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腸脛靭帯って実際には何なのか?どんな役割があるのか?

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冨山信次 Athlete ST 代表

腸脛靭帯は頻繁に耳にする名称ですが、実際にどんなものなのかを深く勉強したことのない方も多いのではないでしょうか。本シリーズでは脛靭帯の特性や関連した障害、機能について様々な側面から考察していきます。第一回目となる今回は腸脛靭帯の役割について解説していきます。

目次

    腸脛靭帯の様々な側面

    膝の前十字靭帯(ACL)や足部の前距腓靭帯などほとんどの靭帯はLigamentと訳されますが、腸脛靭帯は英語では『Iliotibial Band(ITB)』と言い、 靭帯はBandと訳されます。組織学的な観点では腸脛靭帯はACLと比べると細くて線維数が多く、構成要素としては腱のようにⅠ型コラーゲン線維が多く存在します¹⁾。

    また、Brinbaum(2004)は腸脛靭帯を「大腿筋膜張筋および大殿筋に由来する筋膜の肥厚」と定義しています²⁾。このように、腸脛靭帯は靭帯のような名前で、腱のような線維で構成され、厚みをもった筋膜様組織という正体の掴みにくい構造体となっています。

    靭帯としてみた腸脛靭帯

    腸脛靭帯は伸張性の低い組織であるため伸張ストレスに抵抗する受動的な支持機構として股関節と膝関節の2つの関節に影響を及ぼします。具体的には、股関節の内転・膝関節内反・下腿内旋に抵抗します(股関節屈曲・伸展や内・外旋、膝屈曲・伸展については線維ごとに異なります)。

    靭帯は多くが単関節をまたぎ、関節の異常な方向への動きを制動します。腸脛靭帯が特徴的なのは股関節と膝関節という大きな2つの関節をまたいで付着している点です。

    ここで重要になるのは、腸脛靭帯はある程度伸ばされるとそれ以上は伸びなくなるので、そこで初めて制動効果を発揮する点です。腸脛靭帯は股関節内転・膝関節内反・下腿内旋で伸張されますが、膝関節内反や下腿内旋の可動性は小さいため、股関節内転による伸張度合いの方が大きいです。

    つまり、膝関節内反位でも股関節が外転している状態では腸脛靭帯は安静立位よりも伸ばされておらず、靭帯としての役割を有していないことが示唆されます。腸脛靭帯による膝関節の制動効果は股関節の内転と連動して発揮されるものであると考えられます。

    腸脛靭帯の靭帯としての役割:
    ① 股関節の前額面上の動きを制動する
    ② 股関節と膝関節を連動させて安定させる


    図:安静立位と比較して膝内反位では腸脛靭帯の伸長は少ないが、股関節内転では大きく伸長される (OpenSim 3.3より)

     【腱としてみた腸脛靭帯】
    大殿筋や大腿筋膜張筋は大転子の周囲で腸脛靭帯に移行して脛骨に付着します。そのため、腸脛靭帯は大殿筋の非常に長い停止腱であると考えることができます。長い腱は運動時に弾性エネルギーを保存して効率の良い動作をする能力を有しています。その中でも代表的なものはアキレス腱です。

    ランニング時にアキレス腱はバネの作用を持つことで筋の仕事を約35%減少させる³⁾、4.5m/sのランニングではアキレス腱は一歩ごとに35Jのエネルギーを貯蔵する⁴⁾とされています。

    同様の研究が腸脛靭帯でも実施されており、5.0m/sのランニング時には大殿筋-腸脛靭帯の線維が約6Jのエネルギーを有する⁵⁾と報告されています。このエネルギーは大殿筋-腸脛靭帯の線維が伸ばされている局面である遊脚後期に、股関節が屈曲から伸展に切り替わる力として発揮されます⁵⁾。このことから、アキレス腱ほどではありませんが、実は腸脛靭帯も効率の良いランニングに貢献していることが考えられます。

    腸脛靭帯の腱としての役割:
    ① ランニング時にエネルギー効率を上昇させる

    筋膜の集合としてみた腸脛靭帯

    筋膜が全身で繋がりながら筋を包んでいることは、最近よく言及されています。大腿筋膜の肥厚とされている腸脛靭帯は多くの筋と連結していることが報告されています。表層では大殿筋や大腿筋膜張筋と連結していますが、股関節の深層では腸脛靭帯が大腿筋膜張筋に付着せず大腿直筋の反回頭(Reflected head)や股関節の関節包から始まっている線維があることを報告されています⁶⁾⁷⁾。遠位では腸脛靭帯は分岐して脛骨だけでなく、膝蓋骨外側に付着する線維もあると報告されていますが⁸⁾、筋との連結はみられません。

    一方、あまり知られていない事実として、外側広筋との関係があります。腸脛靭帯のすぐ深層には外側広筋があり、多くの教科書や資料には外側広筋のタイトネスが腸脛靭帯のタイトネスに繋がると書かれています。しかしながら、それは研究結果に基づく事実ではなく印象から話されています。

    解剖学的にみれば、外側広筋は膝に近いごく一部(総断面積の1.2-5.8%)のみしか腸脛靭帯に付着しておらず、しかも約3割の人には明確な連結がみられなかったと報告されています⁹⁾。また生体にて硬度計を用いた研究では外側広筋と腸脛靭帯の硬度には相関はみられなかったという報告もあります1¹⁰⁾。

    腸脛靭帯は起始である股関節周囲では分岐して多くの筋と連結します。しかし大腿部ではほとんど筋と連結せず、停止部である膝周囲では分岐して多くの骨には付着しますが筋との連結はみられません。また、腸脛靭帯の大腿中央部では筋膜に多く含まれるエラスチンが少ないことも報告されています¹¹⁾。このことから、腸脛靭帯は近位では多くの筋と繋がり筋膜のような役割を果たすが、遠位に移行するに従い徐々にその機能を変化させていることが考えられます。

    腸脛靭帯の筋膜としての役割:
    ① 近位では多くの筋と連結している
    ② 大腿部より遠位では筋膜としての機能を失い、腱や靭帯としての機能を果たす

    腸脛靭帯の役割

    このように腸脛靭帯には様々な側面があります。腸脛靭帯は伸びにくいことで股関節の安定性を生み、動作時のエネルギー効率を上昇させています。検体研究では腸脛靭帯が股関節周囲の靭帯の約12倍の伸びにくさを有しているという報告もあります¹²⁾。緩みすぎてしまった靭帯や腱がその役割を果たさないように、腸脛靭帯がある程度の弾性を保つことは重要です。

    しかし、その弾性が過剰である場合には障害や機能不全につながります。次回のコラムでは腸脛靭帯に関連した評価やSpecial Testを紹介し、それに関連したスポーツ障害である腸脛靭帯炎についてお話します。

    【引用文献】
    1) Hammer N, Huster D, Boldt A, Hadrich C, Koch H, Moblus R Schulze-Tanzil G, Schelidt HA (2016) A preliminary technical study on sodium dodecyl sulfate-induced changes of the nano-structural and macro-mechanical properties in human iliotibial tract specimens. J Mech Behav Biomed Mater 61: 164-173
    2) Birnbaum K, Siebert CH, Pandorf F, Schopphoff E, Prescher A, Niethard FU (2004) Anatomical and biomechanical investigation of the iliotibial tract. Surg Radiol Anat 26 (6): 433-446
    3) Alexander RMN, Bennet-Clark HC (1977) Storage of elastic strain energy in muscle and other tissues. Nature 265(5590): 114-117
    4) Ker RF, Bennett MB, Bibby SR, Kester RC, Alexander RMN (1987) The spring in the arch of the human foot. Nature 325(7000): 147-149
    5) Eng CM, Amold AS, Lieberman DE, Biewerner AA (2015) The capacity of the human iliotibial band to store elastic energy during running. J Biomech 48 (12): 3341-3348
    6) Huang BK, Campos JC, Michael Peschka PG, Pretterklieber ML, Skaf AY, Chung CB, Pathria MN (2013) Injury of the gluteal aponeurotic fascia and proximal iliotibial band : anatomy, pathologic, conditions and MR imaging. Radiographics 33(5): 1437-1452
    7) Putzer D, Haselbacher M, Hörmann R, Klima G, Nogler M (2017) The deep layer of the tractus iliotibialis and its relevance when using the direct anterior approach in total hip arthroplasty: a cadaver study. Arch Orthop Trauma Surg 137(12): 1755-1760
    8) Whiteside LA, Roy ME (2009) Anatomy, function, and surgical access of the iliotibial band in total knee arthroplasty. J Bone Joint Surg Am 91(6): 101-106
    9) Becker I, Baxter GD, Woodley SJ (2010) The vastus lateralis muscle: an anatomical investigation. Clin Anat 23: 575-585
    10) 北風浩平, 山田哲, 日高正巳, 川口浩太郎 (2013) 腸脛靭帯組織硬度が外側広筋組織硬度ならびに下腿内旋可動域に及ぼす影響. 兵庫医療大学紀要 1(2): 35-42
    11) Lozano PF, Scholze M, Babian C, Scheidt H, Viemuth F, Waschke J, Ondruschka B, Hammer N (2019) Water-content related alterations in macro and micro scale tendon biomechanics. Sci Rep 9(1):
    12) Pieroh P, Schneider S, Lingslebe U, Sichiting F, Wolfskampf T, Josten C, Bohme J, Hammer N Steinke H (2016) The stress-strain data of the hip capsule ligaments are gender and side independent suggesting a smaller contribution to passive stiffness. PLoS One 11(9):

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