本稿では以前のコラム「EBM(evidenced based medicine)とは ~歴史と定義からリハ領域での活用を考える~」でも少し触れた「エビデンスの圧政」についてもう少し踏み入って解説していく.

キーワード
#証拠に基づく医療 #意思決定 #リハビリテーション #エビデンスの圧政

エビデンスの圧政とは

Evidence Based Medicine/Practice(EBM/EBP)ではエビデンスレベル,医療者の専門的知識,対象者の価値観や状況を統合して実践へと移る.その為EBM/EBPを行なう上でエビデンスは重要な要素の一つに過ぎず,対象者によっては医療費や治療を受けるにあたって生じる副作用のリスク,対象者の要望,さらにはエビデンス を提供するための周囲の環境など,包括的に捉え,エビデンス を使用することが重要である.

Haynesら¹⁾の引用

上記のような背景もあることから対象者と医療者が共に協働して,実現可能な対象者にとって最適な意思決定を行なう Shared Dicision Making(以下:SDM)の重要性が言われている.Hoffmannら²⁾はSDMおよび対象者中心のコミュニケーションがなく,エビデンス 至上主義的な振る舞いについてEBM/EBPとは言わず,「エビデンスの圧政」であると警鐘している.

Hoffmannら²⁾の引用

医療者サービスの過剰使用によるエビデンスの圧政

対象とする分野によってはエビデンスが不明確であったり,未だ調査や研究結果が得られておらず,エビデンスそのものが不十分なことが少なからずある.このような領域におけるEBM/EBPにおいて,Brownleeら³⁾はエビデンスが不足している医学的サービスをグレーゾーンサービスと定義した(下図参照).そのうえで,個々の対象者の価値観や好みは,エビデンスの不確実性の高いグレーゾーンサービスに対して,特に重要であることを示唆している.

しかし,実際には医療者の対象者が持つ価値観への理解が不足していることが多く,場合によっては対象者が積極的あるいは侵襲的な介入を避けることを望んでいると誤って独善的に想定したり,対象者が多くのサービスを望んでいると誤認していると報告している.この「選考誤認」が生じることで誤ったサービスを過剰に提供したり、逆にサービスの使用不足に繋がるとした.

Brownlee ら³⁾の引用

過剰使用に関して様々な分野で報告がある.Riddle ら⁴⁾は米国における人工膝関節置換術(TKA)が適切な対象者に対して実施されているかどうか(過剰使用されていないかどうか)アルゴリズムを用いて検証した.その結果,最終的に完全なデータが取集できたのは175人あり,そのうちの77人(44.0%,95%CI = 37,51)が適切だと分類された.また38人(21.7%,95%CI =16,28)が決定的ではないとされ,60人(34.3%,95%CI = 27,41)が不適切であったと報告している.

またBaxiら⁵⁾は癌の管理における医療サービスの過剰使用に関するシステマティックレビューを報告している.対象となった論文は最終的には59件であり,成人または高齢者の癌患者が多くを占め,なおかつ診断評価に関する論文が約半数を占めていた.結果は研究の大部分(n= 53 ,90%)は非推奨サービスを受ける人口の割合として過剰使用を報告し,また過剰使用の有病率を決定づけるための管理上のデータが多く使用された(n= 27 ,46%)ことを報告している.

これらのことからも、医療者側の誤った知識であったり,医療者本位の考え方で物事が進むと消費者意識が欠如した過剰使用につながってしまうことがある為,注意が必要である.

対象者は実際に意思決定に参画できているのか

実際に対象者が意思決定に参画できているのかについて話を展開していく.

Dierckxら⁶⁾は理学療法における対象者の意思決定の関与と療法士側が考える対象者側の認識を調査する目的に13人の理学療法士及び237人の対象者に質問表を用いて実施した.なお質問表では診療等で対象者の意思決定の関与を測定する為に作成されたOPTIONが用いられた.結果は全ての症例のたった27.6%においてのみ,セラピストの感覚が対象者の好みと一致していた.この結果からも療法士と対象者の意思決定の関与における相違が認められた.

また質問項目にある「対象者と療法士が意思決定を共有しているか」という項目に関して対象者が36.7%,療法士側が15.2%と示していることから,療法士側は対象者と意思決定が行えていないと認識し,かつ意思決定については療法士が主体となった父権主義的アプローチに基づいた選択をとっていると報告している.

ただサンプルサイズの不足や今回は自営業で働く療法士を対象とした為,一般化への反映等が困難であることを研究の限界として挙げている.また対象者中心のコミュニケーションを含めた医療を提供する上で必要な要素をStewartら⁷⁾がまとめているので参照して頂ければ幸いである.

Stewartら⁷⁾より引用

まとめ 今回はエビデンスの圧政に関する事例について簡単に解説すると共に実際にリハビリテーション分野での対象者と療法士側の意思決定の関与について例で示した.EBMを行なう上で医療者側は適切な知識を対象者に提供することは勿論であるが,その上で対象者の価値観や好みを踏まえた選択を行う必要がある.そうでなければ,医療コストが多大にかかるような医療サービスの提供や逆に医療サービスの提供不足に陥る可能性がある.エビデンスの圧政を防ぐ為にも対象者の価値観や好みを取り入れることが可能なSDMの手法は有用である.

【共著】 横山広樹(関西医科大学くずは病院 リハビリテーションセンター 理学療法士)

【引用文献】

  1. Haynes RB,et al: Physicians' and patients' choices in evidence basedpractice. BMJ .324(7350):1350,2002.
  2. Hoffmann TC,et al: The connection between evidence―based medicine and shared decision making .JAMA 312: 1295―1296,2014.
  3. Brownlee S,et al: Evidence for overuse of medical services around the world . Lancet.390(10090):156―168,2017.
  4. Riddle DL,et al:Use of a validated algorithm to judge the appropriateness of total knee arthroplasty in the United States: a multicenter longitudinal cohort study .Arthritis Rheumatol .66(8):2134‐2143,2014.
  5. Baxi SS,et al: Overuse of Health Care Services in the Management of Cancer: A Systematic Review .Med Care .55(7):723―733,2017.
  6. Katreine Dierckx,et al: Implementation of Shared Decision Making in Physical Therapy:Observed Level of Involvement and Patient Preference,Physical Therapy,Volume 93, Issue 10:1321―1330,2013.
  7. Stewart M et al:Patient-Centered Medicine: Transforming the Clinical Method Thousand Oaks .:2014.

【関連コラム】 ・EBM(evidenced based medicine)とは ~歴史と定義からリハ領域での活用を考える~

【解説動画】

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