ファンクショナルトレーニングを実践するにあたって、ストレングストレーニングは主に運動特性を考慮して自重で行うトレーニングのことを意味します。しかし、自重トレーニングの負荷量について調べたことがある方はどれ位いるでしょうか?

今回は自重で行うトレーニングの中でポピュラーなものの筋活動量について記載しました。最後には総負荷量についても触れていますので、特に理学療法士や作業療法士の方に読んでいただきたい内容になっています。

自重トレーニングで筋力増強は可能か?

ファンクショナルトレーニングは、自重トレーニングを実際の動きに近い動作で行います。

世間一般でいうストレングストレーニングとしてはBIG3(バーベルを持ったスクワット・ベンチプレス・デッドリフト)やダンベル・ケトルベルを用いたトレーニングなど、筋力を高めるためのトレーニングを想像するかと思います。

となると、「自重トレーニングでは筋力増強を図れないのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。近年では「総負荷量」を高めることによって、筋力増強や筋肥大を図ることができると言われています。そこで、まずは自重で行う代表的な運動の筋活動量を示していきます。

※全て実験の被験者は怪我の既往の無い健常人です ※図表がかなりBusyですがご了承ください

1.腕立て伏せ

腕立て伏せは主に大胸筋・三角筋・上腕三頭筋を使うトレーニングです。

腕立て伏せだけでは筋肥大は図れないなどと巷ではいわれていますが、片手で実施もしくはサスペンション(TRXやレッドコード)などを用いることで筋活動量は飛躍的に向上することが確認できます。また、肩の障害を負った選手のアスレティックリハビリテーションとしては両手で通常通り行っても十分な負荷をかけられると考えられます。

2.股関節周囲・体幹トレーニング

ブリッジ運動(Hip Up)は主に殿筋群のトレーニングとして行われていることが多いですが、実は脊柱起立筋の筋活動量の方が圧倒的に高値です³⁾。殿筋群を賦活したいのであれば、股関節伸展筋である大殿筋やハムストリングスを働かせ、骨盤後傾を促す方が効果的であるといえるでしょう。

スクワットでは大腿の遠位にバンド等で抵抗をかけることで、殿筋群の活動が20~30%MVCまで向上します。工夫することで殿筋群にも負荷をかけることがある程度は可能になります⁴⁾。

開排動作を徒手やバンドで縛った最大出力を促すと、OKCでの股関節外転運動よりもはるかに筋活動が向上するという結果があります。しかし、この運動で活動性の高い人(アスリートや若い症例の方)に無負荷で行うことは筋力増強には効果的でないといえるのではないでしょうか。ただし、ご高齢の骨折の方や術後間もない方であればまた話は少し変わってくると思います。

体幹トレーニングについては、表で示したものよりも、垂直飛びやメディシンボールなげなどのトレーニングの方が体幹筋の筋活動がより大きいという結果が今回調べた論文⁷⁾では報告されています。また、この論文では腹腔内圧と体幹筋活動の相関も出しており、その結果では腹腔内圧と脊柱起立筋の筋活動に相関があったとし、体幹の伸展モーメントを発揮する際に腹腔内圧が向上するのではないかと結論づけていました⁷⁾。

トレーナーや理学療法士は、姿勢制御の改善を目的に体幹トレーニングを実施していることが多いです。そういった場合は静止した状態での体幹トレーニングのみではなく、上下肢を動かすなどの身体に動揺を生むようなトレーニングを行う、もしくはハンドリングで腹横筋や多裂筋などの収縮が動作に先行して行う状態を整える必要があると思います。このあたりの考え方は私が以前記載したコラム「腰椎の安定性について 神経生理学の視点から考える」を参照してください。

3.膝関節・足部のトレーニング

起立動作を行う際には、座面が低くなるとそれだけ筋活動量は高まっていきます⁸⁾。

フォワードランジですが、紹介した論文¹⁰⁾ではACL再建後の脛骨の前方剪断力を防ぐことを想定し、接地時に体幹を前傾させて行っています。また記載しているのはステップしていく前方移行相の筋活動ですが、キックバックして戻っていく相では前脛骨筋を除いて大きく筋活動が向上します。若年のアスリートではこの相もしっかり行うよう指導する必要がありそうです。

スプリットスクワット(両足を前後に開いたスクワット)もフォームに工夫があり、一般的には体幹を前傾して行いますが、この論文¹¹⁾では体幹を直立位にして後脚と体幹が一直線かつ下腿が床面に水平となるように行います。実際に行ってもらえばわかりますが、数回繰り返すだけでもかなりの負荷がかかります。

個人的に免荷期間や半月板縫合の早期の方などにおススメなのはHalf Sittingです。座った状態で内側広筋に対してまずまずの負荷をかけることができます。通常のスクワットと比較しても有意に筋活動量は高いと論文でも報告されています¹³⁾。

カーフレイズの報告¹⁴⁾は小指球荷重と母指球荷重の比較を行っており、母指球荷重の方が足部外反筋の筋活動が向上するようです。

高負荷でなくても「総負荷量」を考えることで筋力増強を図ることはできる

筋力増強を図ろうとすると、1RMの60~70%以上の負荷をかけてトレーニングを行うことが定説になっていると思います。実際、私も学生時代の運動療法の授業ではそのように習いました。しかし、これでは自重トレーニングでは負荷量が不足してしまいます。

近年では「総負荷量」という考え方が出てきています。Burdらは1RMの90%でレッグエクステンションを行う群と、30%で行う群を比較しています。どちらも一回のトレーニングで疲労困憊まで行わせた結果、低負荷で実施した群の方が24時間後のタンパク質合成率が向上したと報告しています¹⁵⁾。この要因としては高負荷で実施した群よりも、低負荷で実施した群の方で総負荷量【強度(この場合は重量)×回数×セット数】が高かったためとしています。ここから考えられることは、頻度などを見直せば、自重トレーニングでも筋力改善が可能となるかもしれないということです。これ以外にも総負荷量に関する報告は多数ありますので気になる方は調べてみてください。

ちなみに、高齢者やけがを負った直後の方ではまた考え方が変わりますし、運動の目的は筋力増強以外にも、運動の協調性改善や促通を目的にする場合もあります。そこは運動を処方するトレーナーや理学療法士が適宜判断する必要があります。

今回でファンクショナルトレーニングに関するコラムは終了になります。次回以降は私の研究テーマの一つであるscapular dyskinesisについて記載をしていきます。

参考文献 1) Freeman S,et al, Quantifying Muscle Patterns and Spine Load during Various Forms of the Push-Up, Med & Sci in Sports &Exercise Vol38, 570-577, 2006 2) Ronald L S, et al, Electromyographic comparison of Traditional and Suspension Push-Ups, J of Human Kinetics Vol39,75-83, 2013 3) 西沢 喬ら,骨盤肢位の違いにおけるブリッジ動作の筋活動の特徴,第50回日本理学療法学術集会,2015 4) 柴田 智仁ら, スクワットにおける殿筋群の筋活動について ~抵抗の有無と抵抗位置の違いに着目して~, 東海スポーツ傷害研究会誌 Vol34,2016 5) 市橋 則明ら,Closed Kinetic Chainにおける筋力増強訓練時の股関節周囲筋の筋活動量,理学療法科学 10,203-206, 1995 6) 松本 典久ら, 股関節開排運動における股関節周囲筋の筋活動, Japanese Journal of Health promotion and Physical therapy Vol9 No4, 161-165, 2020 7) 下代 昇平ら,体幹トレーニングおよび各種運動時の腹腔内圧の変化動態と体幹筋群の筋活動の関係, 実験力学 Vol18 No3,184-191,2018 8) 森 明子ら, 椅子の高さの違いが起立着座動作時における下肢筋の筋活動に与える影響, 川崎医療福祉学会誌 Vol13 No1,169-171, 2003 9) 福田 航ら,前十字靭帯損傷患者における片脚スクワット中の膝周囲筋活動の特性, 理学療法科学28(2), 201-204, 2013 10) 木村 佳記, 膝前十字靭帯損傷術後のリハビリテーションのおける荷重トレーニングの研究,大阪電気通信大学博士論文,2011 11) 木村 佳記ら, スプリットスクワットの運動解析, 臨床バイオメカニクス Vol32,441-448, 2011 12) 椎木 孝幸ら,ACL再建術後のスクラム姿勢によるトレーニング,スポーツ傷害 Vol11,15-18,2006 13) 多田 周平ら, Half Sittingでの体幹前傾による下肢筋力トレーニングの運動力学的および筋電図学的検証,理学療法学Vol46 No4,233-241, 2019 14) 石田 弘ら, 立位にて足関節底屈位を保持した際の荷重位置が下腿筋活動に及ぼす影響, スポーツ科学研究8, 76-183,2011 15) Burd N A, et al, Low-Load High Volume Resistance Exercise Stimulates Muscle Protein Synthesis More Than High-Load Low Volume Resistance Exercise in Young Men,PLoS One Vol 5 Issue8, 1-10, 2010

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