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クライエント中心の作業療法のエビデンス

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竹林崇 大阪府立大学 教授

作業療法は元来クライエント中心の哲学的基盤が内包されている療法であり,その思想は
作業に根ざした実践(occupation based practice;OBP)という形で現代化されている.しかし,そこには様々な障壁が存在し,クライエント中心の作業療法の有用性を検証していく必要性を述べた.本稿では,クライエント中心の概念が内包されているOBPに関する知見も踏まえながら,主に身体障害領域におけるクライエント中心の作業療法に関するエビデンスについて述べる.

キーワード
#クライエント中心 #作業療法 #OBP #エビデンス

目次

    ※本コラムが初回の方は、事前に本シリーズ第1・2回のコラムをお読みいただくことをお勧めします。
    ライエント中心の作業療法の概要
    クライエント中心の作業療法の障壁

    クライエント中心の作業療法とOBP

    エビデンスの概説に入る前にクライエント中心の作業療法とOBPの関係性を今一度整理しておきたい.結論から言えば,クライエント中心の作業療法を体現するための方法がOBPといえる.

    1990年代,カナダ作業療法士協会はクライエント中心の作業療法を「個人,集団,機関,行政府,法人といったクライエントの作業の可能化をめざした協業的アプローチ」と定義し,その実践モデルとしてカナダ作業遂行モデルを開発した¹⁾.

    この他にも人間作業モデル,人-環境-作業モデルなど作業の可能化を図るための様々なモデルが各国で開発され,このような作業に根ざしたモデルや実践は総じてOBPと呼ばれている.

    OBPはマリー・ライリーの提唱した作業行動理論を基盤に発展している²⁾.この理論においてライリーは,人は有能でありたい,何かを成し遂げたいという根本的なニードをもち,様々な作業や役割を介してそれを実現すると述べている³⁾.即ち,クライエントにとって意味のある作業の可能化を支援することがクライエントの自己実現に繋がるというライリーの考えを基盤にクライエント中心の作業療法やOBPは設計されている.では,現状そのエビデンスはどの程度構築されているのだろうか.

    諸外国におけるエビデンス

    クライエント中心の作業療法のエビデンスは,活動参加面(ADL,IADL,作業遂行能力,生活満足度など)に関するアウトカムを用いて検証されている.評価尺度として,ADLに関してはBarthel Index,ADL Index,Basic ADL scale,Functional Independence Measureなど,IADLに関してはEetended ADL scale,Nottingham extended ADL scale, Frenchay Activities Indexなど,作業遂行能力に関してはCOPMが主に使用されている⁴⁾.

    Elsaらは,クライエント中心の作業療法やOBPが地域在住の高齢者のIADLに与える影響を調べた研究のシステマチックレビューを行い,他職種(理学療法士や看護師)と協力したクライエント中心の作業療法は対象者固有のIADLを改善できる強いエビデンスがあるとしている⁵⁾.

    一方で,作業療法単独の介入がIADLを改善できるというエビデンスは中等度に留まっているとし,更なるエビデンス構築の必要性を述べている.Nielsenらは,地域在住の高齢者を対象としたOBPに関するRCTのシステマチックレビューにおいて,ADL,IADL,対象者固有の作業遂行能力を向上できると述べている⁵⁾.

    また,Timothyらは脳卒中後遺症者を対象としたOBPに関するレビューを行い,ADLや対象者固有の作業遂行能力の向上に効果があるとしている⁶⁾.

    Guidettiらは,脳卒中後遺症者を対象にクライエント中心のセルフケア介入と通常の介入を比較したRCTを行い,両方共に3ヵ月後のADL,生活満足度,介護者の負担,医療サービスの利用頻度において改善がみられたことを報告している⁷⁾.

    このようにクライエント中心の作業療法は高齢者や脳卒中後遺症者を中心に活動参加面のアウトカムを改善する効果があることが実証されている.一方で,その効果は通常の介入と比較して有意差が無いとする報告も散見される⁴⁾⁶⁾⁷⁾.

    Bertilssonらは脳卒中を発症した患者280名をクライエント中心の作業療法を受ける群と通常の介入を受ける群の2群に分け,ADLの自立度,歩行能力,転倒率,人生に対する満足度,脳卒中者の全般的機能(Stroke Impact Scale)などをアウトカムとして介入効果を検証している.その結果,発症3ヶ月時点で有意差があったのは,Stroke Impact Scaleの下位項目である「感情」に関する部分のみであった⁸⁾.

    このような状況を受け,Hedmanらはクライエント中心の作業療法の真の効能は短期効果では無く長期効果として現れるという仮説を立て,脳卒中後遺症者をクライエント中心のセルフケア介入を受けた群と通常の介入を受けた群の2群に分け,ADLの自立度,生活満足度,ケアサービスの利用頻度,主介護者の介護負担感,生活満足度,抑うつ状態に関して5年間の追跡調査を行った.その結果,主介護者の抑うつ状態に関しては対照群に比べて介入群に効果があったが,それ以外の項目に差は無かったと報告している⁹⁾.

    国内におけるエビデンス

    国内においても諸外国と同様に活動参加面に関するアウトカムを用いた検証が進められている.長山らは,地域在住の虚弱高齢者を対象にOBPを行った場合,介入前と比べてFAIの仕事以外の項目が有意に改善したことや,老人保健施設に入所している高齢者を対象にADOCを用いたOBPを行った場合,通常の介入と比較してBIが有意に改善し,費用対効果も高かったことを報告している¹⁰⁾¹¹⁾.

    また友利らは,亜急性期脳卒中患者を対象にADOCを用いたOBPを受けた群と障害に焦点を当てた介入を受けた群で介入効果を比較した結果,SF‐36,FIM,Br-stage,クライエントの満足度,入院期間に有意差は無かったが,SF‐36の全体的健康感と日常役割機能における効果量はOBP群の方が高かったと報告している¹²⁾.

    このように国内の研究においても活動参加面に関してその有用性が示されているが,通常の介入と比較して有意差があるかどうかは知見が分かれている.

    クライエント中心の作業療法のエビデンスの現状

    上述のように,クライエント中心の作業療法やOBPは活動参加面に対して既存の介入と同等,研究によってはそれ以上の有用性が実証されている.クライエント中心の作業療法の障壁(クライエント中心の作業療法の障壁:リンクを貼ってください)として,職場の同僚の理解が得られないといった問題があるとされるが,このような知見も踏まえながら話し合いを行うことも有用と思われる.

    逆に従来の介入を批判する形でクライエント中心の作業療法やOBPの有用性を主張することはアウトカムの有意差が不十分な点から考えてもナンセンスであり,エビデンスを踏まえた建設的な議論を重ね,より良い知見を創造していく必要があると考える.

    【共著】
    高野 大貴(安曇野市社会福祉協議会 作業療法士)

    【引用文献】
    1.Mary Law編,宮前珠子他訳:クライエント中心の作業療法 カナダ作業療法の展開.協同医書出版社.2006.
    2.寺岡睦他,作業に根ざした実践と信念対立解明アプローチを統合した「作業に根ざした実践2.0」の提案.作業療法33(3):249-258,2014.
    3.B.Rosalie J.Miller,et al著.岩崎テル子他訳:作業療法実践のための6つの理論 理論の形成と発展.協同医書出版社.2003.
    4.Nielsen TL,et al: What are the short-term and long-term effects of occupation-focused and occupation-based occupational therapy in the home on older adults' occupational performance? A systematic review. Scand J Occup Ther. 2017 Jul;24(4):235-248.
    5.Elsa Orellano,et al. Effect of Occupation- and Activity-Based Interventions on Instrumental Activities of Daily Living Performance Among Community-Dwelling Older Adults: A Systematic Review. Am J Occup Ther. 2012 May-Jun; 66(3): 292–300.
    6.Timothy J. Wolf, et al: Effectiveness of Occupation-Based Interventions to Improve Areas of Occupation and Social Participation After Stroke: An Evidence-Based Review. Am J Occup Ther. 2015 Jan-Feb; 69(1).
    7.Guidetti S, Andersson K, Andersson M, Tham K, Von Koch L (2010). Client-centred self-careintervention after stroke: a feasibility study. Scandinavian Journal of Occupational Therapy 17(4):276–285.
    8.Bertilsson AS,et al:A client-centred ADL intervention: three-month follow-up of a randomized controlled trial. Scand J Occup Ther. 2014 Sep;21(5):377-91.
    9.Hedman A: Five-year follow-up of a cluster-randomized controlled trial of a client-centred activities of daily living intervention for people with stroke. Clin Rehabil. 2019 Feb;33(2):262-276.
    10.Hirofumi Nagayama,et al: Cost and outcome of occupation-based practice for community dwelling frail elderly: a pilot study. Clin Interv Aging. 2018; 13: 1177–1182.
    11.Hirofumi Nagayama,et al: Effectiveness and Cost-Effectiveness of Occupation-Based Occupational Therapy Using the Aid for Decision Making in Occupation Choice (ADOC) for Older Residents: Pilot Cluster Randomized Controlled Trial. PLoS One. 2016; 11(3).
    12.Tomori K, et al.Comparison of occupation-based and impairment-based occupational therapy for subacute stroke: a randomized controlled feasibility study.Clin Rehabil. 2014.

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