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介護予防で医療費を削減することは可能なのか?

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穴田周吾 合同会社Rehacon アナリスト

昨今、医療職の起業や行政による予防介入が盛んとなっています。その流れも相まってか「予防をやりたい!」というコメディカルが筆者の周りにも多数います。

そのなかで「医療費を削減することで私達にも報酬を!」という声が時折見受けられます。しかし、この論調については少し違和感があります。なぜなら「予防的介入が医療費を下げる」と本当に言い切れるのかに疑問があるためです。

今回は予防と医療費の関係について、医療経済学の知見をふまえて解説します。

目次

    医療費を削減出来るか?は医療費をどう見るかに左右される

    例えば「転倒による骨折を防いだことにより、医療費が削減出来るか?」という問いについては「その時点のみであれば、削減出来た」と答えることが出来ます(本当にその介入によって転倒予防出来たのかを検証する必要がありますが、ここでは予防出来たと仮定します)。

    しかし、医療費の削減をある一点のみで考えるのはあまり適切ではありません。それは、医療費は生涯を通じてかかる総額として長期的に捉えることこそが重要であり、それを削減することによって持続可能な医療と社会保障制度を成立させることが可能となるためです。

    そうすると、介護予防・予防接種・早期検診などの介入を行うことで寿命が延長した場合、生涯の医療費が増加するのではないか?という疑問が浮かんでくるのではないでしょうか?

    寿命が増えると医療費が増大する?

    以下の図は、一人当たりに生涯でかかる医療費に関するグラフです。


    図1 引用)厚生労働省.統計一覧.生涯医療費(男女計).平成29年

    これは“仮に、年齢階級別1人当たり国民医療費及び年齢階級別死亡率が当該年度から変化しないとした場合に、1人の人が生涯で必要となる平均医療費がどの程度かを推計したもの”¹⁾となっています。

    この図を見て分かることとしては、下記の5点があります。
    1.生涯に医療費は平均2700万円かかる
    2.生まれてから4歳ごろまで医療費が高い
    3.その後減少し、70歳までに約半分を費やす
    4.70歳以上で残り半分を費やす
    5.90歳以上の高齢になるとそれまでより減少する

    つまり、この図から読み解く限り、寿命が伸びると医療費がかかるということはやはり正しいようです。ちなみに、90歳以上で医療費が減少する点については、延命治療では医療資源の投入量が減少するため、医療費がそこまで高くならないという説があります。

    また、医療費の増加には「医療の高度化」も要因となっているとされています。最新の医療機器の使用・高額な薬価・消費税増税に伴う医療資源のコスト増などがその詳細な理由としてあります。

    医療費の変化は厚労省のHPより簡単に見ることが出来ます。参考までに先程の図1と下記の図2を比べてみましょう。


    図2 引用)厚生労働省.統計一覧.生涯医療費(男女計).平成18年

    図1と図2では、生涯医療費は500万円ほど異なります。しかし、グラフの形状が概ね同じであり、それぞれの年度の平均寿命はさほど変わりはありません。やはり、医療の高度化も影響していることがうかがえます。

    ちなみに、医療の高度化については、国のGDPの増加と密接な繋がりがあり、今後は急増しないことが示唆されています²⁾。

    医療費が増大するなら、予防は無駄なのか?

    誤解をしないでいただきたいのですが、私はここについては『NO』の姿勢です。まったくもって無駄ではないと思っています。なぜなら、医療や介護のアウトカムは“お金(費用)”だけではないでしょう。投資した費用に対する“健康(あるいはQOL)”といった豊かさでも良いのではないか?と考えているためです。

    ある関東の自治体のがん検診の住民の成果報告でも、“住民一人当たり負担が◯円かかりましたが、その代わりにXX名助かりました”と記しているところがありました。予防接種によって医療費削減ではなく、生命の価値を成果として示しているのは良い視点だと思っています。

    もちろん、医療費削減についても、現在はまだデータが出せていないだけで実は削減しているということが判明する可能性があります。また、特定の疾患や介入の種類によっては医療費削減効果があるという場合もあるでしょう。さらにミクロに見ていけば「医療資源の乏しい○○町において、受診のピークを分散できる」などと医療崩壊を防ぐ効果もあり得ると思います。他にも、回復したことで本人が長く働けるようになる・家族の介護負担が減り納税するといった効果も期待出来るでしょう。

    このように、予防はアウトカムの設定次第ではメリットがあることが期待出来ます。しかし、それをデータとして証明することは難しいのだろうな…と筆者は感じています。

    まとめ

    データから読み解いていくと、予防的介入で医療費が落ちるとは現状では断定しきれません。しかし、介入のアウトカムは医療費だけではありませんし、医療費削減はしないとは必ずしも言い切れないのが現状です。そのため、これらを踏まえて、適切にデータを収集を行い、様々な提案や専門性の活かし方が模索することが、私たちに問われているのではないでしょうか。

    研究の仕方や考え方については当サイトでもさまざまなコラムがあります。是非一度チェックをして身近なところから成果を検証していただけると幸いです。

    【文献】
    1)厚生労働省.医療保険に関する基礎資料
    2)二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻176号)

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