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  3. 行動経済学で行動を促そう! 『ナッジ』とは?使い方と事例を紹介

以前ご紹介したコラム『知らないと損する?現場で使える行動経済学とは?』にて、現場で働くスタッフが知っておきたい行動経済学についてご紹介しました。読者の皆さんから大変好評で、「もっと知りたい!」という声を多数いただきました。そこで、今回は行動経済学第二弾として、対象者の行動を促す(誘導する)テクニックである『ナッジ』について紹介します。

目次

    行動経済学『ナッジ』とは

    皆さんは「ナッジ(nudge)」という言葉を聞いたことがありますか?ナッジは行動経済学の第1人者として知られるシカゴ大学(米国)のリチャード・セイラー教授によって提唱された理論です。

    ナッジの語源には「ヒジで軽く突く」という意味があります。
    よくあるドラマのシーンを思い浮かべてみると、居眠りをしている同級生に対して『横からヒジでつつく』『机の下で足を軽く蹴る』『咳払いをする』などによって「居眠りしちゃダメだぞ!」とさりげなく伝える場面がありますよね?

    これになぞらえて、人の意思決定や心理プロセスを捉えたうえで意図する方向にさりげなく行動を促すことがナッジです。
    ちなみに、明らかな支援をすることは学問上ではナッジに当てはまりません(例:何かをプレゼントする、禁止や命令で強く選択を促すなど)。

    ナッジは対象者に選択の余地を残しながら、特定の選択肢に誘導させるという手法です。
    ここでのポイントは対象者の『自分で選択した!』という感覚(=主体感)です。
    主体感を持つことで、商品の再購入や運動の取り組みといった行動を長期的に継続性をもって期待できます。

    ナッジの活用事例①男性用トイレに印をつける

    ナッジを実践に活用して成功した事例をご紹介します。
    まず、アムステルダム(オランダ)のスキポール(Schiphol)空港で大きく成功を上げ、世界中に広がった取り組みです。

    男性は立ってオシッコをする傾向があるため、床が汚れやすいです(ご結婚されている方はもしかしたらお家で注意されていませんか?笑)。
    それによって清掃費がとても高くついていた問題に対して、何とかならないか考えだされたアイデアが

    『男子トイレの便器の内側に一匹のハエの絵』を描いてみたのです。

    (Photo by Works That Work )

    男性がオシッコをする際に、無意識にこのハエをめがけて発射するようです。
    すると、床の汚れは減り、清掃費は8割減少したという結果を示しました¹⁾。

    『人は的があると、狙いをそこに定める』という行動の習性を狙って、行動をデザインしたのがこの取り組みです。
    TVで取り上げられることも多く、実際に町のトイレで見かける機会も増えているので、男性トイレに行ったときにはチェックしてみてくださいね。

    ナッジの活用事例②小学校の手洗い率の向上

    次にご紹介する事例は、バングラデシュの小学校にある屋外トイレ横に手洗い場を設置し、子どもたちの手洗い頻度を観察した研究です。この研究では、下記の2つの取り組みを行いました。

    ①トイレから手洗い場のルートに足型を描く
    ②手洗い場に手型を描く

    その結果、①と②の取り組みの開始以前には4%程度に過ぎなかった子どもたちのトイレ後の手洗い頻度が、最終的には74%にまで向上が見受けられました²⁾。

    習慣化されていない行動への対応として、このようにデザインを用いて取り組むことは非常に有用かもしれません。
    今の新型コロナ対策に生かすと『手洗い石鹸や消毒用アルコールのボトルに絵を描いたりシールを貼る』という取り組みをすると、子どもたちにも良いのかもしれませんね。

    ナッジの活用事例③メッセージの主語を変える

    病院内の複数の手洗い石鹸のボトルに、以下のどちらかのメッセージが書かれています。

    ①手洗いは感染からあなたを守ります。
    ②手洗いは感染から患者さんを守ります。

    メッセージをランダムに貼付をして、それぞれの石鹸の使用量に差があるかを調べた研究です。
    結果としては②のメッセージの方が石鹸の使用量は多く、①と比較すると…なんと1.45倍であったのです³⁾。

    これによって『他者を思いやることで人は行動する』という、かねてよりある行動の仮説が支持されることになりました。
    実はこの理論に基づいた広告は、交通安全、分煙、マナー広告など様々な場で使用されています。

    あなたの周りにもきっとあるので、探してみて下さい。活用事例②と同様に、今の新型コロナ対策におけるマスク着用の促しなどで使えそうな知見であるように思われます。

    ナッジ使用時の注意点

    ナッジは用い方によっては非常に効果的な理論ではあるのですが、いくつかの注意点も指摘されています。

    ①あからさま過ぎないようにすること
    ②あまりに有名になると効果が薄れる
    ③「ちょうど良い」強さの設定は難しい

    これらが代表的なものとして挙げられています。
    使用する際はこれらをチェックポイントとしておくことが大事ですね。

    また、自分がナッジを受ける立場になることでイメージしやすいです。
    ①あまりにあからさまで…
    ②何度も見たことがあって…
    ③過度にアピールされたら…
    飽き飽きしますよね。

    ナッジで行動を促そう!

    おそらくやったほうがいいと思うが、なかなか行動できない…。
    このような場面において行動を促せるのがナッジです。

    今回ご紹介したナッジの理論を上手く活用できると、現場においてもたくさんのメリットがあります。

    例えば、良いタイミングでの意思決定を支援する、予防領域では健康のための社会的な行動変容をサポートできるなどが挙げられます。

    ただ、これらは常に画一的な方法ではなく、様々なシチュエーションでフェーズごとに適切な方法を選択しなければいけません。
    そのため、効果的な支援のためには複数のナッジや事例を知ることが必要です。
    狙いがハマれば、かかるコストと比べてメリットが大きいのできっと使える知識です。

    読者のみなさまが行動経済学を学習してみるきっかけに、この記事が「ナッジ」の役割を果たせると良いなと思ってまとめてみました(笑)。

    【参考文献】
    1)Blackwell, et al. (2018) Nudges in the restroom: How hand-washing can be impacted by environmental cues.
    2)Dreibelbis, et al. (2016) Behavior change without behavior change communication: Nudging handwashing among primary school students in Bangladesh.
    3)Grand and Hofmann .(2011) It’s not all about me: Motivating hand hygiene among health care professionals by focusing on patients.
    4)リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン(遠藤真美訳)『実践 行動経済学』(日経BP、2009年)

    【関連コラム】

    『知らないと損する?現場で使える行動経済学とは?』

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