田中創の痛みコラム 1-(3)痛みの捉え方の変遷

  1. 痛みの捉え方の変遷 (3) 痛みの捉えかたの変遷

1. 痛みの捉え方の変遷

(3) 痛みの捉えかたの変遷

〜近年の痛みの捉えかた〜〜近年の痛みの捉えかた〜

前回のコラム(1-2)でもご紹介しましたが、痛みは主観的要素が大きいため、外部からその程度を測ることが困難とされてきました。しかし、近年Positron Emission Tomography (PET) やSingle Photon Emission Computed Tomography (SPECT)、Functional Magnetic Resonance Imaging (fMRI) などのニューロイメージング法が発展したことにより、脳における様々な機能的局在についての理解が進歩し、運動器の痛みの要因を客観的に捉えることができるようになってきました。

痛みの部位(表層と深層)における特徴について

運動器疾患では、表在性 (皮膚) の痛みや筋・関節などの深部組織に生じる痛みなど、様々な痛みの訴えが聞かれます。表在性の痛みは刺激に対する反応が明瞭なため比較的痛みの部位を限局しやすい特徴がある一方で、深部で感じる痛みは、痛みの局在が曖昧なことが多いです(痛みを感じた時にどこが痛いのかがはっきり分からない)。

このような痛みの部位による違いについて、私が在籍する愛知医科大学大学院の牛田先生らのグループがfMRIを用いて過去に興味深い研究をしています。表在性の痛みとして下腿皮内への侵害刺激を、そして深部の痛みとして前脛骨筋内への侵害刺激をそれぞれ加え、その時の脳活動をfMRIで比較しました。すると、刺激されている時に経験した痛みの強さはどちらの痛みでも同程度であったにも関わらず、深部で感じる痛みのほうが「島」の活動が有意であったことが分かっています(図1)。



図1. 表在性の痛みと深部(筋肉)の痛みの脳の局在の違い
(Ikemoto T, Ushida T, et al.: The difference of brain cortical activation between superficial pain and deep pain. PAIN RESEARCH, 21:117-125, 2006.より引用)

痛みと心の関係性

脳の機能局在については、次回以降のコラムで取り上げていきますが、島は痛みの情報の中でも情動的側面(痛みによって出てくる不安感や恐怖心などの感情)を司る部位と言われています。つまり、深部で感じる痛みの体性局在が不明瞭である一因として、痛みによって出てくる不快感などの情動的側面が影響していることが考えられます。

このことは、痛みを捉えていく上では身体と心の問題を切り離して考えることはできないという事を、ほんの一例ですが指し示していると思います(今後、このあたりのトピックスは別で取り上げていきたいと思います)。そもそも、急性痛と慢性痛では、働いているメカニズム自体が違うため、評価・治療のターゲットが変わってきます(表1)。


表1. 急性痛と慢性痛の違い
(柴田政彦:厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/12/dl/s1210-5e.pdfから引用)

臨床で痛みと向き合う上で大切な事とは

このような背景からも、慢性痛(を持つ患者さん)をみていく場合には包括的な視点を持つことが重要となります。ただし、私たちが痛み(を持つ患者さん)と対峙する際に注意しなければいけないことは、こちらの主観で相手の痛みの要因を客観的に決めつけないということです。

国際疼痛学会によると、慢性痛の定義は「器質的な損傷が無いor治ったにもかかわらず、3ヶ月以上持続する痛み」とされています。しかし、実臨床では、そのような3ヶ月以上持続する痛みを有していても、メカニカルストレスを減らすことで、その場で痛みが改善するような患者さんもいます。

逆に、急性痛の場合でも、術後や損傷後の精神心理社会的要因(破局的思考や恐怖心など)が痛みを増悪させていたり、動きの変動性を制限したりすることもあります。

つまり、知識として痛みのことを学んでいても、それが目の前にいる患者さんに適用できるかどうかは別問題のため、実臨床の場面でこそ包括的な視点を持って患者さんに対峙することが重要だと感じています。近年では、精神心理社会的側面の問題がクローズアップされることが多く、実際にそれらが大事なことは言うまでもありませんが、精神心理社会的要因「が」大事というより、精神心理社会的要因「も」大事という幅広い視点を持って臨床には臨みたいものです。

次回からは、痛みの伝導路について触れていきたいと思います。

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