ストレッチで骨格筋は柔らかくなるのか?〜ストレッチトレランスから見る関節可動域の拡大:後編〜

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眞本 匠 平成病院 リハビリテーション科

ストレッチにより生じる効果といえば、関節可動域の拡大をイメージされる方は多いと思います。近年はその関節可動域の拡大は、骨格筋自体が柔らかくなったからではなく、単に伸張時の痛みや不快感に慣れただけである。といった視点をよく耳にする様になりました。また、8週間未満の慢性的なストレッチングへの適応は、主に感覚レベルで発生する(1)。との報告もあり、これをストレッチトレランスの変化と言います。いわゆる、筋肉の状態は変わっていないのに、関節可動域は広がっている状態です。今回は、そんなストレッチによる骨格筋の変化について、ストレッチトレランスをテーマに前回コラムとの2部構成で、今回は論文を交えご説明していきます。

「前編」のおさらい

今回のテーマは前回のコラムの続編となっています。前編の内容から理解していただくと、後編の内容も理解しやすくなりますので、少し簡単にですが前編をまとめてご紹介して後編に入りたいと思います。

① 関節可動域の測定方法は、「痛みの出る直前」や「不快を感じる点」といった被験者の主観で決めていることが一般的である。そして、その主観は個人差が大きい。

② 筋の硬さ、柔らかさはトルクと言う「伸張時に感じる抵抗感」で感じる必要がある。

③ 抵抗感が減弱すれば筋が柔らかいと言える場合が多いが、抵抗感が変わらないのに関節可動域が拡大する事が臨床では多い。

④ 後者の様に、抵抗感が変わらずに伸張痛や不快感の閾値が高まることで関節可動域が拡大する事をストレッチトレランスと言う。

⑤ 臨床ではこの「主観」と「抵抗感」を意識しながらストレッチすることが重要。

この5つのまとめに至るまでの内容は、前回コラム「ストレッチで骨格筋は柔らかくなるのか? ~ストレッチトレランスから見る関節可動域の拡大「前編」~」をご覧ください。では、これら内容を踏まえたうえで、以下の内容をご覧ください。

論文紹介

今回ご紹介するのは、「慢性的なストレッチは筋腱の力学的特性を変えることができるか?¹⁾」に関するレビュー報告です。

■研究の選択 ・データベース検索から合計9500件の論文が同定され、さらに個人の図書館から14件の論文が同定された。そこから24の研究からのデータをメタ分析に使用した。

・選択された研究の平均ストレッチ介入期間は5.1週間(3~8週間)で、1週間あたりの平均総ストレッチング時間は1165秒(270~3150秒)だった。

ストレッチングの時間は幅がかなりありますが、期間で見ると最低でも3週間以上なので、即時効果ではなく、長期的なストレッチング効果の研究のレビュー報告となっています。

では、次にストレッチングが骨格筋にどの様な変化をもたらしたのか、気になる結果を見てみましょう。

■結果―関節の機械的特性 慢性的なストレッチは、最大関節受動トルクの増加効果は小さい(ES=0.54; 95%CI=0.15-1.92)が、研究の不均一性が高い(I2=74.1%)ことが示された。

■結果―筋・腱への影響 筋硬直(ES=-0.19; 95%CI=-0.77-0.39; I2=69.6%)、筋膜長(ES=-0.09; 95%CI=-0.37-0.20; I2=0%)、筋膜角度(ES=0.02; 95%CI=-031-0.34; I2=0%)においては、些細な影響が認められた。

メタ解析に含まれなかった研究については、 Blazevichら³⁾、Nakamuraら²⁾では、それぞれ3週間(120秒間の伸張を1日2回)、4週間(120秒間の伸張を1日1回)の静的ストレッチを行った後、筋最大伸展性が増加したと報告されている。

また、一橋ら⁴⁾では、4週間の静的ストレッチ(300秒間を1週間に3回)を行った後、ハムストリングスのせん断弾性率が低下したと報告されている。

■論文 まとめ 本論文では、このレビューの結果を受け、知見を以下の3つにまとめています。

①慢性的なストレッチ(3~8週間)は最大許容受動トルクに対する影響が小さい。 ②慢性的なストレッチ介入後の筋腱の機械的特性に統計的変化は観察されなかった。 ③ほとんどの変数に中程度から高程度の不均一性が見られたことである。

更にこれら3つを私的に総括すると、「3~8週間以内の長期的なストレッチングを行ったとしても、骨格筋自体の機械的な柔軟性、筋の長さの改善効果は不明確である。」という事になると考えられます。

よって、2ヶ月以内のストレッチングで関節可動域が拡大したとしても、それは筋肉自体が柔らかくなったからだとは言い切れないですし、かといってストレッチトレランス(慣れ)のみで拡大したとも言えないという事ですね。

なので、両方が混在したと捉えた見方も出来ます。

臨床に応用するために

ここまでの内容を、臨床に落とし込んでみましょう。 今回のレビューでは、ストレッチ実施期間は5.1週間(3~8週間)で、平均総ストレッチング時間は1週間で1165秒(270~3150秒)でした。

あくまで24もの研究のレビューのため、ストレッチの詳細は各原著を参照していただきたいのですが、最低期間は3週間、最低ストレッチング時間は270秒でした。この二つの最低条件が同じ研究だったかはさておき、仮に「筋肉の機械的要素を変化させるつもりのストレッチング」を目的とした際に、これらの期間、もしくはストレッチング時間が出来ているでしょうか?

臨床で何となく、ストレッチングをしている場合は最低10秒、長くても1分程度が多いと思います。これでは、中々機械的要素は変化が起こせません。

よって、今回のレビューを参考に、機械的変化を起こすためのストレッチングをするなら、2ヶ月以上、そしてストレッチング時間も数分単位で行う方が望ましいかもしれません。

ぜひ、臨床でのストレッチングに更なる意味を持たせ、より効果のある方法を行っていきましょう。

【参考文献】 (1)Sandro Freitas,Bruno Mendes,Ricardo J Andrade et al: Can chronic stretching change the muscle-tendon mechanical properties? A review,Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports · August 2017.

(2)Nakamura M, Ikezoe T, Takeno Y, Ichihashi N. Effects of a 4-week static stretch training program on passive stiffness of human gastrocnemius muscle-tendon unit in vivo. Eur J Appl Physiol. 2012;112(7):2749-2755.

(3)Blazevich AJ, Cannavan D, Waugh CM, et al. Range of motion, neuromechanical, and architectural adaptations to plantar flexor stretch training in humans. J Appl Physiol. 2014;117(5):452-462.

(4)Ichihashi N, Umegaki H, Ikezoe T, et al. The effects of a 4-week static stretching programme on the individual muscles comprising the hamstrings. J Sports Sci.

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