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  3. 腸脛靭帯炎に対する評価方法とランニング動作の観察のポイント

前回のコラムでは腸脛靭帯(Iliotibial band:ITB)という組織の固さが増大する仕組みとそれを評価する方法について解説しました。また腸脛靭帯の緊張の増加に起因して発症する腸脛靭帯炎(ITB Syndrome:ITBS)の概要について説明しました。

今回は「腸脛靭帯炎に対する評価方法は?」や「ランニングのどこを観察するべき?」という疑問に対して解説していきます。

目次

    ※前回のコラムはこちら⇒「腸脛靭帯は固くなるのか?その硬さ、どう評価するのか?

    腸脛靭帯炎の病態と個別の評価

    腸脛靭帯炎の症状は2~6カ月残存するという報告や¹⁾、8週間で44%、6カ月で92%が競技復帰できるという報告²⁾があるように軽度から重度までその症状はさまざまです。腸脛靭帯炎は大腿二頭筋腱障害など、その他9つの障害との鑑別診断が必要だと述べられており³⁾、関節内の障害と見分けるためにMRIの使用が推奨されています⁴⁾。臨床所見としては、膝関節裂隙より2cm近位の圧痛が腸脛靭帯炎の特徴になります³⁾。

    圧痛から腸脛靭帯炎を評価するテストで主なものは2つあります。

    ①Renne Test
    1度目に通常のスクワットを行い、2度目に大腿骨外側上顆を検査者が圧迫しながらスクワットをして疼痛や動きの変化を確認します⁵⁾。

    ②Noble Compression Test
    股関節屈曲90°、膝関節屈曲90°の仰向け姿勢から大腿骨外側上顆を圧迫しながら股関節と膝関節を伸展させていきます。この時に疼痛が出現すれば陽性です⁶⁾。

    膝関節の屈曲に伴い腸脛靭帯と大腿骨外側上顆の間にある脂肪体に圧迫ストレスが生じます⁷⁾。これらは指で圧迫してストレス量を増やす事で、脂肪体に疼痛が誘発されるか確認するテストです。ここで重要になるのはどの程度の膝関節屈曲角度で圧迫が生じるのかという点です。

    Nobleは検体解剖で膝関節を30°屈曲させた時に腸脛靭帯が後方に移動し大腿骨外側上顆の上に位置することを報告しました⁶⁾。一方、葛西は膝関節屈曲60°付近で腸脛靭帯の乗り越えが起こるとし⁸⁾、立位で行うRenne Testでは20~80°の範囲で疼痛が生じるとされています⁵⁾。なぜこのように疼痛の生じる角度に違いがあるかというと、股関節角度が考慮されていないからです。

    腸脛靭帯は股関節屈曲に伴い大転子上を前方に移動します⁹⁾。そのため股関節屈曲角度の増加に伴い、圧迫が生じる際の膝関節角度が30°よりも増加します¹⁰⁾。実際に腸脛靭帯炎の選手に大腿骨外側上顆の圧迫による疼痛誘発テストを股関節90°屈曲位のベッド端座位で実施すると、膝関節屈曲60°付近で疼痛が出現することが経験できます。

    動作時の腸脛靭帯の評価

    Tateuchiらは5種類の片脚立位姿勢を比較して、股関節内転角度の増加のみでは腸脛靭帯の硬度は増加せず、外部股関節内転モーメントも同時に増加した場合に腸脛靭帯の硬度が増加することを報告しました¹¹⁾。つまり、動作の中で股関節を内転しているだけでは腸脛靭帯の硬度は増加せず、姿勢や過重も関係することになります。そのためベッド上での非荷重位での他動的な股関節内転では腸脛靭帯の緊張を評価することは難しいと考えられます。

    安静立位では股関節外転力の70%を中殿筋と小殿筋が担い、残りの30%を腸脛靭帯に関連する大殿筋や大腿筋膜張筋が担っています¹²⁾。腸脛靭帯の緊張の増加が腸脛靭帯炎の発症に関わっている事からも、腸脛靭帯炎発症者では健常者よりも立位時や動作時に外側への安定性を腸脛靭帯に依存している事が推察されます。この腸脛靭帯への依存度は大事な要因であると考えますが、残念ながら客観的な評価方法は存在しません。

    そこで主観的な方法になりますが、私が選手に対して実施している評価方法を1つ紹介させていただきます。検査者が膝関節より近位の腸脛靭帯とその後方にある外側広筋を触知したまま、選手が支持脚の股関節屈曲位から伸展を行います。動きの中での外側広筋と腸脛靭帯の硬度の変化を触知にて判断し、左右差を比較します。

    これと同じ様な片脚立位姿勢に対して超音波エラストグラフィーを用いて腸脛靭帯の硬度を測定した報告では、股関節伸展位・内転位・外旋位をとると腸脛靭帯の剛性がそれぞれ増加しています¹³⁾。片脚立位において骨盤と体幹が立脚の反対側に傾いた時には腸脛靭帯の硬度が約32%増加することも報告されています¹¹⁾。そのため通常は股関節屈曲位から伸展するに従い腸脛靭帯の硬度が少しだけ増加するのに対し、腸脛靭帯に依存して外側への安定性を保つ場合は常に腸脛靭帯の硬度が高いままです。

    ただ腸脛靭帯は1~2mm程度の非常に薄い組織のため¹⁴⁾¹⁵⁾、触知ではその深層にある外側広筋の影響を除外する必要があると考えます。また、腸脛靭帯炎を発症する選手はランニング中の立脚期全体を通して腸脛靭帯のStrainが健側よりも患側で高いため¹⁶⁾、左右差の比較は有効であると考察しています。

    ランニング中にいつ圧迫が起きているのか?

    同じような慢性のランニング障害であるシンスプリントやアキレス腱炎では過重や筋の収縮が起こった際に疼痛が生じます。一方で腸脛靭帯炎は過重や腸脛靭帯の起始となる大殿筋や大腿筋膜張筋の収縮で疼痛が起こる訳ではなく、特定の膝関節角度になり圧迫ストレスが生じた局面でのみ疼痛が生じます。では、ランニング中のどの局面で圧迫が生じているのでしょうか。

    腸脛靭帯炎では立脚前期に疼痛が生じると報告されてきましたが¹⁷⁾、まれに立脚後期に疼痛が生じるケースがみられます。私の帯同している大学男子陸上長距離チームでこれまで腸脛靭帯炎を発症した10名の内2名は立脚後期に疼痛を訴えました。これまでの研究からランニング中に腸脛靭帯に圧迫が生じると推察される局面は1周期の中で4回みられます。①立脚前期の接地直後の膝屈曲局面、②立脚後期の離地直前の膝伸展局面、③遊脚前期の離地直後の膝関節屈曲局面、④遊脚後期の接地直前の膝関節伸展局面です¹⁸⁾。腸脛靭帯の硬度は外部股関節内転モーメント増加に伴い増加することからも¹¹⁾、立脚初期と立脚後期の2局面で腸脛靭帯の下に存在する脂肪体は大きな圧迫ストレスを受けることになると考察できます。

    圧迫局面とバイオメカニクス

    腸脛靭帯のStrainが最大になるのは立脚期の35%前後という報告や、45%前後という報告があります¹⁶⁾¹⁹⁾。一方で、個人間の偏差が大きいが立脚期の26.1±6.0%と71.6±12.3%の2局面で圧迫が生じる事が推察されています¹⁸⁾。つまり、立脚中期の最も腸脛靭帯が伸ばされる局面と、圧迫が生じる局面にズレが生じることになります。

    ランニング時に歩隔を狭くした条件では、股関節内転角度が増加し立脚全体の腸脛靭帯のStrainが増加します¹⁹⁾。また腸脛靭帯炎既往者のランナーは健常ランナーを比べると、立脚期の股関節内転Excurtion(最大角度-接地時の角度)が小さくなります²⁰⁾。2019年の腸脛靭帯炎のランニングバイオメカニクスのシステマティックレビューでは、女性では体幹の同側側屈、膝関節の内旋、股関節内転で差がみられた。しかしながら体幹側屈は1.24°、膝関節内旋は2.5°とそれぞれ小さい角度の差で測定誤差なども懸念されています²¹⁾。

    これらのことから、腸脛靭帯炎のランニングでは接地時の股関節内転角度や離地前の股関節内転角度の大きさに着目をするべきだと考察します。動作観察では矢状面よりも前額面からの観察を重視するべきかもしれません。
     

    【引用文献】
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    5) Renne JW (1975) Iliotibial band friction syndrome. J Bone Joint Surg Am 57(8): 1110-1111
    6) Noble CA (1979) The treatment of iliotibial band friction syndrome. Br J of ports Med 13(2): 51-54
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