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EBM(Evidenced Based Medicine)は本当に機能しているか?

本稿ではEvidence Based Medicine(EBM)が本当に機能しているのか,つまり実際の臨床現場においてEBMは使用されているのか?について話を展開していく.また,臨床現場で使用されていない要因や改善策も含めて解説していく.
#証拠に基づく医療 #意思決定 #リハビリテーション #診療ガイドライン

EBMは臨床現場で使用されているのかという疑問

EBMはこれまでのコラムで挙げたように対象者に対してリハビリテーションも含めた適切な医療を提供する上で非常に重要であることを記載した.

では実際に臨床現場で使用されているのだろうか?

Schuster ら¹⁾は対象者に対する治療(インフルエンザワクチンやがんのスクリーニングなど)が研究文献や専門医療機関の声明や専門家委員会によって決定されたものに基づいた標準的な治療で実施されているかどうかを調査している(48の文献で対象人数は50万人).

治療時期に関しては,予防,急性期,慢性期と3つにカテゴリーを分けて調査している.

結果は予防のカテゴリーで推奨されている治療を受けている人は約50%(いずれの研究も不適切な予防ケアを受けている人の割合は示されてはいない),急性期では約70%が推奨される治療を受け,30%が不適切な治療を受けていたと報告している.

また慢性期の対象者に対しては約60%が推奨される治療を受け,20%が不適切な治療を受けていたと報告している.

上記の結果を踏まえてSchusterらは不適切な医療が数多く実施されていることを問題提起している.

実際の臨床現場におけるEBMの実践の障害要因に関してArgyriouら²⁾が示した報告がある.

その中で個人因子(推奨される評価ツールや評価尺度にアクセスできないこと)や組織因子(診療ガイドラインに基づいた医療を提供するために医療者に対して適切なトレーニングを行なう時間の不足)といった要因がEBMの実施に関連しているとした.

またStrausら³⁾はEBMに関する「批判」や「限界」等で言及している論文を調査し報告している. その中でも時間や資源の制約,実際にEBMが機能している(対象者に見合う試験が乏しい等)というエビデンスが少ないことがEBMを実践する上での限界と言及している.

さらにEBMが機能しているのか(対象者のアウトカムの転帰)という観点で言えばGreenhalghら⁴⁾は,EBMは利益重視の科学となってきており,統計的に有意であっても,実際の臨床現場ではわずかな効果である可能性を示唆している.

昨今EBMは普及しつつあるも,実際にはEBMに関する知識の不足,多忙な臨床現場での時間の制約,そして実践する上で対象者に適用可能なエビデンスが少ないことが要因でEBM使用の障害となっている可能性がある.

EBMの実践における診療ガイドラインの活用

EBMを実践する上で上記で挙げた問題の一つである時間の制約に対してStraus はシステマティックレビューの活用を推奨している. システマティックレビューとはランダム化比較試験(RCT)などの質の高い複数の研究を複数の専門家や研究者が作成者となって基準と方法に基づいてまとめられた総説のことをいう.

たとえ,研究デザインの高いレベルであるRCTであってもバイアスは必然的に生じてしまう為,複数の研究から結果の解釈を行なうことも大切である.

また,EBMを有効に行なうためのツールとして診療ガイドラインがある. 診療ガイドラインとはEBM普及推進事業であるMinds(Medical Information Distribution Service)では「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義している.

診療ガイドラインはエビデンスの高さのみならず,益と害のバランスや患者の価値観,資源を考慮して推奨度を決定している.

つまりEBMを実践する上で時間の効率化に繋がると共に現状有効なリハビリテーションの選択肢を対象者と話し合って決めていくという意思決定を補助してくれるツールとなっている.

実際本邦においての診療ガイドラインの使用についてFuzimotoら⁵⁾が報告を行っている. 対象は384人の理学療法士であり,診療ガイドラインに関してリッカート尺度による質問表を用いて実施している.

結果は診療ガイドラインの存在を知っている割合が約40%,実際に使用しているのが約30%となった.

Dianeら⁶⁾が488人の米国理学療法士協会所属の理学療法士に対して行った調査では約80%が診療ガイドラインを利用可能であるものと認識していた.

上記のことから本邦では診療ガイドラインの関する認知度が低いことが分かり,EBMを実践に移す為にもガイドラインの存在自体を広める必要があると考える.

また,仮にガイドラインなど知識の供給源が普及したとしても,対象者がその使い方を誤ると効果を発する事ができないこともわかっている.

Izcovichら⁷⁾は,内科病棟に入院した809名の対象者に,朝のカンファレンスで上がった問題に対し,文献検索を行いその結果をチーム内の全員に知らせ診療した群と,通常通りの診療を行った群において,死亡率やICU入室率,再入院率,入院期間を検討した結果,両群間に有意な差が認められなかったと報告している.

ただし,指導医が手渡しで情報を得ていた場合には,死亡やICUへの入室が優位に減ったと報告されている(介入群0% vs 対照群13.7%).

情報を正確に知ること,そしてその使い方を理解することで,つまりStep4の適用(EBM(Evidenced Based Medicine)の5step参照)を伴った本当の意味でEBMが機能する可能性がある.

【まとめ】 今回は,EBMが実際に臨床現場で使用されているのか,また使用されていない要因と改善策を簡単に説明した. 「EBM」という言葉は本邦においても普及してきているものの,学校教育や職場でのEBM教育が不十分であることが考えられる.

また例えEBMに関する正しい知識を得たとしても実践に移った際,時間の制約といった問題が生じるかもしれない. そういった時はまず対象者の方に対してどのようなリハビリテーションの選択肢があるのか診療ガイドラインを参考にすることが一つの手段となり得る可能性がある.本稿を通じて「EBM」を知るきっかけになれば幸いである.

【共著】 横山広樹(関西医科大学くずは病院 リハビリテーションセンター  理学療法士)

【引用文献】

  1. Schuster MA et al:How good is the quality of health care in the United States ? 1998.Milbank Q.83(4):843―895,2015.
  2. Argyriou,et al:Applying Evidence―Based Medicine in Actual Clinical Practice: Can We Bridge the Gap? A Review of the Literature .Hellenic J Cardiol 56(5):378―8,2015.
  3. Straus SE,et al: Evidence―based medicine: a commentary on common criticisms . CMAJ.163(7):837―841,2000.
  4. Greenhalgh Trisha,et al:Evidence based medicine: a movement in crisis? BMJ 348:2014.
  5. Fujimoto S,et al :Attitudes,knowledge and behavior of Japanese physical therapists with regard to evidence―based practice and clinical practice guidelines:a cross-sectional mail survey. J Phys Ther Sci 29(2):198―208,2017.
  6. Diane U Jette et al:Evidence―Based Practice:Beliefs, Attitudes,Knowledge, and Behaviors of Physical Therapists,Physical Therapy,Volume 83,Issue 9:786–805,2003.
  7. Izdovich A,et al::Impact of facilitating physician access to relevant medical literature on outcomes of hospitalised internal medicine patients: a randomized controlled trial. Evid Based Med 16: 131―135, 2011.

【解説動画】

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