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脳損傷後の上肢麻痺に対する Wolf Motor Function Test

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竹林崇 大阪府立大学 教授

脳卒中の上肢能力を評価するツールとして確固たる地位を築いている Wolf Motor Function Test. “EXCITE trial” を初め多くの CI 療法関連研究でも使用されてきた本ツールは, 臨床利用するために必要な評価特性を十分に有している. 評価キットが一般販売さていないデメリットもあると思われるが, 裏を返せばそれはお金をかけずどんな臨床家でも利用できるメリットを有しているとも受け取ることができるのではないだろうか. そんな本ツールの開発経緯とその内容, そして臨床利用する上でのポイントについて解説する.

目次

    開発の歴史

    Wolf Motor Function Test (WMFT) の原型となったツールが開発されたのは, constraint-induced movement therapy(CI 療法)の効果を検討するためであった(開発当時は, CI 療法という用語がまだなく forced use [強制使用] という用語が採用されていた). その基になったツールは, 1989年の Steven L. Wolf の研究チームによる脳損傷患者への初の CI 療法の体系的実践研究で報告されている[1]. Wolf が当時から現在に至るまで長期に渡り所属するアメリカ合衆国の名門私学であるエモリー大学で開発されたという背景から, Emory Motor Function Test として紹介されることもあった[2]. しかし最終的には, 課題数を減らすなどの修正後に主要開発者である Wolf の名前を冠しWolf Motor Function Test (WMFT) という名称で一般に広まった[3, 4].

    評価内容と特性

    WMFT という名前で正式に認識されているツールの課題数は17課題だと思われるが, 実際には, 視点が異なる筋力に関連する2課題を除いた15課題の結果が着目されることのほうが多い. その15課題は, 単純な関節運動を要求する6課題と, 物品操作を要求することで手指機能と上肢全体を含めた統合的な機能を評価する9課題で構成されている. 本ツールは International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF) 分類でいうところの活動(activity)にフォーカスするツールとしての認識が強いが, その構成内容に目を向けると半数近くが心身機能・身体構造(Body function and structure)に関連した項目だという事実も重要となる. つまり評価ツール分類における ICF はあくまで共通理解のための代表フレームワークあって, 実際のところは各構成要素(心身機能・身体構造, 活動, 参加)の境界は明確ではなく, その間に連続した程度の違いも必要に応じて認めるべきというのが筆者の立場である.

    本ツールのスコアリングシステムは2つある. 各課題の遂行にかかった所要時間, そしてそれと同時に課題遂行時の動作の質を6段階(0, 1, 2, 3, 4, 5)で採点する Functional Ability Scale (FAS) である. 得点範囲は 0–75 点で, 得点が高いほど運動機能が高いこととなる. 両システムともその合計値ではなく, 代表値(平均値や中央値など)が比較対象とされることが比較的多い. ちなみに, 要求された課題を完遂することができなかった場合の遂行時間は “120秒” との扱いになるため, 課題完遂が困難な患者を対象とする場合には, 外れ値からの影響を受けにくい中央値を採用したほうがよい可能性がある[3].

    評価特性検討結果に関しては, 検者間信頼性においても高い再現性(reliability coefficients ≥0.88)が報告されている[3, 4, 5]. また, 妥当性検討においても同じ運動機能評価ツールに対して強い関連性(Spearman’s rank correlation coefficients =0.70–0.86, p <0.01)が確認されている[5].

    臨床実践に対するインプリケーション

    十分な評価特性検討結果を有しているとして, 上肢機能評価領域で Fugl-Meyer Assessment (FMA) や Action Research Arm Test と並ぶ存在として扱われており[6], 臨床における利用が推奨される. 本邦においても, 高橋らが日本語版 WMFT を厳密な手法にて翻訳し, その後適切なレベルの評価特性検討結果を報告している[7]ため, 国内における使用環境も十分に整っていると考えられる.

    変化値に対する解釈で参考となる報告は複数あるが, 今回は 2009年に報告された Keh-chung Lin という作業療法士を中心とした台湾の研究チームの報告[8]を参考にしたい. 彼らは57名の慢性期脳卒中患者を対象に WMFT の変化値の解釈に有用な情報を複数のアプローチで算出している. FMAの 6–10点の変化をアンカーとして算出された基準値とその分布情報から, 遂行時間においては平均 1.5–2.0秒, そして FAS においては平均 0.2–0.4点の変化が臨床的に意味を持つ最小の変化値として提案されている.

    注意点の一つとして, 本ツールが軽度から中等度の上肢運動機能麻痺を呈する患者を想定して作られているという点を最後に挙げておく. この特性は Motor Activity Log 同様に CI 療法の産みの親である Edward Taub が属するアラバマ大学心理学研究室にて問題とされ, 重度上肢運動機能麻痺用の WMFT が早い段階で開発されている[9]. そして開発後も継続的に臨床利用されている[10]ため, 興味がある方は目を通してみるのもいいのではないだろうか.

    【共著】天野暁(新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 作業療法学科 講師)

    【References】
    1. Wolf SL, Lecraw DE, Barton LA, et al. Forced use of hemiplegic upper extremities to reverse the effect of learned nonuse among chronic stroke and head-injured patients. Experimental neurology. 1989 May;104(2):125-32. doi: 10.1016/s0014-4886(89)80005-6. PubMed PMID: 2707361; eng.
    2. Taub E, Miller NE, Novack TA, et al. Technique to improve chronic motor deficit after stroke. Archives of physical medicine and rehabilitation. 1993 Apr;74(4):347-54. PubMed PMID: 8466415; eng.
    3. Morris DM, Uswatte G, Crago JE, et al. The reliability of the wolf motor function test for assessing upper extremity function after stroke. Archives of physical medicine and rehabilitation. 2001 Jun;82(6):750-5. doi: 10.1053/apmr.2001.23183. PubMed PMID: 11387578; eng.
    4. Wolf SL, Catlin PA, Ellis M, et al. Assessing Wolf motor function test as outcome measure for research in patients after stroke. Stroke. 2001 Jul;32(7):1635-9. doi: 10.1161/01.str.32.7.1635. PubMed PMID: 11441212; eng.
    5. Nijland R, van Wegen E, Verbunt J, et al. A comparison of two validated tests for upper limb function after stroke: The Wolf Motor Function Test and the Action Research Arm Test. Journal of rehabilitation medicine. 2010 Jul;42(7):694-6. doi: 10.2340/16501977-0560. PubMed PMID: 20603702; eng.
    6. Bushnell C, Bettger JP, Cockroft KM, et al. Chronic Stroke Outcome Measures for Motor Function Intervention Trials: Expert Panel Recommendations. Circulation Cardiovascular quality and outcomes. 2015 Oct;8(6 Suppl 3):S163-9. doi: 10.1161/circoutcomes.115.002098. PubMed PMID: 26515205; PubMed Central PMCID: PMCPMC5289112. eng.
    7. 高橋香代子, 道免和久, 佐野恭子. 新しい上肢運動機能評価法・日本語版 Wolf Motor Function Test の信頼性と妥当性の検討. 総合リハビリテ-ション. 2008;36(8):797-803.
    8. Lin KC, Hsieh YW, Wu CY, et al. Minimal detectable change and clinically important difference of the Wolf Motor Function Test in stroke patients. Neurorehabilitation and neural repair. 2009 Jun;23(5):429-34. doi: 10.1177/1545968308331144. PubMed PMID: 19289487; eng.
    9. Uswatte G, Taub E. Constraint-induced movement therapy: new approaches to outcome measurement in rehabilitation. Stuss DT WG, Robertson IH, editor.: Cambridge: Cambridge Univ Pr; 1999. (Cognitive neurorehabilitation: a comprehensive approach.).
    10. Uswatte G, Taub E, Bowman MH, et al. Rehabilitation of stroke patients with plegic hands: Randomized controlled trial of expanded Constraint-Induced Movement therapy. Restorative neurology and neuroscience. 2018;36(2):225-244. doi: 10.3233/rnn-170792. PubMed PMID: 29526860; eng.

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