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目標設定する上で避けられない、コンフリクトについて

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竹林崇 大阪府立大学 教授

以前のコラム「作業療法における目標設定の実際」にて、目標設定の際に対象者との目標内容の不一致が生じる問題点について記載した。臨床場面においても「リハビリの目標は先生が決めてくれました」「目標自体を決めた覚えがない」などの意見を耳にすることがある。このように、目標設定の際には意識の違い、齟齬(コンフリクト)が生じる問題背景がある。本コラムでは、コンフリクトの発生に対して注意すべき視点と、その対策について解説する。

目次

    以前のコラム「作業療法における目標設定の概要」を事前にお読みいただくことをお勧めします。

    コンフリクトに対するShared decision making (SDM)

    コンフリクトに注意するための視点として、Shared decision making(SDM)の意思決定モデルが1つの参考になる。

    医療現場での実践として、Shared decision making(SDM)の意思決定モデルが推奨されている¹⁾。これはリハビリテーション領域でも同様であり、目標設定・介入選択の際に活用される。

    SDMは対象者による意思決定を、対象者・医療従事者双方の意見をすり合わせることで促進する過程が重要視されている。それは意思決定において、対象者が実は医療従事者側との対話の内容を十分に理解しておらず、その内容を認識していない場合が考えられることが理由である。

    従って、意思決定の過程において、それらの認識の違いを防止するためのポイントが9つ示されている。Kristonら2)は、これをSDMの9ステップとして説明している。(図1参照)


    図1) SDMの9ステップ 文献2)より改変

    中でもステップ4・5・6の項目の重要性が示されており³⁾⁴⁾⁵⁾、目標設定・介入選択の際に意識すべき視点だと考えられる。SDMの詳細については成書等での学習をお勧めする⁶⁾。

    また、Hoffmanら⁷⁾は、対象者が「治療による利益を多く見積もり、害を少なく見積もる」傾向があることを系統的レビューにて示している。このように対象者の思考過程の傾向を知ることと、SDMの考えをふまえて療法士の思考の偏りを是正することが出来れば、先に述べたコンフリクトを減らすことに繋がると思われる。

    臨床場面で実際にコンフリクトが生じているのかを、「Decision conflict scale(DCS)⁸⁾」などの評価バッテリーで測定することも可能なので、合わせて参照して頂きたい。注意点として、この評価は目標設定時の意思決定ではなく、あくまでもアプローチ選択時の意思決定用に作成されたものであることを認識する必要がある。(図2参照)


    図2) Decision conflict scale
    https://decisionaid.ohri.ca/docs/develop/User_Manuals/UM_Decisional_Conflict.pdf より一部改変・抜粋

    臨床で行えるコンフリクトへの対策

    目標設定におけるコンフリクト対策については、明確な手順は未だ提示されていない。しかしながら、上記で示したDCSは「繰り返し確認する」中で認識の違いを確認する評価である。

    従って、コンフリクトを減らすためには、対象者と医療者の認識を都度確認する必要がある。確認の手段としては、上記のDCSを使用して目標設定・介入選択の内容について振り返ることが挙げられる。

    また、本邦においては、澤田らが訪問リハビリの際に目標設定の振り返りが行える評価スケールを開発している⁹⁾。これら評価スケールを活用して、療法士の実践内容や、対象者の認識を確認することは、コンフリクトへの対応の1つとして挙げられる。

    評価スケールの利用の他に、臨床現場においては目標設定の内容を対象者と振り返り、合意形成をする過程が必要である。臨床現場では、目標設定を振り返った際に「こんなこと、言いましたっけ?」など対象者との認識の違いを感じることが多々ある。

    従って,しっかりと共有できる資料などに証拠を残しておくなどの工夫が必要である(糾弾目的ではなく確認目的)。コミュニケーションの特性上、認識の乖離を完全になくすことは難しい。しかし、目標や介入の確認を繰り返すことで、認識の乖離の減少を試みることはできると思われる。

    現行の医療制度では、月に1回のリハビリテーション総合実施計画書の発行のみが、規定されたリハビリの説明機会である。しかし、この対応のみではコンフリクトを考慮した対応としては不十分であることは想像に難くない。

    対策として、必要があれば指定書類以外の追加書類をオーダーメイドで作成することはできる。ほか説明機会を月に1回と定めず、週に1回などに頻度を増加することや、目標・介入変更時に都度説明の場面を設けるなど柔軟な対応が必要だと考えられる。コンフリクトに対しての明確な対応はいまだ定まった方法はなく、私たちが実践から対応を模索し続ける必要がある。

    【共著】
    高瀬 駿(川崎協同病院 作業療法士)

    【引用文献】
    1)Charles C,et al:Shared decision-making in the medical encounter:what does it mean?(or it takes at least two to tango).Social Science & Medicine.1997;44(5):681-92.

    2)Kriston L,et al:The 9-item shared decision making questionnaire (SDM-Q-9).Development and psychometric properties in a primary care sample.Patient Educ Couns 80:94-99,2010

    3)Thistlethwaite J,et al: The medical home: A need for collaborative practice ,Aust Fam Psysician.2016;35(7):537-40.

    4)Elwyn G,et al: Shared decision making: a model for clinical practice,J Gen Intern Med.2012;27(10):1361-7.

    5)Stacey D,et al: Exploring cancer treatment decision-making by patients: a descriptive study.Patient Educ Couns.2010;80(2):164-72.

    6)中山ら,これから始める!シェアード・ディシジョンメイキング 新しい医療のコミュニケーション,日本医事新報社,2017

    7) Hoffmann TC,et al:Patient’s and tests. A systematic review. JAMA Intern Med. 175:274-286,2015

    8)O’Connor AM,et al: Validation of a decisional conflict scale,Med Decis Making 15(1),25-30,1995

    9)大浦ら,訪問リハビリテーション・チェックリストの開発-具体的な目標設定と明確な課題解決のプロセス.日本訪問リハ協会機関紙2016:4(2).29-34.

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