田中創の痛みコラム 1-(2-1)痛み治療の歴史 1960~70年代

今回は,1960~70年代の痛みに関するトピックスについて取り上げていきたいと思います。

1960年代には,MelzackとWallにより「Gate control theory」が提唱されます。これは疼痛抑制に関する理論で,その後,多くの誤りがあることが分かったものの,その当時としてはとても斬新な理論でした(図1)。その後,このゲート・コントロールセオリーは,脊髄後角の侵害受容ニューロンの研究や鎮痛のメカニズムの検証の発展に大きく貢献しました。

図1. ゲート・コントロールセオリー(Melzack & Wall, 1965)
L:太い神経線維 S:細い神経線維 SG:膠様質 T:中枢伝達細胞 +:興奮 −:抑制

1970年代になると,前回の記事の中でもご紹介した国際疼痛学会(IASP: International Association for Study of Pain)が設立されます。この学会の設立により,痛みの学問的な側面は大きく飛躍していきます.同年代には,Perlらにより侵害受容器の「感作」という概念が提唱されました。Perlらは,侵害刺激に対して特異的に反応するニューロンが脊髄に存在することを報告しました。これは「末梢性感作」と呼ばれるもので,侵害受容器の感受性の亢進などにより,通常では痛みの刺激になりえない刺激であっても痛みとして感じてしまう現象のことを指します。最近の研究では,組織の損傷により炎症が生じると,その20分後には脊髄後角の性格的変化がはじまることも報告されています。

また,1970年代にはBasbaumやFieldsによって「下行性疼痛抑制系」の概念が提唱されました。下行性疼痛抑制系とは,脳幹部から神経線維が脊髄後角に下行し,そこで痛みの伝達を遮断するというシステムです(図2)。ノルアドレナリンやセロトニン,GABAやドパミンといった伝達物質が関与しています。下行性疼痛抑制系はオピオイドだけでなく,精神的興奮,精神的集中,恐怖などでも作動することが知られています(極度に興奮状態にあると痛みを感じない…など)。


図2:下行性疼痛抑制系

痛み刺激は,DRG の小型ニューロンと外側脊髄視床路などの痛覚伝達 系により上位脳に伝達される.前帯状回(ACC)・島皮質(IC)・扁桃体(Amy)などの興奮は,視床下部や中脳中心灰白質(PAG),背外側橋被蓋(DLPT),吻側延髄腹内側部(RVM)など に伝わる。DLPT からは NA 作動性の投射が,RVM からは 5-HT 作動性および非 5-HT 作動性 の投射が脊髄後角に至り,疼痛の抑制あるいは増強に働く(下行性疼痛調節系)。

引用文献)
仙波恵美子:ストレスにより痛みが増強する脳メカニズム. 日本緩和医療薬学雑誌(Jpn. J. Pharm. Palliat. Care Sci). 3: 73-84: 2010より引用

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