本コラムでは,脳卒中のリスクファクターと言われている代謝疾患の関連とその予防の重要性について解説する。

はじめに

代謝障害は脳卒中発症の危険因子であることは周知の通りである。また、脳卒中発症後も再発することは少なくない。Hataら1の報告では脳卒中発症後の再発率は、5年で35.3%、10年では51.3%でありその内、くも膜下出血70.0%、脳出血55.6%、脳梗塞49.7%とある。実に脳卒中発症後10年間で約半数が再発している。その為、脳卒中発症後も、代謝障害に対する治療を継続して行うことは重要である。

脳卒中を罹患した対象者と関わる場合、脳卒中後の上下肢麻痺や高次脳機能障害などの機能障害や能力低下のみに着目するのではなく、全身状態の管理や、代謝障害による心身への影響を鑑みる必要がある。

では、代謝障害がどのように脳卒中に関連しているのかを、予防の重要性も含めて解説していきたい。

代謝障害と脳卒中の関連

血糖コントロールの指標であるHbA1c の心血管疾患の発症の予測因子としての有用性を明らかにするために、2,851 人を7 年間追跡したIkedaら2の研究がある。対象者を、糖尿病治療薬非使用者についてHbA1cレベルで5.0%以下、5.1~5.4%、5.5~6.4%、6.5%以上の4 群に分類しこれに糖尿病治療薬使用者を加えた5 群に分けると、HbA1c レベルが高くなるにしたがって脳梗塞と虚血性心疾患の発症リスクは直線的に上昇したという報告をしている。さらに、HbA1cが6.5と糖尿病予備軍といわれる群から、心血管疾患の発症率が優位に高くなっており、比較的数値が低い場合でも、脳梗塞のリスクが上昇することがわかる。

脂質異常症に関しては、Imamuraら3の報告で、non-HDL コレステロール(総コレステロールからHDLコレステロールを引いたもの)レベルと心血管疾患発症との関連を病型別に検討し、non―HDLコレステロール値とアテローム性脳塞栓症発症のリスクが優位に上昇したとある。これらの報告からも、現代の生活習慣病は脳卒中の危険因子となることは自明である。

糖尿病と脂質異常症による脳卒中危険因子の機序

それでは、糖尿病と脂質異常症が脳卒中の危険因子となり得るかについて解説する。

Miyoshi4らは高血糖による細胞障害にかかわる血管内皮の受容体receptor for advanced glycation endproducts (RAGE)が血管内皮の炎症を惹起することで血管合併症の病因に深く関与する分子機序を明らかにした。さらに、高LDL状態になるとLDLが血管壁へ取り込まれ、泡沫細胞を形成することにより粥状動脈硬化を進展させる作用が報告されている(山田5)。これらの様に、様々な機序により代謝障害を有していることで、血管系への侵襲が加わり、脳血管が破綻し、脳卒中を罹患する可能性が高くなると考えられている。

代謝障害に対する脳卒中予防の効果

以上の事からも脳卒中発症のリスクを低減するためには、糖尿病や脂質異常症の治療は必須であることはわかる。では、どのような予防行動が必要になるのだろうか。

Robertら6の報告では糖尿病患者に対して、血糖コントロールに加えて、厳格な血圧コントロールにより発症が44%低下したとある。さらに、Gaedeら7は脳卒中予防のためには、血糖や脂質、血圧などの単一の危険因子の治療に比べて、包括的に治療を行うことで、脳血管を含む心血管イベントのリスクがそれぞれ約25%減少したと報告している。

以上の様に、糖尿病や脂質異常症などの診断があった際には、その後の脳卒中発症の危険因子への常々の対応が必要である。眼前の脳卒中発症後の対象者が、仮にこれらの代謝疾患に対するコントロールが不十分であった場合には、療法士は全身状態の把握を試みた上で、主治医に上記のコントロールに対して質問し、意図を確認する必要がある。

【共著】 畠 朋成(脳梗塞リハビリセンター)

【参考文献】 1) HATA J, et al: Ten year recurrence after first ever stroke in a Japanese community:the Hisayama studyJ.Neurol.Neurosurg.Psychiat 76:368-372, 2005 2) Ikeda F, et al: Haemoglobin A1c even within non-diabetic level is a predictor of cardiovascular disease in a general Japanese population: the Hisayama Study. Cardiovasc Diabetol12: 164, 2013 3) Imamura T, et al: Non-high-density lipoprotein cholesterol and the development of coronary heart disease and stroke subtypes in a general Japanese population: the Hisayama Study. Atherosclerosis 233: 343–348, 2014 4) Miyoshi, et al:JNK and ATF4 as two important platforms for tumor necrosis factor-α–stimulated shedding of receptor for advanced glycation end products. FASEB Journal 33(3):3579-3589,2019 5) 山田信博:動脈硬化発症病態としての生活習慣病.日薬理誌131:89-91,2008 6) Robert T, et al: Tight blood pressure control and risk of macrovascular and microvascular complications in type 2 diabetes. BMJ317:703-713,1998 7) Gaede P, et al: Effect of a multifactorial Intervention on moratality in type 2 diabetes. NEngl J Med 358:580-591,2008

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