脳卒中後の上肢運動麻痺に対する電気刺激療法のエビデンス

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竹林崇 大阪府立大学 教授

「エビデンス」とは「証拠」や「根拠」を意味する英単語であり,臨床場面では実施していくアプローチが対象者にどれだけ確実に成果を上げることが出来るかを証明する,証拠となるものである.療法士は乱立している様々なアプローチの中から手段を闇雲に選択していくのではなく,対象者が可能な限り高い可能性で目標を達成できるように,各手法のエビデンスを理解して選択する力を持つことが非常に重要となる.本稿では脳卒中後の上肢運動麻痺に対する電子刺激療法のエビデンスについて解説していく.


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電気刺激療法について

 本邦の「脳卒中ガイドライン2015」¹⁾では,随意性がわずかに保たれている脳卒中後の上肢運動麻痺を呈した対象者(重度から中等度麻痺)への電機刺激の使用が有効といわれ推奨グレードBとなっている。またアメリカ心臓/脳卒中学会のガイドラインにおいても,末梢神経筋電機刺激はわずかな随意運動や亜脱臼を改善させる合理的な練習方法であるとされ,エビデンスレベルAとされている.上記のガイドラインから脳卒中後上肢運動麻痺の電機刺激療法の役割として,神経の促通や肩関節の亜脱臼修正,痙縮筋の抑制で有効だということがわかる.以下にそれぞれの症状における電機刺激のエビデンスを解説していく.

神経の促通における電機刺激療法のエビデンス

 一度損傷を受けた脳は基本的に修復されないと考えられてきたが,1980年代より身体状況の変化や行動に応じて,脳の機能局在が変化する知見が得られた.²⁾電機刺激療法も同様に,Shinら ³⁾のfMRI(functional magnetic resonance imaging)を使用した脳活動量の比較研究によって,求心性の電気刺激により損傷側の感覚野・運動野の脳活動量が増大し,大脳皮質に及ぼす効果が報告された.Velerisら ⁴⁾の脳卒中後の電気刺激療法に関するSystematic Reviewでは,Box&BlockテストやFugl-Meyer Assessment(FMA)で,電気刺激療法実施群において未治療や通常練習群と比較し有意差を示したとしている. ⁵⁾またHaywardら ⁶⁾の Systematic Reviewでは,重度の麻痺を伴う脳卒中患者における上肢機能の回復を促進する介入について,ロボット療法と電気刺激療法がアプローチとして採択され,介入効果は大きいとされている.

 重度の上肢運動麻痺に関する電気刺激にはLinら ⁷⁾のランダム化比較試験で成果が示されている。この研究では重度の上肢運動麻痺を呈する回復期脳卒中片麻痺患者に対して,棘上筋と三角筋,または前腕背屈筋群に電極を貼付して,随意運動にNeuromuscular Electrical Stimulation(NMES)を同期させる訓練を,1日30分を週5回,合計3週間実施した.結果NMES群が未実施群と比較しFMAが優位に改善し,3か月および6か月後もFMAの数値が良好であり長期的な効果も示された.またInobeら ⁸⁾のFinger Equipped Electrode(FEE・手指装着型電極)を使用した,FMA上肢項目10−20点台,Brunnstrom recovery stage(BRS)Ⅱ−Ⅲの重度運動麻痺を呈した慢性期脳卒中患者の運動機能に関する研究では,FEE電極使用群は未使用群と比較してFMAおよびBRSにおいて優位な改善を認め,重度運動麻痺に対しても効果があることが示された.

 中等度の上肢運動麻痺では随意運動は行えるが分離運動が乏しく,動作時に共同運動パターンを伴う現象が観察される.分離運動出力を高めるためにはNMESやIntegrated Volitional Control Electrical Stimulation(IVES)の使用が有効であるとされているが,中でもIVESのような随意運動に同期して電気刺激が入力される随意運動介助型電気刺激装置の方が,従来の治療的電気刺激よりも運動出力の向上を図ることが可能と言われており ⁹⁾,課題指向型訓練との親和性も高い.またFranciscoら ¹⁰⁾が行った,麻痺側手関節伸筋の随意収縮が可能な症例に対して,30分のセッションを1日2回,左記を合計5回,運動介助型電気刺激を手関節伸筋群に実施した介入群4名と通常訓練を実施した対照群5名を比較した臨床研究では,介入群においてFMAで有意な改善を示したと報告されている.このように重度から中等度の上肢運動麻痺に対する神経筋再教育には,単独で運動を実施するよりも電気刺激療法を併用する方が有効であるとエビデンスが示されており,臨床実用性が高いと考えられている.

肩関節亜脱臼に対する電気刺激療法のエビデンス

 脳卒中後の肩の痛みを引き起こす要因の1つとして亜脱臼が挙げられており,対応としてオーバーテーブルの設置やスリングを使用することが多かった.しかし近年では電気刺激が介入手段として用いられることが増えており,LeeやKamalら ¹¹⁾¹²⁾のSystematic Reviewでは,急性期や亜急性期においてFES(機能的電気刺激)をはじめとする神経筋電気刺激は有意に亜脱臼を修正すると報告されている.Wang ら ¹³⁾の脳卒中後に亜脱臼が生じている急性期患者16名と慢性期患者16名に,棘上筋と三角筋後部線維に1日6時間の機能的電気刺激を6週間実施した比較研究では,急性期群において亜脱臼の有意な改善を認めた.しかし慢性期群では大きな効果を示さなかったと報告している.またLinnら ¹⁴⁾の40人を対照としたランダム化比較対照試験では,治療群に分けられた対象者の棘上筋と三角筋後部線維に最低30分の電気刺激を1日4回,合計4週間にわたり実施した.結果亜脱臼と肩の疼痛は対照群と比較して大幅に軽減したと報告している.しかし12週後の追跡調査時における評価では,対照群と比較し亜脱臼と疼痛の程度に有意差は認められなかった.このように肯定的なエビデンスが示されているなかで,発症から長期間経過している状態では効力が低いことや電気刺激を撤回してから亜脱臼が再発するエビデンスも示されている.これらの先行研究から肩関節の亜脱臼に対する電気刺激療法は,可能な限り発症早期から用いて,かつ積極的な運動療法に併用しつつ,運動麻痺自体の改善を図っていく必要があると考えられている.

痙縮に対する電気刺激療法のエビデンス

 痙縮は脳卒中後の上位運動ニューロンの障害によって生じ,機能および活動レベルの改善を妨げ臨床場面でも改善に難渋することが多い.痙縮に対してはボツリヌス毒素施注などの薬物療法,ストレッチングなどの運動療法,温熱療法や電気刺激療法などの物理療法,装具療法などが介入手段として挙げられる.なかでも電気刺激療法は非侵襲的で対象者の負担が少ない手法である.Steinら ¹⁵⁾の脳卒中後の痙縮に対するSystematic Reviewでは,NMESを単独で実施するよりも,他の手法と併用することでより効果的としている.また筋収縮を伴わない感覚閾値程度の強度であっても痙縮抑制の効果があるとされており ¹⁶⁾,課題指向型訓練に感覚閾値のNMESを併用することで痙縮抑制効果が増大することも報告されている.¹⁷⁾Wangら ¹⁸⁾の研究では感覚閾値の強度,筋収縮が生じる強度,全関節運動が生じる強度の電気刺激で痙縮抑制効果を比較した.結果はいずれも痙縮抑制を認めたが,全関節運運動が生じる強度の電気刺激では2週間後にも効果が持続していたと報告されている.そのため対象者の負担が少なく,併用療法を阻害しない程度であれば,電気刺激の強度は高めに設定した方がいいと考えられる.電気刺激時間は10-60分と様々な報告があるが,即時的な変化であればストレッチングと併用で5分程度でみられることもあるため,対象者の状態や目的を考慮して実施時間を設定していくことが必要であると考えられる.¹⁹⁾

5.まとめ  上記のように,脳卒中後の様々な症状に対して電気刺激療法は効能がある.しかしそれぞれの症状に対して推奨される電気刺激の使用方法は様々であり,また有効なエビデンスだけでなく否定的なエビデンスも存在している.それらを理解することが,対象者にとって意味のある介入手段に辿り着くために必要なプロセスとなる.   【共著】 山田順也(社会医療法人 協和会 加納総合病院、作業療法士)

【コラム解説動画】

【引用文献】 1.「脳卒中ガイドライン2015」(日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会/編)2015 2.「行動変容を導く! 上肢機能回復アプローチ」(竹林崇/編)P16,医学書院,2017. 3.Shin HK, et al : Contical effect and functtional recovery by the electromyography -Triggered Neuromuscular Stimulation in Chronic Stroke Patients:Neurosci Lett,442:174-179,2008. 4.Pomeroy VM,King LM,Pollock A, et al:Electrostimulation for promoting Recovery of movement or Functional A bility After Stroke Sysrematic Review and Meta-Analysis:Stroke37(7):2441-2442,2006. 5.石垣賢和:電気刺激療法と課題指向型アプローチ:脳卒中リハビリテーション(7):P64,株式会社gene.2019. 6.Hayward K et al:Interventions to promote upper limb recovery in stroke survivors with severeparesis:a systematic review:Disabil Rehabil,32:1973-1986,2010 7.Lin Z & Yan T:Long term effectiveness of neuromuscular electrical stimulation for promoting motor recovery of the upper extremity after stroke:J Rehabil Med.43:506-510,2011. 8.inobe J & Kato T:Effectiveness of finger-equipped electrode(FEE)triggered electrical stimulation improving chronic stroke patients with severe hemiplegia:Brain J.27:114-119,2013. 9.村岡慶裕,他:運動介助型電気刺激装置の開発と脳卒中片麻痺患者への使用経験:理学療法学,31:29-35,2004. 10.Francisco G,Chae J,Chawla H, et al:Electromyogram-triggered Neuromuscular Stimulation for Improving the Arm Function of Acute Stroke Survivors:A Randomized Pilot Study:Arch Phys Med Rehabil79(5):570-575,1998. 11.Lee JH, et al:Effectiveness of neuromuscular electrical stimulation for management of shoulder subluxation post-stroke:a systematic review with meta-analysis:Clin Rehabil31:1431-1444,2017. 12.Kamal Narayan Arya et al:Rehabilitation methods for reducing shoulder subluxation in post-stroke hemiparesis:a systematic review:Top Stroke Rehabil25(1):68-81,2018. 13.R Y Wang et al:Functional Electrical Stimulation on Chronic and Acute Hemiplegic Shoulder Subluxation:Am J Phys Med Rehabil79(4):385-390:quiz391-394,2000. 14.Linn SL, et al :Prevention of stimulation:Stroke30:963-968,1999. 15.Stein C, et al:Effects of Electrical Stimulation in Spastic Muscles After Stroke:Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Stroke46:2197-2205,2015. 16.Miller L, et al:The effects of transcutaneous electrical nerve stimulation on spasticity:Physical Therapy Reviews10:201-208,2005. 17.Ng SS & Hui-Chan CW:Transcutaneous electrical nerve stimulation combined with task-releted training improves lower limb functions in subjects with chronic stroke:Stroke38:2953-2959,2007. 18.Wang YH, et al:Full-movement neuromuscular electrical stimulation improves planter fiexor spasticity and ankle active dorsiflexion in stroke patients:a randomized controlled study:Chin Rehabil30:577-586,2016. 19.「エビデンスから身につける物理療法」(庄本康治/編)P229,羊土社,2017

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