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  3. 痛みの定義の改定①〜改定の背景とその作成方法〜

今回、国際疼痛学会(International Study for the Pain: IASP)により痛みの定義が改定されました。その改定を踏まえて、改めて「痛みの定義」を3回シリーズで解説していきたいと思います。第1回は改定の背景やその作成方法について解説していきます。

目次

    はじめに

    今回、国際疼痛学会(International Study for the Pain: IASP)により痛みの定義が改定されました。前回の定義が発表されたのが41年前(1979年)になりますので、私と同い年です…なぜか感慨深いものがあります(笑)。

    1979年に制定された痛みの定義「実質的または潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはこのような損傷を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験である」は、これまでの間、多くの医療従事者、痛み分野の研究者が用いてきました。

    41年の歴史の中では、関連する痛みの用語のリストが改定・更新されてきましたが(1986年、1994年、2011年)、根本的な定義そのものは1979年から41年間変わっていませんでした。しかし、痛みの研究の進歩に伴い、定義を再評価する必要性を一部の方々が唱え始めました [1-4]。

    それによって2018年の春に世界各国から臨床と基礎科学の専門知識を持つ14名のタスクフォースが形成されました(図1)。タスクフォースのメンバーは、その後約2年間にわたって審議を重ね、今回の改定に至りました。ちなみに、タスクフォースのメンバーの一人が、私の大学院の指導教授でもある牛田享宏先生(愛知医科大学学際的痛みセンター 教授)です。いつも丁寧で、素晴らしい仕事をされる牛田先生には、心から尊敬の念を抱いています。

    図1. 痛みの定義の改定に関わったタスクフォースのメンバー

    国際疼痛学会による痛みの定義を改定するための賛成派と反対派の議論

    痛みは強さ、質、持続時間の範囲が広く、多様な病態生理学的メカニズムと意味を持っています。したがって、そのような痛みを簡潔な定義で表現することは非常に難しい問題です。IASP分類学小委員会の委員長であるMerskeyは、痛みは「心理学的な概念であり、物理的な尺度ではない」と提言しており、痛みの経験は有害な刺激とは区別されなければならないことを強調しています。

    このように、1979年に制定された痛みの定義は、組織の損傷が痛みの一般的な前兆であるが、組織の損傷がなくても痛みが存在することを認めています。その意味でも1979年に制定された定義は、非常にシンプルかつ簡潔な内容といえます。そして、過去の定義は、臨床家、研究者、世界中の痛みを持つ人々に痛みという言葉の共通の理解を提供するのに役立ち、健康政策、研究、臨床に影響を与えました。

    その一方で、過去の定義では、心と身体の相互作用の多様性が含まれていないことが問題視されていました [5]。また、過去の定義では「痛みの倫理的次元」を無視しており、新生児や高齢者のように、権限を奪われ、無視されている人々の痛みが十分に考慮されていないことが指摘されていました [6, 7]。

    さらに、「不快」という用語は、多くの急性および慢性の痛みの状態に関連した激しい痛みや苦しみをすべて表現できていない可能性が指摘されてきました [8-11]。加えて、痛みは症状以上のものを表し、特に慢性疼痛は独自の臨床経過を持つ疾患という観点から捉える必要性が指摘されています [12,13]。新しい定義においては、これらの観点が反映したものでなければいけませんでした。

    新しい定義の作成方法

    タスクフォースのメンバーはウェブ会議、電子メール、対面会議による議論を重ねてきました。また、タスクフォースは、生命倫理学者、哲学者、言語学の専門家など、外部の機関にも助言を求めました。さらに、タスクフォースは、IASP の会員と一般の人々を含むより広いコミュニティからもコメントを求めました。初期の定義とそれに付随する注釈は、2019 年 8 月に IASP のウェブサイトで公開され、1 ヶ月の間に一般の人々からの書面によるフィードバックを募りました。すべてのフィードバックのソースを考慮に入れ、修正を繰り返して出来上がったものが図2になります。


    図2. 1979年と2020年の痛みの定義(上段:原文、下段:日本疼痛学会による翻訳)

    具体的な内容や詳細については、次回以降解説していきます。

    【参考文献】
    Anand, Kanwaljeet JS, and Kenneth D. Craig. New perspectives on the definition of pain. Pain-Journal of the International Association for the Study of Pain 1996;67.1: 3-6.
    Aydede, Murat. Does the IASP definition of pain need updating?. Pain Reports 2019;4.5.
    Treede, Rolf-Detlef. The International Association for the Study of Pain definition of pain: as valid in 2018 as in 1979, but in need of regularly updated footnotes. Pain reports 2018;3.2 .
    Williams, Amanda C. de C., and Kenneth D. Craig. Updating the definition of pain. Pain 2016;157.11:2420-2423.
    Morris DB. The challenges of pain and suffering. In: Jensen TS, Wilson PR, Rice ASC, editors. Clinical pain management: chronic pain. London: Arnold, 2003. pp. 3–14.
    Anand KJS, Rovnaghi C, Walden M, Churchill J. Consciousness, behavior, and clinical impact of the definition of pain. Pain Forum 1999; 8:64–73.
    CunninghamN.Primaryrequirementsforanethicaldefinitionofpain. Pain Forum 1999;8:93–9.
    Carr DB, Loeser JD, Morris DB. Narrative, pain and suffering. Seattle: IASP Press, 2005.
    Cohen M, Quintner J, van RS. Reconsidering the International Association for the Study of Pain definition of pain. Pain Rep 2018;3:e634.
    Fields HL. Pain: an unpleasant topic. PAIN 1999(suppl 6):S61–9.
    Williams AC, Craig KD. Updating the definition of pain. PAIN 2016;157: 2420–3.
    Loeser JD, Treede RD. The Kyoto protocol of IASP basic pain terminology. PAIN 2008;137:473–7.
    TreedeRD,RiefW,BarkeA,AzizQ,BennettMI,BenolielR,CohenM, Evers S, Finnerup NB, First MB, Giamberardino MA, Kaasa S, Korwisi B, Kosek E, Lavand’homme P, Nicholas M, Perrot S, Scholz J, Schug S, Smith BH, Svensson P, Vlaeyen JWS, Wang SJ. Chronic pain as a symptom or a disease: the IASP classification of chronic pain for the international classification of diseases (ICD-11). PAIN 2019;160: 19–27.

    ※本文は「Raja, Srinivasa N., et al. The revised International Association for the Study of Pain definition of pain: concepts, challenges, and compromises. PAIN ,2020.」を参考に、筆者が独自に書いたものです。原文の内容とは意図しない内容が含まれている可能性があります。

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