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クライエント中心の作業療法の概要

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竹林崇 大阪府立大学 教授

世界作業療法士連盟における作業療法の定義は,「作業療法はクライエント中心の医療専門職で,作業を通して健康と幸福を促進する」とされ,本邦でも2018年に日本作業療法士協会における定義が改定され,「作業とは,対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す」と明記されるなど,作業療法におけるクライエント中心性は国内外で強調されている¹⁾²⁾.では,そもそもなぜ作業療法はクライエント中心を掲げているのだろうか.本稿ではその背景を理解するために作業療法の歴史を紐解いていく.

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#クライエント中心 #作業療法 #歴史

目次

    作業療法の源流からみるクライエント中心

    作業療法の源流を理解するためには,「道徳療法」,「アーツ・アンド・クラフツ運動」,「プラグマティズム」の3つのルーツを辿る必要がある.

    道徳療法は,精神障害をもつ患者に対する非人道的な処遇のアンチテーゼとしてPhilippe Pinelらによって1800年代頃に提案された,患者に対して仕事や余暇などの楽しみを含んだ規則正しい生活を提供することで精神状態の回復を図る療法である³⁾.

    アーツ・アンド・クラフツ運動は,産業革命に対するアンチテーゼとしてWilliam Morrisらが行った芸術革命運動である.

    Morrisは手工芸などの創作・芸術活動は人間の自己表現の機会であるとし,そのような活動が産業の機械化によって失われることに警鐘を鳴らした⁴⁾

    .プラグマティズムとはアメリカで生まれた哲学であり,端的に言えば「人が正しい方法をみつけるためには実際に物事に取り組んで仮説を検証する必要がある」という考え方である.

    John Deweyはプラグマティズムを基盤に,人間が何らかの課題に直面した場合,問題設定を行い,仮説を形成し,実際に取り組んでみる(作業に従事する)ことでその人にとって正しい方法をみつけることができるという概念を提唱し,学校教育にも反映させた⁵⁾.

    これら3つのルーツは人を中心にしている点で共通しており,クライエント中心の考え方に通ずるものがある.では,これらの概念はどのようにして作業療法に取り入れられたのだろうか.

    まず,プラグマティズムを背景にDeweyが提唱した概念を医療に結び付けたのが看護師のSusan Tracyである.彼女はDeweyの考えを反映する形で「仕事治療」の本を執筆した.これに影響を受けたEleanor Clarke Slagle は,精神科医のAdolf Meyerとともに作業を用いたプログラムを開発した.

    建築士としてアーツ・アンド・クラフツ運動の担い手でもあったGeorge Edward Bartonは患者としてこのプログラムを受け,作業を用いた療法の有用性を実感し,アーツ・アンド・クラフツ運動の概念を反映させる形で1917年に作業療法推進協会を設立したのである⁶⁾.

    多くの職業が自然派生的に成り立っているのに対し,作業療法は他職種の働きではどうしても到達できない目的を達成するために,医師,看護師,哲学者,芸術家,建築士などの多職種によって人為的に作られた職業なのである.

    失われたクライエント中心の視点

    1935年,作業療法はアメリカ医師会から認められ,医療領域に作業療法士が配置された.しかし,当時の医療は機械論的パラダイム(人間を筋,骨格,神経など部分の集合と考え,それらを正常な形に戻せば病気は治るという考え方)が主流であり,作業療法は非科学的だという批判が浴びせられた.

    それに適応する形で義肢装具や自助具の使用,神経発達学的治療が行われるようになったが,一方で作業療法の源流である哲学的基盤やクライエント中心の視点が失われていったのである.このとき日本に作業療法が導入されたため,日本の作業療法は機械論的パラダイムの影響を強く受けている⁶⁾.

    作業療法の原点回帰とクライエント中心の視点の復活

    1950年代,Mary Reillyは機械論的パラダイムによって失われた作業療法の本質を復興させるため,道徳療法を基盤とした作業行動理論を提唱し,作業の視点で人間を理解するための概念を示した⁷⁾.

    1980年代になると国際障害分類やオタワ憲章が発表され,人を病気や障害といった側面だけでなく包括的に捉える潮流が医療界隈で高まったこともあり,作業療法の原点回帰の流れが加速し,その現代化を図るために人間作業モデルなどのクライエント中心の作業療法理論が次々に開発された.

    この潮流は本邦にも導入され,作業に根ざした実践(occupational based practice)という言葉で注目を浴びている.作業療法は元来クライエント中心の哲学的基盤が内包されている療法であり,昨今その重要性が再認識されているのである.

    【共著】
    高野 大貴(安曇野市社会福祉協議会 作業療法士)

    【引用文献】
    1.WFOT: Definition of Occupational Therapy, 2012.
    2.日本作業療法士協会:作業療法の定義
    3.山根寛:ひとと作業・作業活動.三輪書店.2017.
    4.藪亨:ウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動.1992-1996.『芸術と社会―美的ユートピ アをめぐるウイリアム・ モリスの研究』分担研究.
    5.伊藤邦武:プラグマティズム入門.筑摩書房.2016.
    6.吉川ひろみ:「作業」って何だろう 作業科学入門 第2版.医歯薬出版株式会社.2017.
    7.田島明子:作業療法学における理論化の動向-特に1992年以降に着目して-.Core Ethics Vol.8.2012.

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