前回までは肩甲骨の異常運動「Scapular Dyskinesis」について解説、およびその評価方法と改善するための運動を紹介してきました。Scapular Dyskinesisが生じることによる問題は、肩甲上腕関節に対してメカニカルストレスが加わってしまい、痛みや可動域制限の原因が生じてしまうことだと考えられます。今回からはその痛みについて解説し、一因となる肩峰下インピンジメント症候群について、肩甲上腕関節側と肩甲胸郭関節側の両方の側面から考えていきたいと思います。

肩峰下インピンジメント症候群でなぜ痛みが生じる?

肩峰下インピンジメント症候群とは、肩峰の下で軟部組織が衝突してしまうことを指します。Neerは以下のように肩峰下インピンジメント症候群を3つのstageに分けています1)。

▶Stage1 浮腫及び出血期:スポーツ選手などに見られ、上肢の挙上を繰り返すことによって生じる。 肩関節亜脱臼や肩鎖関節の障害によって生じることが多い。 経過は良好で可逆的である。

▶Stage2 繊維化、腱炎症の時期 若年〜40代のオーバーヘッドスポーツ愛好家や労働者に多い。 肩関節周囲炎や、凍結肩、石灰沈着腱炎などによって生じる。 スポーツや仕事を繰り返すと症状が増悪する。

▶Stage3 骨棘形成や腱板の部分〜完全断裂の時期 一般的に40歳以降に見られることが多い。 頸椎症性神経根や腫瘍があげられる 経過が増悪しやすい。

Stage2になると肩峰下滑液包や烏口肩峰靭帯の切除術、stage3では肩板機能を保障するための肩板修復術を行うこともあるようです。また鏡視下肩峰下除圧術を行うことで、インピンジメント障害の再発率が4.7%であったという報告もあります2)。

痛みの原因としては、一般的には棘上筋腱が肩峰下で直接接触して受けることによるものや、痛みの感覚受容器が富んでいる肩峰下滑液包への圧変化によるものが考えられます。ただ、いずれにしても「上腕骨頭と肩峰の距離が狭小化するとインピンジメントが出現する」ということが関与していると思われます。

この図を見てみると、通常、肩関節が挙上(外転・屈曲)する際には棘上筋などの肩板筋の作用で上腕骨頭が関節面に対し求心位をとり、適切な転がり運動が生じます。加えて、そこに肩甲骨の上方回旋+後傾が生じます。

ですが、図に示す①棘上筋の断裂、②肩後下方組織の柔軟性低下が起こると、上腕骨頭が関節面に対し求心位を取ることが困難となります。その結果、上腕骨頭の上方偏位が起こってしまい、インピンジメントが生じやすくなってしまいます。インピンジメントを繰り返すと軟部組織に対して炎症が起こり、痛みが生じてしまうのは容易に想像できるかと思います。

肩峰下インピンメントを考えるときには肩甲骨の動きを見ることも重要

ここまでは、主に肩甲骨上腕関節、つまり上腕骨側に生じる問題のことを記載させていただきました。ですが、肩峰は肩甲骨の部位であるので肩甲骨側の問題も考慮する必要があります。

これは私がよく用いる胸郭の動きが悪くなった時の例なのですが、胸郭の伸展が生じなくなれば肩甲骨が前傾位になりやすく、後傾の動きが起こりません。つまり肩峰が上腕骨に覆い被さるようになってしまい、インピンジメントが起こる条件と考えられる「上腕骨頭と肩峰の距離が狭小化」になってしまいます。また胸椎の後弯(猫背)や肩甲骨周囲筋の筋力低下はインピンジメントの原因となるとされています3)。

これらのことから、肩甲上腕関節のみの介入でなく、肩甲胸郭関節の部分にも着目してみることで、改善の糸口が見つかるかもしれません。

肩甲骨の機能評価は以前のコラム「Scapular Dyskinesisとは何か?肩甲骨の動きを評価してみよう」を、それ付随する胸郭機能の評価は「意外と知らない胸郭のバイオメカニクスと実際の評価方法について」を参照していただければ幸いです。

次回は肩峰下インピンジメントに対してのアプローチ方法を紹介したいと思います。

【参考文献】 Neer CS Ⅱ, et al, supraspinatus outlet. Orthop Trans, 11,234, 1987 伊藤陽一ら, 肩峰下除圧術を併用した肩関節鏡視下手術後におけるインピンジメント再発の原因究明, 肩関節,30巻 3号,495−498,2006 鈴木一秀, 筒井廣明, 肩甲胸郭関節機能が肩峰機能に及ぼす影響の筋電図学的検討, 別冊整形外科36, 19-22, 1999

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