前回のコラムでは腸脛靭帯(Iliotibial band :ITB)という組織がどのようなものかをその役割や構成から考察しました。そこでは、腸脛靭帯が靭帯や腱としての役割を果たすには、弾性が高い方が効果的ということが示唆されました。しかしながら、腸脛靭帯は股関節と膝関節をまたぐ長い組織であり過度な弾性は可動域制限や障害に繋がります。ここで多くの方が疑問に思うのは「腸脛靭帯はどういった時に硬くなるのか?」や「腸脛靭帯の評価方法は?」という点かと思います。今回はそういった疑問点に対して解説していきます。

腸脛靭帯は硬くなるのか?

腸脛靭帯や腱はコラーゲン線維が多い組織です。腱では、水分含有量が少ないと腱内のコラーゲン線維束の隙間が無くなり弾性が増加します¹⁾²⁾。同様に大腿中央部の腸脛靭帯でも水分含有量を減らした状態ではその弾性が増加し伸びにくい組織に変化することが報告されています³⁾。

筋と腱の関係と同様に腸脛靭帯も起始の筋が短縮していると、その分だけ伸張されることになります。大腿筋膜張筋から派生している腸脛靭帯の前方線維が他の腱組織と同程度の伸張率を有しているのに対して、大殿筋由来の腸脛靭帯の後部線維はその2倍近い伸張率になります⁴⁾。

前方線維と後方線維は大転子より遠位で合流して、表層を前方線維が走り深層を後方線維が走ります⁵⁾。腸脛靭帯の厚みは約1~2mmしかないので⁶⁾⁷⁾、触れることで線維による伸張性の違いを比べることはできませんが、硬さを増加させる原因となる筋は2種類あることが考察できます。

腸脛靭帯のかたさは、線維間の水分含有量という局所的な要因と、起始となる筋の短縮という要因によって決定されます。

腸脛靭帯かたさの評価

腸脛靭帯のかたさや弾性の評価方法でよく用いられるものは下記の4種類あります。

①Ober Test: 側臥位で股関節を内転させるSpecial Test。腸脛靭帯の硬さ(Tightness)を測定するとされており、非常に簡便な方法。

②硬度計による硬さ(Hardness)の測定: 触れた際に硬い・柔らかいを専用の機器を用いて数値化する方法。

③超音波エラストグラフィーでの測定: 超音波を用いて組織の硬さ分布を非侵襲的に画像診断する方法。

④シミュレーションソフトによるひずみ(Strain)の測定: 動作解析の結果をシミュレーションソフト上に落とし込み、腸脛靭帯の長さの変化を数値化する方法。

厳密には、これらはそれぞれ別のものを表していますが、混在されて腸脛靭帯の「かたさ」あるいは「緊張」として表現されているのが現状です。この中で最も正確に腸脛靭帯の弾性を評価できるのは③の超音波による方法です。

しかし、この方法では安静時や姿勢変化時の測定が可能ですが⁸⁾、動作中の測定ができません。動作中の測定は④の動作シミュレーションを用いていきます。

③や④の方法は特別な機器を使用するため、簡便に評価する方法として臨床で重宝されてきたものが①Ober Testです。しかしながら、近年Ober Testでの評価が疑問視されてきています。

Ober Testの意義

Ober Testは測定側の下肢を上にした側臥位の状態から下肢の自重によって股関節を内転させた際に、測定側の足部が床に着かない状態を陽性とするテストです。股関節外転筋とそれに付着する腸脛靭帯の伸張性低下をみるテストとして知られています。しかし、この制限となる股関節外転筋は腸脛靭帯と連結がある大腿筋膜張筋や大殿筋とは限りません。

Willettらは検体にて表層組織から徐々に切開しながらOber Testを実施した場合に腸脛靭帯の切開前後では可動域はほとんど変わらず、その後に中殿筋や小殿筋を切開した場合に可動域が増加すると報告しています⁹⁾。

また、フォームローラーを大腿筋膜張筋周囲に実施してもOber Testの値に効果がないが、殿筋群の周囲に実施した場合に内転角度が改善したとの報告もあります¹⁰⁾。そのため、Ober Testは外転筋の伸張性低下を判断することはできますが、どの外転筋が原因で可動域制限が起こっているかを判断することはできないと考察できます。

腸脛靭帯の過度な弾性が原因で発症する障害として腸脛靭帯炎(ITB Syndrome:ITBS) があります。腸脛靭帯炎発症者は健常者よりもOber Testでの股関節内転角度が小さいという報告や¹¹⁾、現在腸脛靭帯炎を発症しているランナーは健常群や腸脛靭帯炎の既往があるランナーよりもOber Testで約7°の内転角度の低下がみられたという報告もあります¹²⁾。

一方で、少人数ではありますが、前向き研究で5名の腸脛靭帯炎を発症したスポーツ選手は事前のメディカルチェックで全員Ober Testが陰性でした¹³⁾。このように、Ober Testは腸脛靭帯炎発症後の治療効果を判定する評価として用いることができるかもしれませんが、予防のための評価としては有効ではないと考察します。

一部の書籍などで誤解されている事ですが、Ober Testは腸脛靭帯炎を鑑別するテストや腸脛靭帯のタイトネスを測定するテストではありません。そもそもOber Testは大腿筋膜張筋と腸脛靭帯の過緊張に起因する腰痛を鑑別するテストとして提案されており¹⁴⁾、腸脛靭帯炎とは関連が大きくありません。腸脛靭帯炎を正しく評価するためにはその発症メカニズムを正確に理解する必要があります。

腸脛靭帯炎の発症メカニズム

腸脛靭帯は膝関節の屈曲・伸展に伴いわずかながら大腿骨外側上顆を前後に移動します¹⁵⁾。腸脛靭帯と大腿骨外側上顆の間に1cm3程度の脂肪体が存在し、腸脛靭帯の移動の際に繰り返し圧迫ストレスが生じることで腸脛靭帯炎を発症します¹⁶⁾¹⁷⁾。

圧迫ストレスの大きさを測定することは難しいですが、腸脛靭帯の緊張が増加しているとより硬いもので圧迫されることになるので、脂肪体に加わるストレスの量も増加し障害に繋がると考察します。

腸脛靭帯炎の発症リスクは、「1回の圧迫によって生じる負荷の大きさ」と「その圧迫が起こる回数」の2つの要素によって決定し、そこに「大腿骨外側上顆の突出具合¹⁸⁾」などの個人因子が重なってきます。圧迫回数も大きな要因のため、運動時間の長いランニングやサイクリングで発症しやすいです¹⁹⁾²⁰⁾。

腸脛靭帯炎発症に関与する腸脛靭帯の緊張は2つに分けることができます。1つ目は動作中で股関節内転や膝関節屈曲に伴い腸脛靭帯が伸ばされることで生じる組織のひずみ(Strain)です。歩隔を狭くして股関節内転角度を大きくした挟み足でのランニングでの立脚期に腸脛靭帯のStrainが増大します²¹⁾。2つ目は本コラムの序盤で説明した、水分含有量の低下や起始筋の短縮に伴って起こる腸脛靭帯のタイトネスの増加です。

【腸脛靭帯炎の評価】 ①安静時で腸脛靭帯がどの程度固いか ②動作の中でどの程度伸ばされているか ③膝関節の屈曲伸展動作に伴いどれだけ圧迫が起こっているのか 以上が、腸脛靭帯炎の発症に関与する要素です。 ①の正確な評価には超音波エラストグラフィーが必要です。③はランニングであれば運動時間やケイデンスから算出が可能です。

②を評価するには動作シミュレーションソフトが必要であり、多くの機器と時間が必要なため評価ツールとしては現実的ではありません。そのため、次回のコラムではランニング動作時に腸脛靭帯のStrainが増加する動作の特徴と観察のポイントについて考察します。

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