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医療・介護領域における情報の非対称性とその影響① ~医療・介護の世界は「情報の非対称性」であふれている~

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八木 麻衣子 聖マリアンナ医科大学東横病院 技術課長補佐

情報の非対称性とは、製品やサービスの売り手と買い手の間の情報量の格差をさします.医療や介護の領域では、医療提供側と患者さんの間だけではなく、さまざまなステークホルダー(利害関係者)の間で情報の非対称性が存在します.また、提供された医療や介護の質を評価することが難しいこともあり、良質な製品やサービスの価値が低く評価される傾向のある「レモン市場」に陥っている可能性を否定できません.そのため、適切な対応を行っていくことが重要となります.

目次

    はじめに

    みなさん、こんにちは.今回は有名な経済特性のひとつである「情報の非対称性(Information Asymmetry)」が、医療・介護領域における私たちの活動に与える影響について考えていこうと思います.医療や介護の現場で起きているさまざまな問題は、この情報の非対称性で説明できる場合が多くあります.まずは、そんな情報の非対称性の概念を理解しつつ、私たちがはたらく医療や介護の現場で、どのような影響を及ぼしているのか、について確認していきましょう.

    情報の非対称性とは何か?

    どんなときにも、何かしらの製品やサービスの売買や交換には、それらを提供する人と、受け取る人が必ず存在します.この両者において、その製品やサービスに関する知識や情報は、当たり前の話かもしれませんが、受け取る側である「買い手」よりも、提供する側の「売り手」のほうが多く持ち合わせています.

    例えば、フリマアプリに出品されている古着がとてもきれいに見えたとしても、本当のくたびれ加減や隠されたシミ、汚れの存在については、スマホで見ただけの閲覧者(買い手)よりも、実物を所有している出品者(売り手)の方が情報を持っています.そんな、製品やサービスのついての、売り手と買い手の間にある情報量の格差が「情報の非対称性」です.

    情報の非対称性で注意すべきこととは?

    この情報の非対称性がもたらす事態として注意しなければいけないのが「レモン市場」です.レモンというと酸っぱいフルーツを思い浮かべる方も多いと思いますが、英語ではいわゆる「欠陥品・不良品」という意味があります.

    ノーベル経済学賞も受賞したジョージ・アカロフの「The Market for “Lemons”: Quality Uncertainty and the Market Mechanism (1970)」では、今でもよく用いられる中古車市場を例に、このレモン市場を説明しています.

    先ほどのフリマアプリの古着と同じように、中古車もエンジンやバッテリーの本当の状態が買い手にはわかりません.そして、この車の本当の品質と価値を知っているのは売り手ですが、この売り手が価値に基づいた適切な値段を提示するかはわからないのです.

    このような市場の厄介なところは、私的情報(中古車市場でいうと車の本当の状態や価値)を持つ者にとっては、虚偽(うそ)の情報を表示するインセンティブが働くことです.売り手が正直者でない場合、本当は適正価格が50万円と判断された中古車を100万円と表示することで、たとえ30万円のディスカウントをしても20万円の利益を得ることができます.

    一方、本当に100万円の価値のある車を110万円で売ろうとする正直で誠実な売り手は、大幅なディスカウントすることが難しく、この価格競争から撤退せざるをえません.そのため、ウソを表示する売り手が市場に残りやすく、結果として品質の低い物が市場で勝ち残ることになります.まさに「悪貨が良貨を駆逐する」状態です.

    情報の非対称性を医療や介護領域で考えてみよう

    さて、この情報の非対称性ですが、医療や介護の世界にあてはめて考えてみたらどうなるでしょうか.日頃から、医療現場では多くの医学的な専門用語が使われ、医療者間ではそれらの言葉を使うことで、効率的に情報や意味のやり取りを行っています.しかし、これが医療を提供する側と、そのサービスを受け取る患者さんの間ではどうなるでしょうか.

    例えば、リハセラピストがふつうに使う「関節可動域」という言葉も、一般の方や、ともすれば介護領域ではたらく人でもわからないかもしれません.また、医療現場はつねに数多くの研究開発が行われ、日々ダイナミックに変化しています.そのため、高度化すればするほど、ほんの少し専門がずれただけで、説明を受けた範囲の内容を正確に理解することが難しくなるのです(そのため、私たちはいつも「知っているつもり」にならないように注意しなければいけません).

    これらのことを考えると、急に病気になって治療が必要となった患者さんと、それまでに潤沢な知識を蓄積してきた医療者との間における情報の非対称性は、とてつもなく大きいことが想像できると思います.

    医療・介護現場における情報の非対称性による問題

    さらに問題なのは、この情報の非対称性の影響で医療や介護の現場においては、前述したアカロフの「レモン市場」の存在を否定できないことです.医療を提供する人々は、その患者さんにとって最善の医療を提供することを前提としていると思います.一方、患者さんからすると、自分が受けた医療のプロセスや結果の「品質」を客観的に評価することは困難です.医療サービスの買い手である患者さんが、その診療内容についての品質の良し悪しを判断することが難しいということは、良質な商品が低い平均価値をつけられてしまうレモン市場と同じように、「質の悪い医療が、質の良い医療を駆逐する…」という状況を誰も否定できないのです.

    医療・介護現場において情報の非対称性がもたらす影響はレモン市場の問題にとどまりません.医療に対しての不満感、患者と医療者の間のコミュニケーションエラーなど、医療問題として取り上げられているものを分解して考えていくと、この情報の非対称性で多くことが説明できるのです.次回は、そんな情報の非対称性への一般的なものから、医療・介護現場において必要と思われるものまで、いろいろな対応のしかたについて考えていきたいと思います.

    【引用論文】
    Akelof, G A. 1970. The Market for "Lemons": Quality Uncertainty and the Market Mechanism. The Quarterly Journal of Economics, Vol. 84, No. 3, pp. 488-500.

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