“行動経済学”を皆さんはご存じでしょうか?「なんだか聞いたことはあるけど、あまりうまく説明できない…」そんな方が多いのではないでしょうか?実は、行動経済学についての理解が深まると患者さんの治療選択や退院支援、自分のキャリアの選び方などにメリットがあります。知らないことで“損”をしている場合も...?
今回は、読者の皆さんが“損”をしないために、今回は行動経済学について説明していきます。

経済学とは

行動経済学とは経済学から派生した学問であるので、まずは経済学から説明します。 日本語訳の経済学は中国の古典にある「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」の文字から作られたものです。

その意味は文字の通りで、『人々の幸福を最大化するために世の中の限られた資源(ヒトやモノやお金)をどう分配・運用するか』をテーマとしています。

代表的なものにアダム・スミスの『国富論』というものがあり、聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。

経済学では『人間は経済的合理性に基づいて行動し、自己利益を追求する性質を持つ』という前提のもと成り立っています(『合理的経済人』と呼ばれます)。

しかし、現実にはそれだけでは上手く説明できない場面も多いですよね。 経済学は俯瞰して高い視点から物事を考えることに優れていますが、一人ひとりの視点を考慮するのは苦手だったのです。

そのため、人の心理面について考えることで経済学の弱点(?)を補完した学問が生まれました。それが行動経済学です。

人の意思決定は不合理である

行動経済学では『人の意思決定は必ずしも合理的ではない』を前提として、心理学の知見を多く含んだ実験や報告をしています。

これらは学問の世界ではなんと15年間で3本ものノーベル賞を受賞(!)し、衝撃を与えました。

学問の世界というと難しそうですが、私たちの生活場面における悩みの説明や、日々の暮らしの様々な場面での活用があてはまります。

そして、これらのさまざまな理論や知見を知ることで思考の罠に陥らず、より良いであろう選択をする可能性を上げることが出来ます。

ここからは代表的な事例として『損失回避理論』を紹介します。

損失回避理論とは

ヒトは得ることよりも、“損”をすることに対して嫌悪感を覚えるという理論です。

簡単な心理テストがあるので一緒に考えてみましょう!

質問1:あなたはどちらを選びますか? Ⓐ1万円が無条件で貰える。 Ⓑコインを投げ、表が出たら2万円が貰えるが、裏が出たら何も貰えない。

どちらを選びましたか?

恐らく、Ⓐを選んだ方が多いのではないでしょうか? これはヒトがメリットを目の前にした場合、確実に得をする選択肢を選ぶという心理が働くといわれるからです。

金額の大きさで言えば明らかにⒷの方がお得なのですが、50%の確立で貰えないというリスクがあります。 Ⓐならノーリスクで確実に1万円貰えるので、こちらの選択肢に得を感じる方が多いというわけです。

では、次にもう一つ似たような質問をします。

質問2:あなたは2万円の借金を抱えているとします。その際に、また以下の二つの選択肢からどちらかを選んでください。 Ⓐ無条件で借金が1万円減額され、借金の額が1万円となる。 Ⓑコインを投げ、表が出たら借金は全額免除されるが、裏が出たら借金の総額は変わらない。

今度はどちらを選びましたか?

質問1を例に挙げてみれば、Ⓐを選ぶ方が多いのではと考えられます。 しかし、こちらの質問ではⒷを選ぶ方の方が実は多いと研究成果が出ています。

これは借金という元からある損失をなんとか回収するために、リスクはあってもより大きなメリットを取りに行くという心理が働くためです。

ギャンブルで失ってしまったお金を取り戻そうと、さらにお金をつぎ込み、結果としてさらにお金を失うパターンがありますが、まさにこの状況があてはまります。

どちらの質問も似たようなものですし、なおかつこれらはどの選択肢も期待値は違わないのですが、状況の違いで「損失から逃れたい」という気持ちが働くとヒトの意思決定は変わってしまうのです。

損失回避理論の実場面での使い方

今回説明した行動経済学の“損”を避けたいという心理面の特徴について、人々の健康のために効果的に使用されている事例を紹介します。

このチラシは実際に八王子市で使用されたチラシです。 ガン検診において自宅に送ったキットを使用しない方が多いという課題があったため、損失回避理論を応用してパターンAの“得”をアピールしたチラシと、パターンBの“損”をアピールしたチラシの2種類を作成してそれぞれ住民に送るという取り組みがなされました。

結果はパターンBの“損”をアピールしたチラシの方が検査率は高かったそうです。 このように伝え方を心理面の特徴をふまえて工夫することによって成果を大きくすることが可能になります。

これを踏まえると職場での予防接種の促しや、患者さんへの介入のオリエンテーションでも今回ご紹介した理論は使わなければ“損”かもしれません。

【引用】 社会の課題解決のために行動科学を活用した取組事例(2)健康・医療分野(がん検診受診率改善):東京都八王子市/(株)キャンサースキャンの取組

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