アサーティブネスとは
まず一度スポーツからシーンを変えて、自分の子どもや生徒を想像してください。その子にクッキーとケーキのどちらが食べたいか尋ねると、「クッキー」と答えが返ってきました。しかし、わざとケーキを差し出します。その子は怒りだすでしょうか(攻撃的)?または黙って与えられたクッキーを受け取りますか(服従的)?それとも「ありがとう。でも自分が欲しいのはクッキーなの。」と言う事ができましたか(アサーティブ)?
とても簡単な例でしたが、イメージが湧いたでしょうか?アサーティブネス(Assertiveness)とは、攻撃的(Aggressive)でも服従的(Submissive)でもない、「自他を尊重した自己主張」のことです。
上の例の「ありがとう~」は、間違えたけれどもクッキーを差し出したあなたに対する感謝を示し、自分が欲しいもの(ケーキ)も主張しています。
このようなコミュニケーションは、個人の性格によるものではなく学ぶことができるスキルであり(D. Chambers, 2009)、自尊心の高さとの相関が報告されていることから、子どもの成長にとって非常に大切な要素だと考えています。
では、スポーツシーンで考えてみましょう。 (A)一度ボールを持つとパスをしないチームメイト (B)思うようなプレータイムを与えてくれないコーチ に対する異なるスタイルのアプローチ例です。
■攻撃的(Aggressive) A) 「パスしろよ!」「自己中だぞ!」と強く文句を言う B) 練習や試合中に悪態をつく
■服従的(Submissive) A) 影で文句を言うが、直接は何もしない・言わない B) 仕方ないと諦める
■アサーティブ(Assertive) A) チームメイトとして困っている事を伝え、パスをしない理由を聞いて解決策を探る B) コーチに悩みを伝え、プレータイムを伸ばすためのアドバイスを求める
上記のようなスポーツシーンでの例を思い浮かべると枚挙に暇がありません。他者との関わりの中で多くの感情を生み出すスポーツは、アサーティブネスを育む機会に溢れていますが、同時に攻撃的・服従的なコミュニケーションを助長する場にもなり得ます。
数か月前、全米一位の大学女子バスケットボールチームの選手とコーチの試合中のやり取りが話題になりました。 https://twitter.com/coachkelsj/status/1237059730834698241
会話は聞こえなくとも、アサーティブな意見交換が行われている事が伝わってきます。
臨床心理士のDr. Francine Martinezは、アサーティブネスを学ぶ過程は2段階あると述べています。最初の段階は自分のために声を上げる事で、その次が敬意を持った話し方を学ぶ事です。この二つの段階をしっかりと踏むことにより、動画のようなコミュニケーションの土台が築かれていくのだと思います。
監督やコーチの話を直立不動で聞いて、「はい!」と答えるだけのチーム文化や、ユースアスリートの訴えに耳を傾けない指導者の元では、アサ―ティビネスを育む一歩目である「自分のために声を上げる」ことすら難しいでしょう。
アサーティブなユースアスリートを育てるために
Academy of Coaching Parents Internationalの認定コーチであり、多くの書籍を出版しているJanis Meredith氏は、USAフットボールに「Raising assertive youth athlete(アサーティブなユースアスリートを育てる)」という記事を投稿しています。その中で書かれている項目の一部を、私の意見を加えて紹介します。
■ 欲しいものがある時は、声にする事を教える 相手の賛同が得られるかどうかに関わらず、欲しいものや意見がある時は口にする事を推奨しましょう。コーチとの関わりであればプレータイムやポジションについて、親との関わりであれば、試してみたいスポーツについてなどです。
子どもが自分の意見を口にした時は、同意する、しないに関わらず、大人がアサーティブな態度で対応する事が大切です。必ずしも賛同する必要はありません。意見の同意を得られた=自分を尊重してもらえた、ではありませんし、その逆も然りです。
■ 心変わりを許容してあげる 約束を守ることが信用・信頼にとって大切である事を教えながらも、子どもの心変わりに許容的でありましょう。「前に約束したから」という理由で今現在の気持ちに蓋をする習慣は、自分を大切にする考え方を育む制限になり得ます。
■ 僕は・私は、という話し方を推奨する 自分自身の気持ちを表現する習慣をつけるためには、自分を主語に置いた話し方が大切です。その中で、感情=自分(例; I am angry)ではなく、感情を感じている自分を認知する(例; I feel angry)力はアサーティブなコミュニケーションを取る上で大切だと思います。
■ 子どもの性格ではなく、行為・行動を戒める 親・コーチとして、戒めが必要な状況もあります。その際に、行為・行動を言及の対象にしましょう。子どもの性格や人柄に言及することは、自尊心の低下につながり、アサ―ティビネスにも影響を与えます。例として、冒頭のパスをしない子どものケースに大人が介入する場合、「自己中心的になるな」はNGです。
子ども達に伝えたい8つの権利
心理療法士のKatie Hurley氏は、アサ―ティブネスを育むために、全ての人が以下の8つの権利を持っている事を、子ども達に伝えましょうとアドバイスしています。
1.ノーと言う(権利) 2.敬意を持って接される(権利) 3.自分の必要としている事、気持ち、考え、アイデアを表現する(権利) 4.自分が達成したことを誇りに思う(権利) 5.敬意を持って同意しない(権利) 6.怒りを感じ、表す(権利) 7.必要な時、助けを得る(権利) 8.サポートされていると感じる(権利)
子どもに伝えるだけでなく、私たち自身がこれらの権利を大切にしているか、そして自分の周りの人たちのこれらの権利を尊重しているかを確認してはいかがでしょうか。
大人の子どもとの接し方は当然ながら、大人同士のコミュニケーションも、子ども達は観察しています。家族であれば夫婦間の、ユーススポーツ環境であればコーチ・保護者間のコミュニケーションなどです。どちらか一方の意見が常に尊重される夫婦関係、わが子可愛さ故にコーチへの敬意を欠いた保護者の言動、コーチの高圧的で保護者を尊重しない態度。これらが子どもに与える影響を大人は意識する必要があります。
この数か月間で、大きな変化が社会に起きました。今後、よりストレスフルな社会になる事も考えられます。だからこそ、子ども達が環境に左右されず相手と自分の双方を尊重するコミュニケーションがとれる力を育む事は、私たち大人の大切な役割です。スポーツがその土壌となる事を望んでやみません。
アサーティブネスについて関心を持った方や、より深く学びたい方は日本語でのリソースに富んだ特定非営利活動法人アサーティブジャパンのHPがおすすめです。
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