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脳卒中急性期における上肢運動麻痺の回復理論 -運動麻痺回復中枢神経再組織化のステージ理論

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竹林崇 大阪府立大学 教授

本コラムでは,急性期における回復理論や副次的な回復阻害因子について紹介をしていきたい.第1回として,まずは運動麻痺回復のステージ理論を中心に解説する.

【キーワード】
#脳卒中,#上肢麻痺,#CI療法,#急性期

目次

    運動麻痺回復のステージ理論(図1)

    脳卒中後の機能回復メカニズムを説明する知見の一つに,Swayneらが提唱した脳卒中発症後の経時的な運動麻痺回復中枢神経再組織化のステージ理論がある¹⁾.

    彼らによると,急性期の回復メカニズムは残存している皮質脊髄路を刺激し,その興奮性を高めることで,麻痺の回復を促進する時期としている(1st stage recovery).
    そしてその興奮性は急性期から急速に減衰して3カ月までには消失する.

    次は皮質間の新しいネットワークの興奮性に依拠する時期となり,3カ月をピークにこのメカニズムが再構築される(2nd stage recovery).

    その後,6カ月以後も持続して徐々に強化される機能は,リハビリテーション(以下リハ)により惹起されるシナプス伝達の効率化であるとされる(3rd stage recovery).

    急性期において運動麻痺の回復に貢献できるリハとは,いかに効果的に残存している皮質脊髄路の興奮性を刺激できるかが重要となる.

    1st stageで良好な帰結を経ずして2nd stage,さらに3rd stageへと移行することは難しく,急性期からのリハの連続性と,さらにステージ理論を意識したプログラムの施行が求められる.

    ただし,これらはあくまでも理論としての主張であり,確定的な事実であるかどうかは不明である.

    麻痺手の運動麻痺回復を阻害する副次的因子

    1)ワーラー変性

    病変部位から下降する皮質脊髄路に生じるワーラー変性は,脳卒中発症の急性期である第7病日にはすでにMRI拡散強調画像にて病変側大脳脚に高強度所見として描出され,同部位における皮質脊髄路のワーラー変性を示すADC(apparent diffusion coefficient)値の減少は,運動麻痺回復の予後不良の徴候になると示唆されている²⁾.

    リハの早期介入が急性期から生じるワーラー変性を阻止し得るかは現時点では明らかではないが,運度麻痺回復の阻害因子である皮質脊髄路のワーラー変性が急性期から生じている可能性には着目すべきである.

    2)痙縮

    脳卒中発症後の麻痺肢では,他動運動の介入遅延に起因する不動化により筋繊維の短縮と変性が惹起されることで,麻痺肢骨格筋の弾性が失われ,筋紡錘の興奮性が増大しわずかな伸張刺激でも筋紡錘が過敏に反応するため,腱反射の亢進や痙縮につながる³⁾.

    さらに麻痺肢の不動化および不使用は中枢神経の組織転換をもたらし,大脳皮質運動野の萎縮を引き起こす.

    この中枢神経系の変容と末梢における骨格筋変性が相まって痙縮さらに拘縮へと進み,運動麻痺回復の阻害因子となる.

    Graciesは腱反射亢進を初期のwarning signと捉えて,急性期の不動化の時期から介入して痙縮を予防することが可能と指摘している⁴⁾.

    3)末梢運動器の筋萎縮・低下

    脳卒中者では⿇痺側における握⼒やピンチ⼒が低下する事が明らかとなっており,75%以上の低下を認めると報告されている⁵⁾.

    また筋萎縮は筋⼒発揮の低下を引き起こす要因である可能性があり,慢性期脳卒中者を対象としたKristenらの調査では,健常者の手指や自身の非麻痺側の手指と比較して,麻痺側の手指において有意に筋横断面と筋厚の低下を認め筋委縮があることを明らかにしている⁶⁾.

    急性期における麻痺肢末梢の筋委縮・低下の度合いはまだ不明確であるが,末梢運動器の筋萎縮・低下は麻痺手の不使用を招きプログラム選択の幅を狭めることからも阻害因子となるため,急性期からの予防は重要である.

    脳卒中後の麻痺手に対する急性期のリハビリテーションプログラム

    脳卒中後の運動麻痺に対するリハとは,前述のステージ理論に依拠する可能性があること,さらに麻痺以外に生じる副次的な回復の阻害因子の発生を可及的に抑制していくことを意識し,発症直後の急性期からプログラムを吟味,選択して効果的・継続的に進められる必要性がある.

    Hatemら⁷⁾は,急性期におけるEvidence based practiceを念頭においたアプローチ方法選択時の意思決定のフローとして,低強度のConstraint-induced movement therapy(1日1-3時間),筋肉強化練習,ミラーセラピーを挙げている.

    また,それらを軸として併用療法には,SSRI/NARI抗うつ薬,ボツリヌス毒素,受動的な神経筋電気刺激療法,repeated Transcranial Magnetic Stimulation, transcranial Direct Current Stimulationを挙げている.

    これらのアプローチの対象が,麻痺そのものなのか,それとも上にあげた副次的な回復の阻害因子に対するものか,吟味した上で眼前の対象者に最も適した組み合わせを考えたい.

    【解説動画】
    本コラムの解説動画です。コラムと併せて視聴いただくことで、理解を深める一助にされてください。

    【共著】
    小渕浩平(JA長野厚生連 長野松代総合病院 作業療法士)

    【文献】
    1) Swayne OB, et al: Stages of Motor Output Reorganization after Hemispheric Stroke Suggested by Longitudinal Studies of Cortical Physiology. Cerebral Cortex 18: 1909-1922,2008.
    2) De Vetten G, et al; for the MONITOR and VISION study groups. Acute Corticospinal Tract Wallerian Degeneration Is Associated With Stroke Outcome. Stroke 41: 751-756,2010.
    3) Gracies JM. Pathophysiology of spastic paresis. I: Paresis and soft tissue change. Muscle Nerve 31: 535-551, 2005.
    4) Gracies JM. Pathophysiology of spastic paresis. II: Emergence of muscle overactivity. Muscle Nerve 31: 552- 571, 2005.
    5) Cruz EG, et al: Kinetic and kinematic workspaces of the index finger following stroke. Brain 128: 1112–1121, 2005.
    6) Kristen M, et al: Investigation of hand muscle atrophy in stroke survivors. Clin Biomech (Bristol Avon) 27(3): 268-272, 2012.
    7) Hatem SM, et al: Rehabilitation of motor function after stroke: a multiple systematic review focused on technique to stimulate upper extremity recovery. Front Hum Neurosci 13: 442, 2016.

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