケーション能力という変数が加わることは、より混乱をもたらす可能性も考えられる。また対象者に対して過剰に意思決定をせまることは、対象者に対してストレスを加える可能性も想定される。それでも、可能な範囲で対象者の意思決定を支援することで得られるメリットもあるため、セラピストの提供手段の一つとして持ち合わせておきたい。

【共著】  高瀬 駿(川崎協同病院 作業療法士)

【引用文献】 1)Miller LM,Whitlatch CJ,Lyons KS:Shared decision making in demeitia: A review of patient and family carer involvement. Dementia(London)15:1141-1157,2016 2)Hirschman KB, Joyce CM, James BD, et al: Do Alzheimer’s disease patients want to participate in a treatment decision, and would their caregivers let them? Gerontologist 45: 381-388, 2005 3)井口ら: 認知症高齢者の絵カード評価法の信頼性と妥当性の検討.作業療法30(5):526-538,2011 4)Ally BA, Gold CA, Budson AE: The picture superiority effect in patients with Alzheimer’s disease and mild cognitive impairment. Neuropsychologia 47:595-598,2009 5)厚生労働省:認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン.(2018年12月10日アクセス)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakuzouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf 2018 6)Worrall L:Professionalism and functional outcomes. Journal of Communication Disorders 39:320-327,20068 7)Worrall L:Conceptualising quality of life for older people with aphasia.Aphasiology 24(3),327-347,2010 8)Vita H,Mette K,et al :Canadian Occupational Performance Measure Supported by Talking Mats: An Evaluation of the Clinical Utility.Occipational Therapy International,Volume2019. 9)Bornman J, Murphy J:Using the ICF in goal setting: clinical application using Talking Mats. Disability and Rehabilitation. Assistive Technology.1(3):145–154.2006 10)Paivio A:Imagery and verbal processes. Psychology Press, New York.2013.

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