筋膜はなぜ注目されたのか?

1.はじめに

皆さん初めまして、私は沖縄で理学療法士として起業し、筋膜サロン Physio salon G'hands(合同会社 Medimarl 代表)を運営している比嘉俊文です。今回より私の専門としている「筋膜」についての情報を皆様にわかりやすくお伝えしてまいります。

第1回目となる今回の内容は、筋膜が注目された経緯に関して皆様にご紹介させていただきます。

理学療法士やトレーナー、インストラクターなど身体や痛み治療に携わるセラピストの中で「筋膜」を聞いたことがない方はほとんどいないのではないでしょうか?

みなさんがご存知のように、「筋膜」という言葉はメディアを巻き込み、あっという間に一般市民に認知されるまでになった人体構造物の1つです。

最近では、自費リハビリ、治療院などで独立起業する理学療法士が増えてきました。その中には筋膜をメニューに組み込んでいる店舗も少なくないと思います。さらに、独立することも目的として筋膜を学ぶセラピストも徐々に増加している印象を私は持っています。

私が抱いている危機感として、筋膜はあくまでも、セラピストの治療ツールの1つとして位置づけることができますが、技術の習得が目的となったり、クライアントのことを考えずに用いられているケースがあります。このように誤った筋膜に関する知識と技術、情報が広まっている状況の改善も必要であると感じています。

では、筋膜がここまで注目されるようにった経緯について触れていきたいと思います。

2.痛みに対する診断ツールの変遷

私たち理学療法士が医療施設で理学療法を提供する際、必ず必要になるのが診断名です。主治医が下した診断名のもと、理学療法を提供する環境に当たり前のように置かれています。

そのために、現状では診断名ベースの理学療法にならざるを得ない仕組みとなっており、運動器疾患の診断名のそのほとんどは、画像診断(レントゲン・MRIなど)を基に決定されています。

しかし、下記のように興味深い報告もあります。

・地域健康診断で住民の20.7%に腱板断裂を認め、そのうち63.4%は無症候性であった.(Nakajima,2008)

・健常住民コホート調査で60歳以上の36%に無症候性ヘルニアを認めた.(NCBI,1990)

・無症候性変形性膝関節症のMRI所見として軟骨損傷43%、骨髄病変15%、骨棘形成13%、半月板損傷10%、滑膜炎4%が認められた.(Ikeuchi,2017)

これらの報告から考えられることとして、

画像診断 ≠ 痛みの原因

というように必ずしも、組織損傷が痛みと一致しているかというと、決してそうではありません。

現在では、運動器分野の診療ツールとして、超音波エコーが飛躍的に普及しており、体の痛みを治療する必須アイテムとまで言われてきています。

その中で、筋膜性疼痛の認識は高まっており、プライマリ・ケアの現場でも、ペインセンターでも疼痛の原因の1位の原因は筋膜性疼痛症候群であるという報告もあります。(JMPS,2013)

これらのことからも、私が大切だと思うのは、「どのように解釈して臨床に臨むべきか」というところです。

だから筋膜治療が必要だという短絡的な考えではなく、痛みの治療に筋膜という概念を、あくまでも1つのツールとして、加えていただくシリーズになれば嬉しく思います。

3.筋膜性疼痛症候群という概念

運動器疾患の治療に従事するセラピストの中には、腰痛を訴える患者の腰部の硬くなった組織を治療すると痛みが緩和したり、逆に股関節痛の患者に対して、足首の硬い組織を治療すると痛みをよくなったり、というように硬い部位を治療して臨床的な良い結果が得られた経験をした方も少なくないと思います。

このように、科学の基本は現場の現象の解析であって、既存の知識体系で現場の現象を整理することではないと考えています。教科書的な知識や、エビデンスのある運動療法のみで現場の“痛み“という現象に対応するには限界があります。

臨床において起こっている現象が事実です。もしもその痛みを既存の知識で解決できないのであれば、外部の情報を加え既存の知識と合わせるアップデート作業で解決することが必要になってきます。

これまではX線、・CT・MRIなどの画像診断で構造異常が見られない場合は、多くの医療機関で痛みの原因を心因性とされてきました。(Kobayashi,2016)

これは医師だけでなく、セラピストにおいても同様であり、なかなか痛みが解消しない原因を患者を心のせいにしてきた歴史は少なからずあると思います。

3.筋膜の効果
痛みに対して自身が持っている知識や技術で対応できないというケースに出会った際の新たな手段として、筋膜は非常に効果的であると考えています。

まず、「筋硬結」に関する最新の情報としては、筋の圧痛が存在するポイントをトリガーポイントと称されることがありますが、筋硬結と同義であるということはもう以前の解釈です。近年では、圧痛がある部位は受容器が過敏化していると考えられており、筋膜のみならず腱や靭帯、骨膜などにも存在すると言われており、筋硬結は筋膜上にできた1つの形態という認識になります。

Anatomy Trainsを提唱したThomas Myers氏は筋膜を含む軟部組織の解剖学的連続性を重要視しています。

さらに興味深いのは、人が痛みを感じる解剖学的部位のほとんどは筋膜であるとも言われています。

前述した腰痛の近傍の硬い組織の治療、また、股関節痛の足部の硬い組織の治療で得られた効果は、この筋膜性疼痛症候群の概念で解釈すると腑に落ちる面がいくつもあります。

ただ単に、治療結果に一喜一憂するのではなく、なぜ痛みが緩和したのかという現象を熟考していくためにも、筋膜に対する知を深めることを強く勧めたいと思っています。

次回は、筋膜の解剖生理学から、臨床で起こる効果について解釈を深めていきたいと思います。

← トピックス一覧に戻る