1. ホーム
  2. コラム
  3. クライエント中心の作業療法の障壁

クライエント中心の作業療法の障壁

お気に入り数0
竹林崇 大阪府立大学 教授

前回のコラムでは,作業療法は元来クライエント中心の哲学的基盤を有した療法であることを述べた.しかし実際に臨床現場においてクライエント中心の作業療法を行う上では様々な障壁が存在する.本稿では先行研究を踏まえてその内実を述べる.

<キーワード>
#クライエント中心 #作業療法 #障壁

目次

    ※本コラムが初回の方は、事前に前回のコラム「クライエント中心の作業療法の概要」をお読みいただくことをお勧めします。

    安全性の障壁

    「何かあったらどうするのか」,このコラムの読者の方は少なからずクライエント中心の実践に興味があり,実践を試みたことがあると推察すると,これに近い言葉を耳にした,あるいは自問自答した経験がある方も少なくないのではないだろうか.

    クライエント中心の実践を行う場合,周囲の者が危険だと感じる希望が本人から表出されることがあり,所謂安全性の問題が障壁になることがある¹⁾.

    このとき療法士は,より安全な方法でクライエントの希望を叶える方法が無いかを十分に検討しなければならないが,Clemensらは,クライエントが自身の決定に伴うリスクを十分に理解したならば,クライエントにはそれを選択する権利があると述べている²⁾.

    その際はクライエントにどのような情報が与えられ,その情報をどう理解し,どのような討議を経て決定を下したのかを関係者にわかる形で示すことが重要とされる¹⁾.

    作業療法士側の障壁

    クライエント中心の実践において,作業療法士の知識やスキル,価値観など作業療法士自身の要素が障壁になるとされている¹⁾.クライエントが最適な意思決定を行うためには,必要な情報を作業療法士がクライエントに理解しやすい形で伝える必要がある¹⁾.

    そのためには作業療法士がクライエントの抱える課題に関して十分な知識を有している必要があり,知識が少ないことはクライエント中心の実践の障壁となる.

    またLarsenらは,クライエントのニードを的確に汲み取るためには高いコミュニケーションスキルが必要と報告しており,作業療法士のそれが乏しい場合,クライエントの意向を適切に汲み取ることができない³⁾.加えて作業療法士の価値観もクライエント中心の実践の障壁になるとされ,例えば作業療法士が専門職として特別なことをしようとする心が障壁になり得る可能性が示されている⁴⁾.

    作業療法士が自らの専門性を発揮しようとするあまり,身体機能訓練を行いたいクライエントの意向を蔑ろにし,無理に活動参加レベルの作業を用いた実践を行おうとするケースがこれに当たる.

    Maitraらは,病院や施設に勤務する作業療法士11名と作業療法を受けている30名のクライエントを対象に,クライエント中心の実践に関する認識をアンケート調査した.その結果,90%以上の療法士は目標やアプローチ方針をクライエントと共有することが重要と感じ,80%以上がクライエントに目標設定に参加してもらっていると回答したが,クライエントの46%は目標設定にほとんど関わっていないと回答したのである⁵⁾.

    このような知見からも,療法士は自らの実践を過大評価せずに本当にクライエントが納得のいく関わりができているかを内省する必要がある.

    クライエント側の障壁

    クライエント中心の作業療法はクライエントのニードを的確に捉えるための面接から開始されることが多いが,多くの作業療法士はクライエントの還元主義的思考や作業療法に対する受動的態度,意味のある作業の想起の困難さ,失語症や認知症に起因した意思疎通の困難さといったクライエント側の障壁によって実践が妨げられる経験をしている⁶⁾.このことはすべてのクライエントにクライエント中心の実践が適用できるわけでは無いことを示唆している.

    クライエントや作業療法士を取り巻く環境の障壁

    クライエント中心の実践は個別性が高く,クライエントの話にじっくり耳を傾け,家屋や職場など実際の作業環境に出向いたアプローチが必要な場合もある.しかし,現行のリハビリテーションの診療体制は1単位20分であり,クライアント1人あたりに算定できる診療報酬には上限があるなど時間的・制度的制約が影響する場合や,職場の同僚の理解が得られない,家族とクライエントで意向が異なる,必要な物品が用意できないなどの物理的・人的制約が影響する場合もある⁴⁾.

    また,クライエントが置かれている状況が病院や施設などアウェイな環境である場合,クライエントは作業療法士に忖度して本音を言えない場合もあるかもしれない⁷⁾.実際,河野らは回復期病棟に入院する脳卒中後遺症者が作業療法士に対して否定的な感情を抱く場合があり,それには作業療法士との上下関係や障害体験の理解の無さが影響することを報告している⁸⁾.

    作業療法士がクライエントと対等な関係性を築こうとしていても,クライエントからみれば作業療法士はヘルスケアの専門家であり,その言動には力が宿る.療法士は自分がクライエントよりも優位な立場になりやすいことを自覚し,自身の言動がクライエントの立場に立ったときにどう映るかを内省する必要がある¹⁾⁷⁾.

    このようにクライエント中心の作業療法には様々な障壁が存在しており,決して万能ではないことがわかる.作業療法士はこれらの障壁を考慮しながら実践を行う必要があるが,Hammellは,そもそも作業療法士はクライエント中心の実践に対して批判的な視点が欠けていることに警鐘を鳴らし,盲目的にクライエント中心の実践を推進せず,批判的吟味を踏まえながらその適応や有用性を検証していく必要性を強調している⁹⁾.クライエント中心の作業療法は理論やモデルが先行する形で発展してきているが,それらの仮説をエビデンスベースドに実証していく必要がある.

    【共著】
    高野 大貴(安曇野市社会福祉協議会 作業療法士)

    【引用文献】
    1.Thelma Sumsion編,田端幸枝 他訳:「クライエント中心」作業療法の実践-多様な集団への展開-.2001.協同医書出版社.
    2.Clemens E, et al:Contradictions in case management: client-centered theory and directive practice with frail elderly. J Aging Health. 1994 Feb;6(1):70-88.
    3.Enemark Larsen A, et al:Enhancing a Client-Centred Practice with the Canadian Occupational Performance Measure. Occup Ther Int. 2018 Jun 27;2018.
    4.梅崎敦子 他:作業に焦点を当てた実践への動機および条件と障壁.作業療法 27:380~393,2008.
    5.Maitra KK, et al:Perception of client-centred practice in occupational therapists and their clients.American Journal of Occupational Therapy.2006:60(3):298-310.
    6.斎藤佑樹 他:ADOCが作業療法面接に与える影響.:Webアンケート調査による探索的研究.作業療法36:299-308,2017.
    7.高野大貴:脳卒中後遺症者が経験した信念対立を共有することが作業療法士の認識や行動に与える影響について.日本臨床作業療法研究 No.7:31-38,2020.
    8.河野崇,京極真:回復期リハビリテーション病棟に入院する患者が作業療法士に対して抱く信念対立と対処法の構造.作業療法34(5):530~540,2015.
    9.Hammell KR:Client-centred practice in occupational therapy: critical reflections. Scand J Occup Ther. 2013 May;20(3):174-81.

    この記事に関連するタグ

    興味のあるタグをフォローしておくことで、自身のフィードに関連するセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。(無料会員機能。登録はこちら)

    人気コラム

    もっと見る

    コラムで人気のタグ

    タグをフォローしておくことで、自身のフィードに興味のあるセミナーやコラムを優先的に表示させることができます。(無料会員機能。登録はこちら)

    注目執筆者

    もっと見る

    コラムカテゴリ