作業療法における目標設定の概要

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竹林崇 大阪府立大学 教授

作業療法における目標設定に関して、国内外における最新の動向を紹介する。
特にエビデンスの観点からみた目標設定の現状と、問題点について解説する。

作業療法における目標設定の意義

近年、本邦において作業療法における目標設定介入に関する研究報告が増加している。 2018年に改定された作業療法の定義においても、「作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す」と定義されており¹⁾、対象者それぞれの個別性が重要視される作業療法において、目標設定介入は必然である。

しかし、目標設定を行う上で問題点も多々指摘されており、実施する際には十分な配慮が必要だと考えられている。以下に目標設定における介入の現状と、具体的問題点をエビデンスレベルの観点から述べていく。

目標設定のエビデンスは「低い」?

目標設定介入のエビデンスとして、Levackら²⁾のSystematic reviewを例に挙げる。

Levackら²⁾の報告では、目標設定ありの群と目標設定なしの群で活動・QOLへの効果を比較したところ、エビデンスGRADEはLow〜Very Low(結果に対して不確かな要素が多い)と判断されており、目標設定介入はエビデンスレベルとしては「低い」可能性を示している。

Smithら³⁾も高齢者を対象に目標設定の有無に関するMeta-analysesを行なっているが、身体機能、QOLに有意な差は検出されない結果であった。

以上の結果から、目標設定介入は一見するとエビデンスが「低い」介入であると考えられかねない。 しかし、目標設定の研究はバイアスの統制という点で限界があると考えられており、一概にエビデンスが「低い」と結論づけられない背景がある。

目標設定の研究の限界①『対象者・介入者の盲検化』

多くの介入研究はバイアスの統制がなされており、その質に応じて研究のエビデンスレベルの高さが判断される。 しかし、目標設定介入に関してはバイアスの統制の中でも『対象者・介入者の盲検化』や『対象群・介入群の設定』に関して限界が示されている²⁾。

まず、『対象者・介入者の盲検化』の限界について述べる。 無作為化比較試験などの介入研究に対するバイアス統制として『対象者・介入者の盲検化』が必要と考えられ、CONSORT声明⁴⁾にて推奨されている。

介入を行う研究者と、それを受ける対象者がどのような介入が行われているかを不明にする手続きであり、ホーソン効果(介入者の期待に答えようと、対象者が「良くなった」と思い込む現象)等のプラセボ効果を防ぐ目的がある。

薬剤においては治療薬と見た目が似通った偽薬を用いることで、研究対象となる薬剤の真の効果を測定することが可能である。

しかし、リハビリテーション領域においてはこの偽薬に類似した環境を設定することが困難であり、介入者と対象者は常に介入内容を理解した上でリハビリテーションを行なっている現状がある。

さらに目標設定介入においては、目標の具体的内容を確認することが重要視されており、完全な盲検化を行うことは現実問題として不可能である。 対策として、評価者のみの盲検化を行うPROBE法が推奨されているが、これも専門機関を利用するには高額な費用を要するなどの問題点がある。

よって、臨床現場においては、施設内外の協力者を評価者として盲検化する関わりが現実的であると思われる。

目標設定の研究の限界②『対象群・介入群の設定』

次に『対象群・介入群の設定』について述べる。 この問題は大きく分けて2点あり、「対象群の設定が困難な点」と、「介入の統制が困難な点」が挙げられる。

「対象群の設定が困難な点」に関しては、「目標設定をしない群」を設定することがリハビリテーションの性質上難しいことが要因である。 介入を行う上で目標の設定は避けられず、これは臨床家であれば想像に固くない状況であると思われる。

また対象群に対して、比較のために有効とされる介入を行わないことへの倫理的配慮も必要であり、リハビリテーション領域では群内前後比較研究やクロスオーバー試験で対応されるケースもみられる。

「介入の統制が困難な点」に関しては、目標設定そのものの性質が影響している。 作業療法における目標設定は個別性が重要視されており、アウトカムも必要に応じて変更される。 加えて、目標が幅広いということは介入方法も個別性・自由度が高く、これらの統制が困難な点が研究結果に統一した見解が得られにくい要因であると考えられる。

さらに、目標を設定した際に、不適切な介入が行われれば効果は得られにくく、真に目標設定だけの効果をみることは難しい。

以上のことから、目標設定はその特性上バイアスの統制を行いづらい背景がある。

これらの3. 4. に示した限界から、Levackら²⁾Systematic reviewのrisk of biasを鑑みると、目標設定の特徴から実行バイアス(マスキング、ブラインド)に不備のある研究がほとんどで、バイアスリスクが高く、現状のエビデンスに与える影響は大きいため、現在の低さが事実かどうかは今後も精査が必要である。

目標設定の実際「出来ている気になりやすい?」

では、臨床現場での目標設定の実際はどうなのか。

本邦ではSaitoら⁵⁾が興味深い報告を行っている。

回復期リハビリテーション病棟に勤める作業療法士を対象とした研究にて、目標設定の内容の一致度を調査している。 これによると、研究対象である療法士の大半は「対象者と共に目標設定が行うことができた」と回答している。

しかし、このとき示された目標設定の内容の一致率を療法士と対象者間で確認したところ、79%に目標内容の不一致が見られていたというネガティブな報告が得られた。

またMaitraら⁶⁾の報告においては「私は目標設定できている」と答えた療法士に対して、23%の対象者が「目標が全く分からない」と答えている。

以上のことから、目標設定介入は「療法士と対象者間の目標の不一致」と「作業療法士が出来ている気になりやすい」ことが臨床場面の問題として提起されている。

では、現状に対してどのような対応を行えばよいのか。次回は,正確な目標設定を行うために使用するツールと対策について述べていく。

【解説動画】 本コラムの解説動画です。コラムと併せて視聴いただくことで、理解を深める一助にされてください。

【共著】 高瀬 駿(川崎協同病院 作業療法士)

【引用文献】 1)日本作業療法士協会「作業療法の定義」| 一般社団法人 日本作業療法士協会 http://www.jaot.or.jp/about/definition.html 2) Levack WM, et al: Goal setting and strategies to enhance goal pursuit for adults with acquired disability participating in rehabilitation. Cohocrane Database Syst Rev(7), 2015 3) Smit EB, et al:Goal-setting in geriatric rehabilitation: a systematic review and meta-analysis. Clinical Rehablitation. 2nd ed. 2018 4) Schulz KF, et al: CONSORT 2010 statement: updated guidelines for reporting parallel group randomised trials. BMJ, 2010 5)Saito Y, et al:Determining whether occupational therapy goals match between pairs of occupational therapists and their clients: a cross-sectional study.Disabil Rehabil.2019 6) Maitra, K. K,et al:Perception of client-centered practice in occupational therapists and their clients. American Journal of Occupational Therapy 60, 298-310.2006

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