EBM(evidenced based medicine)とは ~歴史と定義からリハ領域での活用を考える~

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竹林崇 大阪府立大学 教授

本コラムの目的としては,EBM(Evidenced Based Medicine:以下EBM)に関する歴史の生い立ちや知識を整理して,対象者の方に対して,より良いリハビリテーションを提供できるきっかけづくりをできればと考えている.まず第1回目として,EBMに関する歴史や定義,リハビリテーション分野におけるEBMへの理解等について解説していく.

Evidence Based Medicine の歴史

近年Evidence Based Medicine (EBM)が推奨される歴史的背景として先人の慣行の治療法などが,実際に成果の向上につながる根拠がないまま実施されていたことが要因の一つとしてある.

そういった歴史的背景の為に生じた例としてGilbertら¹⁾が示しているような乳児の例がある. アメリカの育児専門家であり,作者であるベンジャミン・スポック博士が「Baby and Child Care」という書籍の中で乳児を腹臥位で寝させることが安全であることを勧めた. スポック博士は育児の「専門家」と考えられており,推論は非常に論理的であるように見え,疑いもなく,何百万人もの医療従事者と家族がスポック博士のアドバイスに従い,乳児を腹臥位で寝かせることが標準的な習慣になった.

しかし,腹臥位での睡眠が背臥位での睡眠よりも乳児にとって安全であるという決定的な証拠は存在せず,結果として何千人もの乳児が乳幼児突然死症候群で死亡した.

またEBMの重要性を語る上で重要な研究としてはEchtら²⁾が行った心臓不整脈抑制試験(CAST)がある。 この試験が実施された背景として心筋梗塞後の心室期外収縮や異所性心室興奮の抑制が突然死の発生率を低下させるという仮説をもとに実施された. 試験の概要としては心筋梗塞後の患者を対象に抗不整脈薬群とプラセボ群(755人対743人)に分けて予後を追跡した. 結果として,抗不整脈薬を投与した群の方が,高い死亡率を示し,倫理的な問題もあり試験自体が途中で中止となった.

上記のような背景もあり,有効なエビデンスを使用して臨床決定の行う重要性が高まり,1990年代初頭にGuyatt³⁾が「証拠に基づく医療:EBM」という用語を用い世の中へ広めた.

EBMの定義

GayyttはEBMの定義を臨床研究によるエビデンス,医療者の専門性・熟練性と患者の価値観の3要素を統合することで行われる医療とした.

またStrausら⁴⁾はこの3要素に加えて「状況」を組み込み,4要素として示した.

つまり,EBMとは臨床研究によるエビデンスのみならず,患者の価値観や置かれている状況(文化や経済状況,使用できる機器がある環境),医療者の技術や経験を統合することを表している.

実際の臨床現場ではエビデンスのみを重視するといった考えを持つ人を見かけるが,EBMを実践するにあたっては誤解であることを認識する必要がある. また,専門家の間では,エビデンスだけを重視し,その他の条件を無視し,医療者のみの意思決定の元,治療を進める行為をエビデンスによる圧政という言葉で揶揄している.

リハビリテーション分野におけるEBM

リハビリテーション分野において,EBMはEvidence Based Practice(EBP)という言葉で示されることが多い. 理学療法ではEBPT(evidenced based physical therapy),作業療法や言語聴覚療法ではEBOT(evidenced based occupational therapy),EBST(evidenced based speech therapy)という造語も使用されている.

しかし,実際の臨床・教育現場においてはEBMやEBP,EBPT,EBOT,EBSTの意義が十分に伝えられているかどうかについては疑問が残る.

藤本ら⁵⁾はその理由として,臨床・教育現場に関わらず,教育指導者がEBM/EBPの教育を十分に受けた経験がないことが挙げられる.

実際,療法士の教育課程で,EBM/EBPを教育する公衆衛生学は選択科目であることが多いのもその要因の一つかもしれない.

またもう一つの理由として,理学療法,作業療法,言語聴覚療法の一部において,経験的な手技のみが行われることもあれば,経験的な手技が「経験的」という理由だけで否定・批判されるという背景がある.

まさに,この二項対立の図式は,EBM/EBPへの理解への不十分さを示している点として挙げている.

さらに,上記の点に加えて,EBM/EBPを実践するにあたってエビデンスを「つくる」「つたえる」「つかう」という要素が必要になってくるが,リハビリテーション業界ではいずれの要素も不十分な状況が続いている.

エビデンスを「つくる」側の研究者,は公衆衛生のルールを深く理解した上で,正確な研究デザインを使用した「研究力」を付けることが求められる. 一方,エビデンスを「つかう」側の臨床家は,文献検索能力や,PICO/PECO,FIRMMNESS check,バイアスチェックを始めとした批判的吟味に伴う情報リテラシーの強化が必要となる.

まとめ 今回は,EBM/EBPの歴史,定義,およびリハビリテーション分野における今について,簡単に解説した.これらのコンセプトはリハビリテーション分野において疾患や手法にとらわれず,包括的に対象者を中心とした尊厳を重視したオーダーメイドの介入であると言える.今後,これらのコンセプトが一般的に普及することが望まれる.

【解説動画】 本コラムの解説動画です。コラムと併せて視聴いただくことで、理解を深める一助にされてください。

【共著】 横山広樹(関西医科大学くずは病院リハビリテーションセンター 理学療法士)

【引用文献】 1.Ruth Gilbert,et al: Infant sleeping position and the sudden infant death syndrome: systematic review of observational studies and historical review of recommendations from 1940 to 2002, International Journal of Epidemiology, Volume 34, Issue 4:874–887, August 2005. 2.Echt DS, et al: Mortality and morbidity in patients receiving encainide, flecainide, or placebo; the cardiac arrhythmia suppression trial. N Engl J Med : 781-788,1991. 3.Guyatt GH. :Evidence-based medicine. ACP journal Club 114: A16, 1991. 4.Straus SE, et al: “Evidence-based medicine: How to practice and teach EBM” 4th ed. Churchill living-stone, 2011.

  1. 藤本修平,et al:PT・OT・STのための診療ガイドライン活用法,医歯薬出版株式会社:1-2,2017.

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