田中創の痛みコラム 3-(1)痛みの情報を識別する脳の役割

(1) 感覚的側面 (身体的な痛みの情報)

前回のコラムでご紹介したように、痛み関連脳領域の中で身体の痛み情報(痛みの部位、程度、持続性など)の識別を担っているのは主に体性感覚野という部位です。体性感覚野は痛みの識別以外にも、感覚情報(表在感覚、深部感覚など)の識別にも関わっています。ホムンクルスの図で知られるように、体性感覚野はそれぞれの身体の部位の情報を識別しています(図1)。

図1:ホムンクルス(Penfield)

ホムンクルス(脳の中の小人)はカナダの脳神経外科医であるPenfieldが発見しました。Penfieldは大脳に電気刺激を与え、大脳のどの部分が、身体のどの部分と関係しているか?を、その対応部位だけではなく、対応領域の広さまで表しました。

このように、体性感覚野は「痛み」と「感覚」の両方の識別を担っています。CRPS(複合性局所疼痛症候群:外傷後や術後に発生する難治性疼痛)を対象とした研究において、「(痛みがある部位を)触られていることは分かるが、どこを触られているかまでは分からない(S. Fo ̈rderreuther et al, 2004)」という報告が出て以来、感覚と痛みの関連性を調査する研究が盛んに行われるようになりました(それまでも同様の研究はありましたが、ニューロイメージング法等を用いて脳の機能局在まで明確にするような研究内容はこれ以降に大きく発展していきました)。

それにより、慢性疼痛患者では脳内の身体知覚に関わる領域が縮小していること、脳内の罹患部位の表象が縮小していること(Vartiainen N et al. 2009, Lotze and Moseley. 2007))などが報告されるようになりました。また、痛みによる影響だけではなく「固定・不動」によっても、その部位の一次体性感覚野の体部位再現が狭小化されていることなども報告されるようになり(Langer N et al. 2012)、急性期から積極的に介入する必要性が唱えられるようになりました。

話題は少し変わりますが、手足を切断した後に、切断して失くなった部分に感じる痛みのことを「幻肢痛(Phantom limb pain)」といいます。図2のように前腕を切断されると、手関節・手指が失くなります。そうすると、脳内の体部位再現領域である手関節・手指の部分が失くなり(図2ではHands, Fingersの領域)、その隣にある顔(Face)の領域が手関節と手指の部分を埋めようとその領域に近づいていきます。このような皮質の再編成が起こると、前腕の回内・回外を行なった時に顔の部分を触れられているような感覚や違和感を生じるという奇妙な現象が起きることが報告されています。


図2:切断後の幻肢感覚・幻肢痛のメカニズム
(Collins KL, et al. A review of current theories and treatments for phantom limb pain. J Clin Invest. 2018;128(6):2168-2)

実は、このような幻肢感覚・幻肢痛に似たようなメカニズムは、慢性疼痛患者でも報告されています。例えば、膝関節に触れているだけなのに、膝と足を同時に触られているような感じがするという訴えをする方がいます。これは「Referred sensation」と呼ばれるもので、これにも脳内の体部位再現が関与することが報告されています。このように、身体的な痛みの情報を識別する体性感覚野に異常が生じると、痛みの問題だけではなく体性感覚処理にも問題を生じることになります。

非常に臨床的で実践しやすい面白い研究をご紹介します。骨折後の患者に、閉眼でどの指を触られているかを識別してもらうFinger Perception(FP)というシンプルな課題を行なってもらうというものです。そうすると、急性期に識別が不良(精度・時間)であった患者ほど、慢性痛やCRPSに移行しやすいという結果が得られたのです。シンプルで、実践しやすい課題なので、私は四肢に問題のある患者さん(術後・外傷後など)には、このテストを必ず実践するようにしています。詳細については以下の論文をご参照ください。

Kuttikat A, Shaikh M, Oomatia A, Parker R, Shenker N: Novel Signs and Their Clinical Utility in Diagnosing Complex Regional Pain Syndrome (CRPS): A Prospective Observational Cohort Study. Clin J Pain 33: 496-502, 2017

ちなみに、第2趾を触れられているのに、第3趾を触れられている感じがするというのは私だけではないはずです。その昔、ロングバケーションというドラマの中でキムタクと山口智子がこのくだりをしているのを高校生時代にテレビ越しで見て憧れたものです(笑)さて、次回は情動的側面に着目して、トピックスをお送りしたいと思います。

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