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  3. 腰椎の安定性について 神経生理学の視点から考える

前回のコラムでは、腰部の安定性を解剖学・運動学の視点から解説しました。今回は腰部の安定性を神経生理学の視点から解説します。キーワードは「姿勢コントロール」と「コアスタビリティ」です

目次

    前回のコラム⇒「腰椎の安定性について  ~運動学と解剖学の視点から考える~」

    はじめに

    前回は、腰部の安定性を解剖学・運動学の視点から解説しました。スポーツに関わるトレーナーや運動器障害を見ている理学療法士は、これらの視点をよくご存知だったかと思います。ですが、神経のメカニズムを考慮して腰部に着目するということは少ないかと思います。今回は「姿勢コントロール」と「コアスタビリティ」をキーワードとして、神経生理学の視点から解説します。

    姿勢コントロールとは?

    通常、人間が運動を行う際は、その動きに合わせてバランスを無意識下でコントロールしています。これは歩く・立つなどの基本的な動作はもちろん、投球動作やジャンプ動作、泳動作などあらゆる局面で実施されています。このようにバランスをコントロールすることを「姿勢コントロール」と私のなかでは定義しています。

    この「姿勢コントロール」は、運動を行う際に脳へ送られたあらゆる情報に基づいて、運動開始に先行して姿勢を整えようとすることで行われています。情報を脳に送ることはフィードバックと呼ばれており、この情報は多岐にわたり、とてつもないスピードで連続して送られています(図1¹⁾を参照)。

    内臓の動きによって感知される「重力覚」、皮膚への圧や伸張による「皮膚触覚」、筋肉の伸縮や関節包の伸張を感じ取る「固有受容感覚」、耳の耳石器や三半規管によって自身の身体の傾斜や回転を感じとる「前庭覚」、そして「視覚」といった様々な感覚が脳内の頭頂連合野というところに集約されます。

    これらによって形成される身体の状態把握は身体図式(ボディスキーマ)と呼ばれ、この情報をもとに運動のプログラムの詳細が形成されます。そして、自身で意識して行う運動を開始する前に適切な姿勢を取ることを「姿勢セット」と呼び、この際に適切な姿勢筋緊張を行うシステムを「先行性姿勢制御:Preparatory Anticipatory Posture Adjustments (pAPAs)」と呼びます。

    pAPAsは運動の開始や運動中の動作変更に先行して、最適な姿勢を提供するものとされています²⁾。一例として、Hodgesらは腕を上に挙げる動作ではどの方向に挙げたとしても腹横筋が主動作筋(この場合は三角筋)に先行して収縮を始めると報告しています³⁾(図2参照)。

    スポーツ場面でも同様の現象が生じており、Okuboらはジャンプ動作において腹横筋が他の腹筋群よりも先行して収縮することを報告しています⁴⁾。

    コアスタビリティは姿勢コントロールの要

    ここまでの記載でなんとなくわかる方もいらっしゃるかと思いますが、pAPAsにおいて重要なのは腹横筋が収縮することです。そして、腹横筋を始めとしたコアスタビリティといわれる筋肉(腹横筋・横隔膜・多裂筋・骨盤底筋)は、同時に収縮することで下部体幹(腰椎~下部胸椎)を重力に対して伸展方向に作用させます。

    下部体幹が伸展すると、身体重心はわずかに上方へ引きあげられ、動きやすさを出しながらも、下部体幹を安定させて身体動揺を制御します。

    そこから運動実行に対する感覚フィードバックが脊髄を通じて脳内に送られ、それを基に身体図式が更新・構築されていきます。身体図式をベースに新たな運動戦略が組み立てられいき、pAPAs→随意運動→感覚フィードバック→身体図式更新…という流れが繰り返されていきます。

    ここでキーになるのは、身体図式をもとに運動が組み立てられていることです。Joint by jointで私が重要としている胸郭・股関節の可動性低下が生じていれば、その体の状態による運動のフィードバックが起こり、身体図式が構築されてしまいます。

    つまり、pAPAsが正常通り働かずグローバル筋が姿勢コントロールに働いてしまうことが考えられます。そうなれば、日常生活動作やスポーツ動作でも理想とする動きを出しにくくなる可能性があります。

    このような神経生理学なメカニズムを適切に行うには、体の状態をベストにしておくことが大切です。Joint by jointで言えば、第1にmobility関節の可動性を適切にしておくこと、その次にstability関節の安定性が適切に(筋の選択やタイミングのエラーがなくなるように)働くようにすることです。これによって適切な身体図式の更新がなされ、適切なpAPAsが働くようになります。

    意識した目的の運動を達成するための神経生理学プロセスはここには書ききれないほどあります…ご興味のある方は参考文献2)をご覧下さい。

    神経生理学な観点を持つと運動をより深く考えることができる!

    Joint by jointを知っている人でも、この神経生理学的な観点から考える人は少ないと思います。今回はとても簡単に解説しましたが、姿勢コントロールのキーとなるコアスタビリティをpAPAsの視点から一度考えていただけるとJoint by jointがさらに深く考えられると思います!

    【参考文献】
    1)J.Massion: Postural Control system, Current Opinion in Neurobiology,877-887,1994
    2)高草木薫,大脳皮質・脳幹-脊髄による姿勢と歩行の制御機構,脊髄外科Vol27 No3,P208-215,2013
    3)Hodges.PW,et al: Feedforward contraction of transversus abdominis is not influenced by the direction of arm movement. Exp Brain Res 114: 362-370, 1997
    4)Okubo Y, et al: Abdominal muscle activity during a standing long jump. J Orthop Sports Phys Ther 43, 577-582,2013
    5)金子唯史 著 : 脳卒中の動作分析 臨床推論から治療アプローチまで ,2018

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