田中創の痛みコラム 3-(2)痛みの情報を識別する脳の役割 「情動的側面 (痛みによる感情の変化)」

前回までにお伝えしてきたように、痛みの刺激が加わると、身体に関する痛みの情報だけでなく、その痛みをどのように感じるか?という情動的側面に関わる脳領域が同時に賦活されます。

痛みを感じた時に「嫌な感じがする」「怖い」「不安になる」...など、このような不快な感情には、それぞれ関わっている脳領域があります。主に、大脳辺縁系である扁桃体、島、前帯状回などです。扁桃体は痛みの不安や危険性、恐怖学習に関与します。島は痛みの予期や不快感、前帯状回は痛みの経験や社会的疎外感といった部分にまで関わるとされています。

その中でも、最近では「運動恐怖」の問題が多く取り上げられています。私がよく引用させていただくものとして、運動恐怖にターゲットを当てた研究について紹介します。行っている課題は非常にシンプルで、腰痛を持つ対象者に高い所、低い所にあるものに対してリーチ動作をしてもらう、というものです。その際の動きを矢状面から二次元で解析しているのですが、この研究の面白いところは、運動恐怖の強い人とそうでない人に分け、動きの違いを明らかにしている点です(図1)。

図1(左:恐怖心が少ない人 右:恐怖心の強い人)
(Thomas JS., et al: Pain-related fear is associated with avoidance of spinal motion during recovery from low back pain. Spine (Phila Pa 1976) 32(16): E460-466, 2007.から引用)

運動恐怖が強い人では、より低いターゲットに対してリーチ動作を行う際に、痛みのある腰部を動かそうとせずに、股関節や膝関節の屈曲を用いて、その動作を成立させようとしていました

実臨床場面でこのような方を目の前にした時に、少なからず、過去の自分は「腰椎が動いてないな」「脊柱起立筋の緊張が高くなってそうだな」「股関節・膝関節に二次的な負荷が掛かってそうだな」...といった運動学的な解釈を中心に行い、その部分に徒手的な介入を行なっていました。

しかし、そのような動きになっている本質的な問題が「恐怖心」であれば、腰椎を動かされたり、脊柱起立筋の緊張を緩められることは、更なる恐怖を招き兼ねません。私たちが観察している動きの背景には、様々な問題が内在しています。過去の反省も踏まえ、外側から見えるものだけで判断せずに、対象者の真の訴えに迫れるセラピーを実践できるようにしていきたいと感じています。

このような運動恐怖の問題に対して、以前、私が在籍していた畿央大学大学院の大住先生たちのグループが興味深い研究をされています(図2)。


図2
(Osumi M, et al. Kinesiophobia modulates lumbar movements in people with chronic low back pain: a kinematic analysis of lumbar bending and returning movement. European Spine Journal, 2019.から引用)

痛みの情動的側面に関しては、これまでそれらの問題を評価するツールとして質問紙票が多く用いられてきました。しかし、大住先生たちの研究の面白いところは、質問紙で評価した結果が、運動にどのように反映されているか?というのを明らかにした点です。

結果として「運動恐怖が強い人では、運動の切り返しに問題(遅延)がある」という結論でした(これは私の解釈が入っていますので、興味がある方は原著を読まれてみてください)。

このように、アウトカムを動き(この研究では前屈からの復位)に置くことで、私たちの治療のターゲットもより明確になってきます。先に紹介した研究から発展して、今後このような研究成果が徐々に出てくることが予想されます(むしろ、多角的な視点からみた研究や臨床へのアウトカムが今後は必要だと個人的には感じています)。

しかし、一方で、患者の恐怖心を質問紙票だけで計るのは困難で、患者がどのような動きに対して恐怖を感じているか?(患者固有の恐怖を伴う課題)を明確にすることが、臨床・研究のどちらにおいても重要であることが、最近の研究成果として明らかにされています。興味がある方は以下の論文を読まれてみてください。

Matheve T, et al. Lumbar range of motion in chronic low back pain is predicted by task‐specific, but not by general measures of pain‐related fear. European Journal of Pain. 2019. 1-14.

さて、次回は痛みの認知的側面について取り上げていきたいと思います。

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