本コラムは前回の「急性期におけるConstraint-induced movement therapy運用の実際(1)」からの続きとなります。
リハビリテーションにおける療法士以外の存在
従来のゴールデンスタンダードとされるCI療法は,通常1日6時間の練習を10日間毎日行うもの¹⁾であり,急性期ではこれが1日2時間程度の実施におさえることが望ましいとされている.
しかし,たとえ2時間であっても,急性期病院では一般に担当患者数が多く,1日18~20単位前後の疾患別リハビリテーション料の取得を求められる中で,在院日数が短縮されてきている現行の医療保険制度や人的資源の問題から,療法士単独での練習時間の確保は困難なことが多いと思われる.
過去の報告ではあるが,実際にPageら²⁾も,医療スタッフや施設側にCI療法を提供するための臨床リソースがなく,負担が大きい可能性があると推察している.
練習量を確保するための方法としては,前回のコラムで紹介したような,療法士が指導した内容を独力で行う自主練習型のCI療法もあるが,より多くの対象者という視点ではやはり適応が限られる.
特に中等度から重度例では自主練習を自己管理すること自体が困難なことが多く,他の支援者の手が欠かせない. そんな中近年,本邦においても「病棟実施型」のCI療法という,療法士と他職種が連携し,CI療法のコンセプトを共有する新しい実践報告が増えてきている.
病棟実施型のCI療法
他職種を療法士的立場としてCI療法を運用する手段であり,まず西村らが2018年に回復期における病棟看護師と協業した病棟実施型CI療法の試みを報告した⁸⁾.
さらに2019年に徳田らが,急性期での病棟看護師と協業した病棟実施型CI療法の試みを報告した⁹⁾.
彼らは,急性期脳卒中8例(発症17.5±9.1日)に対して,1日40~60分の作業療法介入(課題指向型練習+transfer package)に加えて,作業療法士が設定した課題指向型練習のshaping課題を,病棟看護師が1日30分前後の練習として実施した(15.0±11.8日).
結果,上肢機能を測るFugl-Meyer Assessment(FMA),麻痺手の使用頻度を測るMotor Activity Logのamount of use(MAL-A),麻痺手の使用の質を測るquality of life(MAL-Q),さらに対象者の目標とする活動の満足度・遂行度のすべての項目において,有意な改善と効果量の大きな改善を認めた.
この介入から,急性期から麻痺手の使用を促し,学習性使用を予防することで,実生活における使用につながる可能性があると同時に,病棟生活において直接関わる機会が多い病棟看護師が練習に参加することにより,対象者の心身状態が把握でき,様々な病棟生活でのストレス対処や活動度の向上にも繋がる可能性を示唆している.
急性期という様々な医療上のリスク管理に配慮する必要がある脳卒中者に対して,病棟看護師の協力という選択と,1対1のリハビリテーション以外の時間のマネジメントは.急性期における新たなシステムとして有益であると推察され,より一層の検討が期待される.
急性期CI療法の今後の展望
中等度から重度の対象者では,急性期病院のみで完結することが難しく回復期病院との連携は欠かせない.
例えば,急性期病院から積極的に麻痺手に対するアプローチを実施していたとしても,回復期転院後に全く異なるアプローチが展開されれば,対象者には戸惑いを与え,本来回復すべきであった麻痺手の機能や生活での使用が十分に獲得できない可能性もある.
急性期から回復期へのシームレスな連携としては,堀本ら¹²⁾がCI療法連携表を作成し,急性期から回復期まで継続したCI療法が実施できるよう配慮した事例を報告している.
CI療法連携表による共通概念のもと介入した結果は,FMA,MAL-A,MAL-Qとも大きな改善を示しており,後ろ向き研究など更なる報告が期待される.
また印刷中ではあるが,麻痺手の有意な使用頻度の向上を認めた急性期での上肢麻痺患者に対する病棟実施型のCI療法¹⁰⁾や,脳卒中後上肢麻痺における急性期でのデータプールの作成¹¹⁾など,今現在も急性期における多くの課題に対して臨床家が真摯に取り組んでいる.
さらに,亜急性期以降で多くのエビデンスを出しているロボット療法1¹³⁾,適応基準の選定や適切な運用をしていくことで,今後は急性期からCI療法と併用できるアプローチのひとつであろう.
このような新しい実施形態のCI療法については,本邦ではまだまだ知見が少ないため,さらに多くの研究が必要であると同時に,臨床家こそ,目前の対象者のためにできる最大限の機能回復を.急性期から取り組んでいくことで,今後の脳卒中上肢に対するリハビリテーションの発展に寄与できると期待している.
【共著者】 小渕浩平(JA長野厚生連 長野松代総合病院 作業療法士)
【引用文献】 1) Wolf SL, et al: Effect of constraint-induced movement therapy on upper extremity function 3 to 9 months after stroke: The EXCITE randomized clinical trial. JAMA 296(17):2095-2104, 2006. 2) Page SJ, et al: Stroke patients’ and therapists’ opinions of constraint-induced movement therapy. Clin Rehabil 16: 55-60, 2002. 3) 徳田和宏,他:脳卒中急性期上肢麻痺に対する病棟実施型CI療法の試み.OTジャーナル53(9):1009-1013,2019. 4) 西村翔太,他:回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中患者に対する病棟実施型CI療法の試み―ケースシリーズスタディー―.作業療法37(1):96-103,2018. 5) 堀本拓究,:脳卒中上肢麻痺に対し急性期から回復期にかけてCI療法連携表を用いた取り組みについて.作業療法39(2),223-230,2020. 6) 山本勝仁,他:脳卒中急性期上肢麻痺患者に対する病棟実施型CI療法の効果.作業療法,印刷中 10) 徳田和宏,他:脳卒中後上肢麻痺における急性期傾向スコアデータプールの構築について.作業療法,印刷中. 11) Takahashi K, et al: Efficacy of upper extremity robotic therapy in subacute poststroke hemiplegia. An Exploratory randomized trial. Stroke 47: 1385-1388, 2016.
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