【ケーススタディ】腹斜筋の機能障害により坐骨神経痛を引き起こしたケースに対する筋膜アプローチ

痛みの機能的要因をどのように判断していくのか?

筋膜の滑走機能障害はOveruseや外傷、不動・廃用、手術瘢痕によって形成されることを前回のコラムでご紹介しました。

このような長期間に及ぶ慢性疼痛の要因は、実際に痛みを感じている部位ではなく、その筋膜滑走機能障害の部位に存在することを臨床上多く経験します。

アプローチを行う上で、もちろん痛みを放つ局所も大切ですが、本質的なアプローチとして考えた場合には全身状態を考慮することは不可欠だと感じています。

それでは、「どのように局所以外を考慮すればよいのでしょうか?」「全体をみるとはどういうことなのでしょうか?」
これらの疑問に対して、今回は私が経験した実際の症例を通して、筋膜滑走機能障害にフォーカスしてご紹介いたします。

症例紹介

一般情報:40代の男性、体型は中肉中背
職業:バス運転手
現病歴:約2年前から左下肢外側(大腿〜下腿にかけて)のつっぱり様の痛みと、左下肢に力が入りにくい症状が出現していた。つっぱり様の痛み(NRS8)は常時存在しており、歩行時や階段昇段時に力が抜ける症状が出現した。
症状出現当初から不定期的に整形外科にかかるも、画像所見上異常なしと診断を受け、湿布と内服処方(薬剤名確認不可)にて経過観察となるも症状軽快はみられなかった。
その後、近隣の整骨院で治療するも、症状の軽快はなく経過されていた。

機能的評価の内容

・筋力評価:著名な左右差を有する部位や、筋出力低下部位は認めらない。
・主要神経テスト:問題なし。
・筋膜生体力学モデル(Carla Stecco,2012)に基づいた筋膜評価
身体の回旋系に関与する左腹斜筋群、左短趾伸筋、両側梨状筋の筋膜滑走機能障害が確認された(滑走機能障害の強い順)


(Luigi Stecco:筋膜マニピュレーション 理論編 より作図)

評価結果からのアプローチ法の仮説立案とアプローチ実施まで

まず、複数の医療機関において異常なしと診断されていることから、重篤な状況に対する医師によるトリアージはかけられたと判断しました。そこで筋膜機能障害を視点とした評価と徒手的アプローチを試みました。

筋膜アプローチの介入内容としては、これらの部位の深筋膜層に対して、徒手的に摩擦刺激を加えることで機能逸脱からの正常化を図っていきました。

初回の介入終了後には先述した痛みと力の入りにくさは感じなくなったため(NRS0)、腹斜筋群のセルフストレッチを依頼しました。

初回介入から3週後に経過確認し、さらに、ご本人の希望で2ヶ月に1回、再発予防目的でフィジカルチェックを行いましたが、1年経過後も再発なく変わりなく過ごされていました。

この結果から何を考えるのか?

坐骨神経痛様の症状は梨状筋が関与している可能性は高いのは言うまでもないが、その梨状筋の機能障害を引き起こしたのは、特に滑走機能障害が顕著だった左腹斜筋群の可能性が高いと考えられます。

しかし、同部位を治療して、痛みが消失したから「腹斜筋群が問題だった」で片付けてしまっては、セラピストの独りよがりになってしまいます。

「どこが痛いのか?何が(軟部組織?関節?)痛いのか?」ということよりも大切なのは、「何が原因でクライアントが痛みを患うことになったのか?」という点を職業や家庭環境、社会背景から紐解くことだと思います。

腹斜筋群の機能障害を引き起こした要因とは?

そこで、坐骨神経痛の要因となった腹斜筋の機能障害に関して環境的要因を探るために、カウンセリングを行っていくと、車のハンドルサイズの変化が関与していることが推察されました。

痛みが強くなった時期は、修学旅行シーズンで、普段自身が運転するバス以外のバスも運転する機会が増えていたとのことでした。
このことから、普段より大きなハンドルを回すことで腹斜筋群にOveruseを起こしたことが考えられ、長距離運転前後に腹斜筋群をストレッチするように依頼したことも,再発予防に繋がったと思っています。

私の考える本質的なアプローチとは

本来のセラピストの介入の目的は、痛みを変化させることよりも、痛みに関与する事象に対する本人の行動変容を促すことにあると考えます。

私の専門としている筋膜機能に基く評価のメリットとしては、痛みの要因となりうる職業や日常生活動作を考慮することができるという点にあります。
さらには、固有受容器が多く分布する深筋膜に対する徒手介入は、痛みに対して即時効果が得られやすいというのも大きな利点です。
クライアントを悩ませている疼痛に対する不安をすぐに軽減できるというのは信頼感の獲得に大きく影響します
本症例においても即時効果があったために、主体的にセルフケアに取り組んでくれたのだと思っています。

まとめ

今回は、私の臨床で遭遇した坐骨神経痛を主訴としたクライアントに対するアプローチの考え方をご紹介しました。
今回の事例を通して私が皆さんにもっともお伝えしたいことは、「痛みを解消させることだけではなく、痛みが生じた背景まで考慮し、痛みへの認識とセルフコントロールの重要性を共有することが効果的な行動変容につながる」ということです。

これが現時点で私が目指している理学療法士としてのセラピーのあり方です。ハンズオンでも行動変容は起こせるという考えでクライアントに日々接しています。

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